第14話 整えておくと、冬はただ待つだけです
本格的な冬が来た。
朝の確認で、老執事が薪台帳を開いた。
先週の消費量が予測値とほぼ一致している。
残量は今後2ヶ月分を超えている。
「順調ですね」
「はい。先の冬でしたら、この時期に足りるかどうか分からないまま使っていたのですが」
「今は見通しが立ちますから」
「……大変、楽になりました」
老執事が少し間を置いてから、もう一度うなずいた。
前世では冬になるたびに、会社の暖房が弱かった。
節電という名目だったが、あれは単純に設備の管理ができていなかっただけだと今でも思う。
コートを着たままデスクに向かう冬が何年も続いた。
ここの廊下は、どこも均等に暖かい。
薪の計画があるから、部屋だけ暖かくて廊下が凍えるということがない。
◇
午前中、フェルドが短い報告に来た。
「霜が降りはじめましたので、花壇の端の低木に藁を巻いておきました」
「ありがとうございます。自分でできましたか」
「これくらいは問題ありません。腰も今日は調子がいい」
「無理しないでください」
「はい」
フェルドはそれだけ言って帰った。
部屋に戻ってから、少し窓の外を見た。
庭の低木は、藁を巻かれてこんもりしている。
春まで、あのまま眠る。球根はまだ土の中にもない。
フェルドが春になったら入れると言っていた。
冬の庭は、次の季節のための準備をしているだけだ。
◇
昼過ぎに老執事が封書を持ってきた。
「王城第四棟の文官より、再度の書面でございます」
受け取って開いた。
前回の返書への礼と、もう少し詳しく話を聞きたい、直接伺ってよいかという内容だった。
書面に書いてあることは送った。
それでもまだ来たい、ということは、書面だけでは整理しきれなかったのだろう。
ページ番号を示すやり取りをもう1回繰り返すより、30分で片付けた方が早い。
「来訪を受けます。条件を2つ。時間は30分、事前に質問を3点以内にまとめて持参すること」
「……その旨を返書に?」
「はい」
老執事がメモをとった。少し迷ってから言った。
「条件をつけて失礼にはなりませんか」
「最初から時間と議題が決まっている方が、相手も準備しやすいです」
老執事は「……なるほど」と言って、出て行った。
前世でよくあった「とりあえず集まりましょう」という打ち合わせが、どれほど時間を食っていたか。
議題なし、時間なし、ゴールなし。それでも誰も何も言わなかった。
こちらが条件を出せば、相手は整理して来る。
整理してきた相手は話が早い。
◇
夕食は根菜の煮込みだった。
料理長が「寒くなってきたので」と言いながら出してきた。
大根と人参が柔らかく煮えていて、体が温まった。
「おいしいですね」
「ありがとうございます、殿下。冬の根菜は甘みが増すんですよ」
料理長が嬉しそうに教えてくれた。
食材の話を聞きながら食べると、なんとなく食事が長くなる。
それはそれで悪くなかった。
夕食のあとに、ルナが手紙を持ってきた。
「王城から届いておりました。王太子殿下より」
封を切ると、短い文が書いてあった。
『春になったら庭の様子を見に行く。花が咲いていたら見てもいい。フィリアン』
私は封書を閉じた。
「何か書いてありましたか」
ルナが気にしてのぞいてきた。
「春に来ると」
「また来訪されるんですか」
「そのようです」
「花が咲くといいですね」
「……さあ、どうでしょう」
フェルドはまだ球根を選んでいない。
土が直ってから決めたいと言っていた。
何が咲くかは、春にならないと分からない。
咲くかどうかも分からない。
それでも、フィリアンが来ると言っている春がいつかは来る。
その頃に、庭がどんな様子になっているか。
少し気になった。
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