表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/3387

1.1-17 村11

次の日の朝。


この日、ワルツとルシアの2人は、狩りには出かけず、朝の太陽が上っても酒場の中にいたようだ。

……もちろん、サボっていたわけでも、昨晩に飲酒して酔いつぶれていたわけでもない。

昨日だけで、この村――”アルクの村”全体の2か月分の消費量にも及ぶ大乱獲があったために、しばらくは狩り出かけなくても良くなったのだ。

むしろ、これ以上狩ると、近くの森から魔物たちが居なくなる――どころか、森自体が消滅する可能性があったので、狩人からストップが掛かった、と言うべきか。


というわけで。

酒場の店主に用意してもらった一室で、少し遅めに眼を覚ました(?)ワルツとルシアは、顔を洗って目を覚ますために、酒場の外にあった井戸へと足を運ぶことにしたようである。


そして、その帰り道。

昨日精錬して、冷却するために酒場の裏口の影で放置していた金属の塊の姿が、2人の眼に入ってきた。


「……あ。本当に鉄だ……」


鈍い光沢を放つ金属を前に、思わず立ち止まって、見入るルシア。

それから彼女は、恐る恐ると言った様子で、金属を指先で突き始めた。


「温かい……?」


「まだ完全には熱が抜けてなかったのかもね」


積み重ねて置いてあった棒状の金属塊は、一つ当たり10kg程度の重さに調整された鉄のインゴットだった。

そこには、赤い色をした鉱石だった頃の面影は残っておらず……。

まさにこう表現しても言いような雰囲気を纏っていたようだ。

――すなわち、錬金術の賜物だ、と。


ちなみに、それぞれのインゴットの表面には、ワルツがふざけて書いた”100t”という文字が残っていたのだが……。

このことが後に一波乱を巻き起こすことになるとは、ワルツもルシアも予想していなかったようである。


「今日あたり、商隊の人たちが来ると思うんだけど……」


「大丈夫かなぁ?売れるのかなぁ?」


と、黒く輝くインゴットの表面を撫でながら、心配そうな顔をワルツへと向けるルシア。


それについてはワルツも同じで……。

表には出さなかったが、彼女も心配していたようである。


……尤も。

ワルツの場合は、売れるかどうかではなく……。

自身がうまく商隊に話しかけられるかどうかを案じていたようだが。



それから酒場に戻った2人を待ち構えていたのは、美味しそうな匂いを漂わせる、酒場の店主自慢の朝食であった。

その匂いを具体的に例えるなら――焼肉の香りである。

どうやら今日の朝食には、ワルツたちが狩ってきた魔物たちの肉が、ふんだんに使われているらしい。


そんな匂いを嗅いで、お腹の虫をグーグーと鳴らしながら、ワルツたちが食堂に入って行くと……。

そこにいた酒場の店主が、彼女たちのことを待ち構えていたかのように口を開いた。


「おはよう。嬢ちゃんたち」


「「おはようございます。店主さん」」


「で、早速、一つ聞きたいんだが……嬢ちゃんたち、実はどっかの偉い人だったり……しないよな?」


大量の薪割り、獲物の大乱獲、鉄の精錬などなど……。

酒場の店主には、ワルツたちが普通の少女たちには見えなかったようである。


そんな店主の問いかけに対し、2人は揃ってこう答えた。


「いえ。日々の生活に困窮していた単なる難民です」

「えっと……難民です!家、無いです!」


「いやいや、簡単に魔物を乱獲できるんだから、難民とは言わないだろ……」


と、2人の言葉を聞いても納得が行かない様子の店主。


そんな彼に対し、ワルツたちは、にっこりと笑みを浮かべると、追加でこう口にする。


「では、お察しください」

「えっと……お察しください!」


便利な言葉”お察し”。

何か問題があれば、とりあえず適当に”察してもらう”に限る……。

ワルツたちは、自分たちの身分を正確に説明できなかったためか、”お察し”という言葉でこの窮地(?)を乗り切ることにしたようだ。


幸い、店主は、その言葉の副音声が分かる人物だったらしく――


「……わかったよ。ま、嬢ちゃんたちが誰であったとしても、俺としては別に構わんがな」


それ以上の追求を止めることにしたようだ。

おそらくは、ここで下手に追求して、村の貴重な働き手(?)を失わないようにしよう、とでも考えたのだろう。


「ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます!」


と、礼の言葉を口にしてから、嬉しそうに朝食の席へと着く2人。

そして、彼女たちは、今日も美味しそうに、朝の食事に舌鼓を打ったのである。


ところで。

なぜ彼女たちは、今朝になって、店主に事情を追求されたのか。

本来なら、昨晩の内に、追求されてもおかしくなかったはずなのに、である。


実は、昨晩は、酒場に帰ってくるや否や、ルシアが魔力の使いすぎで、夕食を摂る前にダウンしてしまったのである。

ワルツもそれに付き合ったために、2人とも夕食を摂らなかったので……。

狩りの結果が店主の耳に入ったのは、酒場に客としてやって来た狩人の報告が一番最初になってしまったのだ。

そのときには当然、ワルツたちは寝ており……(?)。

前日の質問が、翌日に持ち越されてしまった、というわけである。


ちなみに狩人は、深夜に来てから、朝方近くまで飲み続けたのだとか。

その際、彼女は――


『私の人生……一体、何なんだろうな……』


と仕切に口にしては、頭を抱えていたようだが……。

それに対し店主が的確な助言を与えられたかどうかは不明である。


そんな彼女は、今朝も1人、狩りへと出かけていったようだ。

例え心に大きな傷を負ったとしてもやめられないほどに、狩りが好きなのかもしれない……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ