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君は悪魔の成り損ない  作者: ヨダカ
円舞曲
35/53

朝の知らせと夜の知らせ

王国アラムのある一室で、会議が繰り広げられていた。

「何時だ」

「もう少しのはずだ」

「もう少しって、まだ一ヶ月もあるだろう。だというのにガリヤ城を壊してしまって。勘付かれたら終わりなのだぞ」

リビアは頭を下げた。

「誠に申し訳ございません」

「まあ、良いがね。神が言っておられるのだ。許せと」

男は席から立ち上がった。

「神は、いつも美しい。何故って、人智を超えているからだ」 

リビアは冷めた目で男を見ていた。この男は何を言っているのだ。そんなものは、所詮白昼夢のような熱を帯びた妄想だ。

「美しい。私にはよくわかりませんね」

「解らぬか。お前にとっての…そうだな、炎の魔女のようなものだ」

その瞬間、リビアに衝撃が走った。

そうか。

イミカは神様なのか。

神様とはそんなにも美しいのか!

「す、凄い」

震えるリビアを見つめながら、男は微笑んだ。

「そうだろう。神様は美しいものだ。まるで繊細なガラス像のようにな」


「と、いうわけだイミカ」

椅子に縛り付けられ、イミカは震えていた。

「ど、どういうことですか」

「君は美しいということだよ」

イミカの顔がほころんだ。リビアはこめかみに汗が滴るのを感じた。

「そしてね。残念ながら私は、その美しい、綺麗なものを穢すことに、愉悦を覚えるらしい」

イミカの表情が絶望に染まった。これから起こることをやっと察したのだ。

「さて、今回君が犯した罪を数えようか」

リビアは指折り数えた。

「騒ぎを起こした、情けをかけた、逃げる灯葉を追わなかった、私に加勢しなかった。四つだ。どれもこれも大罪だ」

リビアはつい微笑んでしまった。

「そして」

「罪と罰は常にセットだ」

イミカの顔から血が引いていった。それを見てリビアは快感を覚えながら、ぎざぎざのついた刃物を取り出した。

…いや待て。

リビアはケデロの言葉を思い出していた。

私はイミカに、私の理想のイミカ像を押し付けている…?

…。

……。

「取り敢えず、悪い四肢は切り取ってしまおうか」

「…え?」

イミカは慄然とした。今までの拷問は、ゆっくりと過激さを増していったのだ。そして最終的に目を潰されたりする。

しかし今回は違う。

「そしてその後は頭をじっくり八十度程で煮てあげよう。それに飽きたら、油で煮殺してあげよう」

イミカはそれを聞くと、半狂乱で自由な足をばたつかせた。

「そんなに暴れないでくれイミカ…」

炎の縄が、イミカの足を縛った。イミカが普段扱う炎とは、比べ物にならない温度だった。

「あぁっ!やめて、やめてくだざいリビア様!もうやらないがらもう止め」

泣きながら叫ぶイミカの口に、問答無用に炎の玉が突っ込まれた。それは正真正銘の炎であり、炎が布状に変化したものであった。涙を零すことしかできなくなったイミカを撫でながら、リビアは愛おしげに笑った。

「イミカは熱いのが好みなんだね。覚えておくよ」

頬に軽いキスをすると、リビアは刃物を持った。

次の瞬間、カランカランとインターホン代わりのベルが鳴った。

リビアは不快な表情で扉を睨むと、再度イミカの頬に口付けをし、泣くイミカを放置して扉を閉め、玄関へと向かった。


「何でしょう」

「計画の実行まで、残り一ヶ月となりました」

「そうか。良かったな」

リビアは素っ気なく答えた。

「それと、一つお土産があるのです」

従者は包から何か飾りのようなものを取り出した。

「なんだそれは」

リビアはそれを受け取った。金の鎖に小さい宝石が付いた、手のひらサイズの何かだった。飾りだろうかとリビアは思った。

「ピアス、というものです。異世界に存在しているもので、耳に穴を開けて付けるそうです」

従者は苦々しく笑った。 

「しかし、自分の耳に穴を開けなければいけないんですね。私は、そんな痛そうなこと出来ませんが。取り敢えず飾っておくだけでも充分綺麗かと。それではこれで失礼します」

従者は歩いて去って行った。

リビアは暫くピアスという聞き慣れない言葉のものを見つめていた。


「イミカ」

イミカはリビアが応対している間にも、焼け付く炎で苦しんでいた。

「〜〜…」

「どれ、解放してあげよう」

炎は一瞬にして消えた。リビアの肌は溶けてぐちゃぐちゃになっていた。

「はひゃふや…」

「フフ、大丈夫。口の火傷も直してあげよう」

リビアは自分の指先を噛みちぎり、血を流した。それをイミカの口の中に滴り注いだ。

「ふぁ…有難う御座います…」

イミカは泣きべそで感謝を述べた。リビアはピアスを取り出した。

「イミカ。これを付けて欲しい」

「え、なんですかこれは」

「ピアス、というものらしい。耳に穴を開けて付けるそうだ」

イミカは怯えた。

「み、耳に?」

リビアは穏やかに微笑んだ。

「そう。痛くないようにするから、安心してくれ」

リビアは針を取り出した。

「怖い?」

「こ、怖い…です」

リビアはイミカに針を持たせた。

「先に私にやってみると良い。不安は薄くなるだろう」

「え、良いんですか」

「あぁ。どうやら二つしかこのピアスは無いからな。一人一つ、付けることにしよう」

イミカは針を持ち、恐る恐る針をリビアの耳に近づけた。プツ、と針が皮膚を破り、ゆっくり繊維を切り裂きながら針は入っていった。

穴が広がった。

イミカは震える手でピアスを手繰り寄せ、暫くピアスをつけるために手こずった後、手を離した。

リビアの耳に、ピアスが付いた。

「偉いぞ。よし、今度は私が付けてあげよう」

リビアは針を取ると、慣れた手付きでイミカの耳に針を突き刺した。イミカはちょっとだけ跳ねた。

「痛みというものは、いつでも新鮮なものだ」

ふつと穴を開けると、イミカ同様少し手こずって、ピアスを耳につけた。

「どれ、見てみようか」

鏡を二人で覗き込んだ。二人の耳にピアスが付いた。お揃いだ。

イミカの顔は明るくなった。

「わあ…い、良いですねこれ!」

リビアは感激したように鏡を暫く見つめ、頷いた。

「素晴らしい…」

リビアはいきなりイミカを抱き締めた。

「…!」

「イミカ」

リビアは微笑んだ。

「今日のところは、お仕置きは無しにしておいてやろう」

イミカは歓喜に少し跳ねた。

「あ、有難う御座います!」

そんなのは良いんだ、とリビアはイミカの手を掴んだ。

「出かけよう、良い場所があるんだ!」

リビアは子供の様に笑った。本心からの笑いだった。

純粋に、楽しいし嬉しかった。イミカも同様に、それ以上に嬉しがっていた。

二人は、『普通の幸せ』を楽しんだ。


「ふう。ここまでくれば、リビアは来ないだろ」

俺は走りに走り、砂漠の岩場まで来た。砂漠なのに少し寒かった。今は冬なのだろうか。

しかし、本当に走った。

だって、走っても走ってもリビアの気配が強すぎて消えないのだから。

恐怖の時間だった。

「水、汲んできたよ。…あんまり綺麗じゃ無いかも」

ドロイトは水筒を持っていたらしく、それに水を汲んできた。

「悪魔だから、大丈夫だ。…多分」

俺は水筒を受け取り、飲んだ。

取り敢えず一難去った。ひとまず休んで、どうするべきかを考えなければ。

カラン、と音がした。

「…え?」

どうやら俺は水筒を落としてしまったらしい。否そんなことより。

ドロイトは心配そうに駆け寄ってきた。

「だ、大丈夫!?やっぱり水に毒があったんじゃ」

俺は首を振った。

「どうやら、一難去ってまた一難らしいぞドロイト」

遠くに見えたのだ。

恐ろしい程の、今まで見たことも無いほどの、魔波の歪みを。

「何だよありゃ」

俺はじっと目を凝らした。

居た。

「…はあ?」

メリーだ。

黒髪の女性の上を、どす黒いメリーが回っていた。

世界が黒くなった。

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