1.1-14 村8
ルシアの魔法によって開いた大きな穴。
それは、表面がデコボコな洞窟とも、道路でよく見かけるカマボコ型のトンネルとも違い……。
前から見ると綺麗な円形型をした、大きな穴だった。
巨大なドリルで削ったような大穴である。
そんな穴の内側は、表面が補強されているわけではなかったので……。
所々、脆い部分が落下したり、湧水で水浸しになったりしていたようである。
このまま何の対策もせずに穴蔵の中へと入ったなら、いつ崩落に巻き込まれてもおかしくない、と言えるだろう。
それを見たワルツは、ある行動に出た。
トンネルの表面に、重力制御システムを使って、外向きに1Gの力場を形成したのだ。
つまり、トンネルの壁は、それ自体が外側へと落ちていこうとするので、内側への崩落を防げる、というわけである。
ちなみに。
その影響で、トンネル内では、一つ、変わった現象が起っていたようだ。
「うわっ、すごい!壁に立っても落ちないよ?!お姉ちゃん!」
そう。
壁から垂直に立って嬉しそうな声を上げるルシアの言葉通り、重力に逆らって壁や天井に立つことが出来たのだ。
「まぁ、壁にそういう魔法……みたいなものをかけたからね。ちなみに天井にも立てるわよ?」
「うわっ。本当だ!」
「でも、ジャンプしたり穴から出たりすると、効果が切れて、頭から落ちるから注意してね?」
「えっ……」
と、驚いたような表情を浮かべて、天井でしゃがみ込むルシア。
そんな彼女の顔が青かったところを見ると……。
今まさに飛び跳ねようとしていたのかもしれない。
その後も、似たようなやり取りをしながら、トンネルの奥へと進んでいくワルツとルシア。
ワルツが重力の力場で安全を確保しつつ、歩くのに邪魔だった岩を退け……。
そしてルシアが火魔法を使い松明のように辺りを照らしつつ、風魔法を行使して換気を行う……。
そんな、息の合った作業を繰り返しながら、目的の鉱脈があるところまで、2人は足を進めていった。
そして、洞窟の突き当りまでやって来ると。
彼女たちの目に入ってきたのは、辺り一面が真っ赤に染まる壁――縞状鉄鉱床だった。
今回、ワルツが地中探査レーダーを使って目星を付けていた鉄鉱床である。
ワルツはそれを少し削って手に取ると、その成分を確かめ始める。
具体的には、見えないレーザー光を使った分光分析だ。
その結果……
「うん。間違いなく鉄鉱石ね」
ワルツは満足げに首を何度か縦に振りながら、そう口にした。
「これを製錬して商隊に売りつけようと思うんけど……」
「どこからどう見ても、真っ赤な石ころにしか見えないけど……(売れるのかなぁ……これ……)」
見た目はただの赤い岩。
それが光沢を帯びた鉄に変身するとは、ルシアとしては、どうしても、信じられなかったようだ。
だが、それは、紛れもなく鉄鉱石の塊。
酸化した鉄が多く含まれていた赤鉄鉱である。
あるいは、サビの塊、とも言っても良いかもしれない。
現代世界においても、鉄製品の大部分が、赤鉄鉱を原料に作られており、高炉や転炉などを使って、高純度の鉄が生産されていたりする。
おそらくは、この世界にある鉄製品も、同じ鉱石を利用して作られていることだろう。
とはいえ、その精錬方法は、地球の歴史がそうだったように、門外不出のはずだが。
「このままでも、買う側に知識と技術があって、かなり量があれば売れるかもしれないけど……まぁ難しいでしょうね。だから、この石をピカピカの鉄に変えて売ろうと思うのよ」
「お姉ちゃん……それって、もしかして……錬金術?」
「まぁ……そうね。そう言っても良いかもしれないわね」
と、地球の歴史を思い出しながら、そんな曖昧な回答を口にするワルツ。
それから彼女は、ルシアに気づかれないように、透明になっていた機動装甲の腕だけをそっと浮遊させると……。
ダイヤモンドなどとは比べ物にならないほど硬い材質でできたその指先を、鉄鉱床でできた岩へと突き立てて……。
そして彼女は、岩に向かって怪訝な表情を浮かべていたルシアに対し、こう言った。
「それじゃぁ、がっつり掘っていくわよ?」
その瞬間である。
ドゴォォォォォ!!
硬いはずの岩が、まるでボロボロと崩れ落ちる脆い土壁のように、削れていった。
ワルツが機動装甲の腕に力を加えて、鉄鉱床を掘り始めたのである。
それを見て――
「なんか……すごい……」ごくり
理解できない現象が目の前で起こっていたためか、思わず息を飲んでしまうルシア。
そして彼女は、大きな音が鳴り響くその洞窟の中で、こんな言葉を呟くのである。
「お姉ちゃん……理不尽だよね……」ぼそっ
「ん?何か言った?」
「ううん。なんでもないよ?」
ルシアはそれだけ言うと、再び観察に戻ってしまったようだ。
それからも彼女たちの眼の前では、大量の鉄鉱石が、巨大な重機に削られるかのように採掘されていき……。
そして削り出された鉱石は、ワルツの重力制御システムの力場によって運ばれ、まるでベルトコンベアのように外へと運び出されていったようである。
そんな光景すらも、ルシアにとっては非常に興味深いものだったようで……。
彼女は目を輝かせながら、宙に浮いた鉄鉱石を指先で突っついて遊んでいたようだ。




