1.1-16 村10
専門的な話になって申し訳ないのじゃ……。
「燃えてないのに……木が真っ黒になっちゃった……」
「えぇ、まぁ、木炭作ってたからね」
「ふーん……炭って、こんな風に作っても出来るんだね?」
と、真っ黒になって、かなり縮んでしまった大木へと、感慨深げな視線を向けるルシア。
そんな彼女の頭の中では、まさか本当に炭が出来るとは思っていなかったようだ。
「……うん、このくらいでいいでしょ。もう魔法を止めてもいいわよ?」
「わかった……」
「……もしかして、納得いかない感じ?」
「んー、良く分かんない……。だって、前に炭を作ってる所を見たことあるけど、あのときは大きな窯の中に木を詰め込んで、そこに火を入れて燃やして作ってたよ?それに空気も遮ってなかったし……熱かったし……。でも、この炭はぜんぜん違う作り方だったから……やっぱり、良く分かんない……」
「そう……大小の違いはあるけど、窯の中で起こっていた現象も、ルシアの眼の前で起った現象も、まったく同じものなんだけどね」
「えっ……?」
「細かいことを言い始めたら、止まんなくなっちゃうから省略するけど、窯の壁って外から入ろうとする空気を遮る役割もしているのよ。で、その中いっぱいに木を詰め込むじゃない?すると尚更、中央部分は空気の入りが悪くなるのよ。あとはそれを加熱して、蒸し焼きにすれば……まぁ、今ここで起こってた現象と同じことが起こる、ってわけ」
「ふーん……」
と、ワルツの説明を聞いて、分かったとも分からなかったとも、どちらとも言えない反応を見せるルシア。
するとワルツは、そこにあった赤い石を持ち上げると……。
それをルシアの方へと向けながら再び口を開いてこう言った。
「まだ作業は終わってないわよ?木炭を売るわけじゃないし……」
「あっ……そうだったね」
「木炭を売ってもいいかもしれないけど、利益は下がると思うから、鉄を作りましょ?」
「うん。錬金術を使うの?」
「そうね……多分、錬金術って言って良いわね」
ワルツはそう言ってから、頷くと。
手に持っていた赤い石だけでなく、採掘した石を大量に宙へと浮かべて……。
そして、それら同士を――
ドガガガガガ!!
と、ぶつけ始めた。
「?!」
「あー、これ?今、粉々にしてるのよ。大きい石ころのままだと、還元にムラが起こりやすくなるから……って、”還元”って言われても分かんないわよね……」
「うん……」
と、ワルツの問いかけに対し、どこか残念そうな表情を浮かべながら首肯するルシア。
どうやら彼女は、自身の理解が、ワルツの説明について行けていないことをもどかしく感じていたらしい。
するとワルツは、それを察したのか、ルシア対してこれ以上、詳しい説明をせず。
その代わり、出来上がった木炭を鉄鉱石に混ぜて、それも粉々にしながら、彼女に対しこう言った。
「まぁ、論より証拠よ?後はこれを加熱すれば、鉄が出来上がるはずだから」
「えっ……」
「ほら、やってみて?」
「う、うん……」
「思っきりでいいわよ?(熱容量大きいし……)」
「じゃぁ、いくね?」
そして、ルシアは納得できなさそうな表情のまま、その両手を宙に浮かんでいた赤黒い粉へと向けると――
ドゴォォォォォ!!
と、再び、猛烈な勢いで加熱し始めた。
そう、猛烈な勢いで、である。
「ふぬぬぬぬ…………!」
「まだもう少しね。鉄だから、そう簡単には溶けないわよ?」
「むむむむむ…………!」
と、顔を真赤にしながら、赤熱する粉へと、火魔法を行使するルシア。
しかし今回も彼女に対し、熱が伝わって来ることはなく……。
どうやらワルツが真空の壁を作り出して、熱を遮っているようだ。
それから数分の後、粉の色が、赤を通り越し、真っ白に近い色へと変わったところで……。
今ではどろどろに溶けていたその眩い液体の様子を眺めながら、ワルツはルシアに対し、こう言った。
「もう良いわよ?」
「ぷはぁ…………疲れた……」
「はい、おつかれさま。それじゃぁ、ここから先は、私が最後の工程をするわね?」
それからワルツは、真っ赤になった液体に対して、重力制御システムによる力場を掛け始める。
具体的には縦に液体を伸ばして、それに対し――
「こう、ぎゅっ!」
と、超重力を縦方向に印加する、というものであった。
その結果、棒状になった液体の見た目に、小さな変化が訪れる。
「……あれ?さっきまで真っ白だったのに……急に色がついた?」
そんなルシアの言葉通り、液体の上部と下部とで、その明るさが異なっていたのである。
最上部は少し黒ずんだ白。
そして中央部は真っ白で……。
下部は明るい赤色や、暗い赤色などに分かれて、まるで縞模様のようになっていた。
どろどろに溶けた鉱物に対し、ワルツは一体何をしたというのか。
……超重力を使って、成分の分離を行ったのである。
鉱物を還元させた後で鉄の純度を上げるには、酸素を吹き付けるなどして不純物を酸化させて取り除く、というのが一般的な方法だが……。
重力を自由に操ることのできるワルツにとっては、ただ大きな重力を掛ければ終わる単純作業だったようだ。
「これを小分けにして……」
色が異なる部分を、それぞれ抽出し、その言葉通りに小分けにしていくワルツ。
その際、最も割合の多い部分は、重力の力場を使った鋳型に流し込んで……。
いわゆる、インゴットの形状に変形させていく。
それを積み木のように重ね終わって――
「あとはこの残った部分は……まぁ、適当な感じでいっか……。はい、完成!」
そしてワルツがそう口にした瞬間だった。
ブワッ!!
「熱っ?!」
金属を取り囲んでいた真空の壁が無くなったためか、溶けた金属から漏れ出た膨大な熱量が、周囲の空間へと放出されたのだ。
そのせいで、周囲の気温が急激に上がり、ルシアは思わず驚いてしまったようである。
「ごめんね、ルシア。大丈夫?」
「大丈夫だけど……空気がないと熱が伝わってこないって、本当だったんだね……」
「ウンチクを説明するより、身を持って体験したほうが分かりやすいでしょ?」
「うん……。これが……鉄なの?」
「えぇ、鉄よ?まだ熱いから光っていてよく分かんないけど、冷えたら鉄っぽい色に変わるから、その時になったら実感が湧くと思うわ?」
「そっかぁ……ちょっと楽しみかも!」
「まぁ、冷えるのに時間がかかるから、触れられるようになるのは……多分、明日の朝になるでしょうけどね」
そんなやり取りをしながら、まだ熱い金属を宙に浮かべて、そして酒場に向かって歩き出す2人。
その際、ルシアが、宙に浮いていた金属に好奇の目を向けながら首を傾げていたところを見ると……。
やはり彼女には、ワルツが何をしていたのか、よく分からなかったようである。
おそらくは、すべて錬金術だった、と思うことにしたのではないだろうか。
なお、言うまでもないことかもしれないが、ワルツの作業に”錬金術”は一つも使われていない。
すべては彼女の知識にあった”科学”である。




