-10.4-16 時間16
「なんで泣いてるの?(ここに来てホームシック?いや、まさかね?じゃなきゃ、ルシアの転移魔法が怖かった?それも違うわよね……)」
"勇者"と認定されたエンデルス少年が、なぜ泣いているのか……。ワルツにはその原因が思いつかなかったようだ。
しかし、エンデルス少年は、意味も無く泣いていたわけではなかった。彼の涙の原因は、彼自身ではなく、手に持っていた卵の方にあったようだ。
「割れちゃった……」ぐすっ
というエンデルス少年の言葉通り、彼が持っていた卵には、縦に小さなヒビが入っていたのだ。
ワルツはそれを見て、こう口にする。
「それってまさかとは思うけど……まぁ、とりあえず、抱えてないで、そこの藁の上に置いた方が良いと思うわ?そのあとで、大丈夫かどうか判断してみましょ?」
「うぅ……」ぐすっ
と泣きながらも、ワルツに言われたとおりに、卵を馬小屋の藁の上に置くエンデルス少年。
その直後の事だった。
カリッ……
卵の方から何か薄い壁を引っ掻くような音が聞こえてくる。
そのことに最初に気付いたのは、ワルツだった。
「よかったじゃない。中身、生きてるわよ?」
「ほ、本当に?」
「だってほら、耳を澄まして聞いてみてよ?」
「う、うん……」
カリカリッ……
「…………!生きてる!」
その瞬間、ぱぁっ、と明るくなるエンデルス少年の顔。それを見ていたワルツやルシアも、思わず頬をほころばせたようだ。
カリカリカリッ……
「これ、出てくるまでに、どのくらいかかるの?」きらきら
「そうねぇ……長くて1日いっぱい、早くても30分くらいかかるんじゃないかしら?1日たっても殻が割れないようだったら、手助けしてあげなきゃならないけど、でも基本的には手出し無用よ?無理に割ったら死んじゃうこともあるんだから(ただし、ニワトリの場合は、だけどね?)」
「うん……分かった!何がうまれてくるかな……」
「(なんかこのエンデルス、幼児退行してない?まぁ、元の年齢が年齢か……)」
直前まで泣いていたかと思えば、今度は嬉しそうな表情を見せるエンデルス少年。そんな彼の様子にワルツは色々と言いたいことがあったようだが、とりあえずそのすべてを飲み込むことにしたようである。
するとそんな折。ルシアがワルツに問いかける。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?」
「アイテムボックスを埋めるっていう話、どうする?あと、牢屋で捕まってた人たちのことも……」
「アイテムボックスの方はシルビアたちを待たせるわけには行かないから……まぁ、私とルシアで、無理矢理やってくるしかないでしょうね。問題は……エンデルスとか、卵とか、捕まっていた人たちとかをこのままここに放置するわけにはいかない、ってことかしら……。特に、最後」
そんなワルツの言葉を聞いた直後——
「あ、そうだ!」
——ルシアは何かを思いついたようである。
「アレクサンドラさんたちをここに呼んだらどうかなぁ?」
「あ、いいわね?それ。でも…………あれ?」
「うん?」
「じゃぁ、アレクサンドラの故郷ってどこなのかしら?私はてっきり、サウスフォートレスかと思ってたけど、さっきまでこの場所には、サウスフォートレスの"サ"の字も無かったし……」
「でも前に聞いた話だと、アルクの村の方が昔からあるって…………うん?ということは、アレクサンドラさんって、まさか……」
「……ルシア?余計なことは考えちゃダメよ?頭が混乱するだけだから」
「う、うん……確かにそれは言えてるかも……」
「だけど、アレクサンドラが"魔王"たちと一緒に暮らしていた可能性は無視するわけにはいかないわよね……。つまりそれって、彼女がやって来たとき、ここに見たことのあるお城——の廃墟が建ってたら、驚いちゃうって言うか……怒っちゃう可能性もあるし……」
と、ワルツが口にしたところで——
「じゃぁ……魔法で町を作っちゃおっか?」
——ルシアがいつも通り、とんでもないことを言い始めたようだ。
◇
そして2人だけでなく勇者レオナルドたちとも相談した後。ワルツたちは、倉庫と思しき場所に座り込んでいた人々のところへとやってきた。
ワルツたちのことを見た人々の反応は、大体似通っていて……。突然、土下座をする者。頭を深々と下げる者。うつ伏せに五体投地する者などなど……。一部には失禁する者までいたようである。
「「何これ……」」
ワルツとルシアが唖然としていると、土下座をしていた老人が事情について話し始めた。
「ま、魔神様方とは知らず、ご無礼を働きまして、誠に……誠に申し訳ございませんでした!どうか……どうか家族の命だけは、お救い下され……!」
「いや、まだ何もされてないし、する気もないし……っていうかそもそも魔神じゃないんだけど?」
と返答しても、頭を下げたまま「ははぁー」としか返さない人々。直前のワルツたちの行動————空を自由に飛び回っていた上、城の敷地ごと遠方に転移させたことが、人々の目にどう映ったのか……。どうやらワルツは、この瞬間を経ても、そこまで考え至らなかったようである。いや、努めて考えないようにしていたと言うべきか……。




