08
「そこの」
「だからサヤカよ」
「ああ、だから話しかけた」
チアキがもう来るということで外で待っていたらあの子が現れた。
ちなみにキキにはもう中に入って待ってもらっているが、キキに用があるのだろうか。
「あいつと上手くいっているようだな」
「どうかしらね」
「ふっ、あいつも同じことを口にしていたぞ」
地面につきそうなぐらい長い髪。
気になって持っていたゴムで縛ってみたらより可愛くなった。
「ふむ、ポニーテールが好きなのか?」
「いえ、気になっただけよ」
「質問を変える、キキのことが好きなのか?」
キキのことが好きなのかどうか、か。
「一緒にいると安心できるわ、心地もいいし、悪くは思っていないわね」
「なるほど」
これはあれか、キキのことを好きでいるのかもしれない。
そこに私という人間が入ってきて、困惑し、それで思わずこうして聞きに来たと。
「ごめんなさい、キキからいま勉強中なの、それでも譲れないわ」
「なら早く言ってやればいい」
「あ。あなたも一緒にやる? 勉強」
「そうだな、そうさせてもらおうか」
チアキが来たタイミングで一緒に入って。
「遅いで――な、なんでその子がいるんですか!」
「いま来たのよ、だから誘ったの」
寧ろ堂々と。
だってキキを取られるなんて思えないから。
というかいまそのことは重要ではなく、私たちは真面目に勉強をやればいい。
毎日やっているおかげでわからないところがなくなった。
もちろんまだ学んでいないところは知識不足ではあるけれど。
「サヤカさん」
「ええ」
そういえばチアキを甘やかして文句を言ってくることがなくなった。
私が怒るからというのもあるかもしれないが、最近の様子から見た限り、ふたりはいつの間にか仲良くなったのかもしれない。
「サヤカ、私にもしてくれないか?」
「ええ、別にいいけれど」
普段な無表情なあたりが自分に似ている気がして、自然と頭を撫でていて。
彼女は目を閉じてなすがままとなってくれていた。
「サヤカ」
「なに?」
「好きだ、付き合ってほしい」
いきなりな告白、初めてというわけではないからそこまで驚かなかったけれど。
「ごめんなさい」
「だろうな、ありがとう」
振られてもなお、去ろうとしないところはメンタルが強い証拠だ。
いや、寧ろ自分を落ち着かせるために告白したという可能性もある。
「ちなみにどこが好きなの?」
「顔と雰囲気、あとは飯を上手く作れるところだ」
「あら、上手く作れるなんてよく知っているわね?」
「そこのが毎回教室で自慢していたからだ、それのせいで何度も空腹感に襲われたものだぞ」
なにをしているのだか……。
キキを見たら「サヤカさんが悪いんです! こんな美味しそうなの作るから!」と。
「キキがいなかったらあなたでも良かったけれどね」
「それならそこのを消そう」
「そんなことをしたらあなたを消すわよ」
「ふっ、どうやって?」
「ふふ、この消しゴムで」
「はははっ、それは凄く怖いな」
私なんかよりフウナさんの方がよっぽど怖い。
今度会ってもらおうか、それでこの子にも味わってほしい。
「さてと、私はそろそろ帰るぞ」
「ええ、気をつけてね」
「ああ」
私たちはその後も勉強をした。
解散時間になったらチアキを送る。
「サヤカさんは変わりましたね」
「え、そう?」
「はい、昔ならあんなこと絶対に口にしていませんでしたから」
確かにそうか、見てきていたからこそチアキは気づいていると。
「あなたはすごいわね」
「私の頭も撫でてくれるんですね」
「ええ」
「ありがとうございます、元気になりました」
チアキはキキを指差して「相手をしてあげてください」と残し家の中に入っていった。
もちろん送るつもりだからわざわざ意識しなくても相手をすることになるわけで。
「どうして断ったんですか?」
「あら、受け入れてほしかったの? 私はてっきりあなたが私のことを好きでいてくれていると思ったのだけれど。それに私はあなたから教えてもらいたいの」
「変わりましたね、サヤカさんは」
「そう? 自分ではよくわからないけれどね」
彼女を家まで送って帰路に――は就けなかった。
「もう1回」
少しだけ悔しかったのだ。
年下の女の子が側にいるぐらいで寝られないなんて年上らしくない。
「家に来なさい」
お願いではなく命令。
それで調子に乗られては困るから。
「また寝られなかったらどうするんですか?」
「その時はまたお昼休みにでもあなたの膝を借りて寝るわ」
「……待っていてください、着替えを持ってきますから」
あの子のことをよく知らなかったというのは確かにある。
けれど即答できたのはつまりそういうことではないだろうか。
まだ確証を持って彼女のことが好きだと言えるわけではないけれど、悪くは思ってはいない。
「お待たせしました」
「ええ、行きましょう」
そろそろこちらから動く必要もある気がする。
眠たいのを利用して甘えるというのはださい。
お風呂に突撃はできなかったけれど、なるべく近距離にいてみることにした。
少しのスペースも確保しないというか、腕と腕が当たるぐらいの感じで。
「ふぁぁ……よく勉強をした後に勉強ができますね」
「日課だもの、これぐらい普通よ」
「でも、そろそろこれは終わりにして、私が別のことを教えないといけませんね」
「後は寝るだけよ、電気消すわよ」
なんてことはない、年上が動揺してはならない。
大体、同性で寝るぐらいで緊張していたらどうしようもない。
昨日寝られていなかったのもあって、すぐに寝られそうだった。
「サヤカさん」
「さっき、積極的にアピールしてきていましたよね?」
「私も年上としてたまにはと思ったのよ」
「でも、そろそろ起きてくださいね」
「え……?」
急に頬に痛みが走って飛び起きた結果、
「う、牛若? 急にどうした!?」
「え? あ……すみません、寝ぼけていたようです」
大人しく座って窓の向こうを見たらまだ明るかった。
しかもまだ12時を越えてもいなくて、普通に教室には生徒がいて。
どこからどこまでが夢だったのかわからなくなってしまった。
「(いえ……昨日のことねあれは)」
携帯を確認してみたら既に1日が経過。
どうやって過ごしたのだろうか、普通に爆睡してしまったのだろうか。
お弁当は? あ、作ってあるみたい。
授業は割とすぐに終わって、いつもの空き教室に向かう。
「サヤカ、待ったっ?」
「え……」
「ん? どうしたの? そんなに私の顔をまじまじと見て……あ、キスとかやめてよ?」
いや、え? なにかおかしい気が。
私の目の前にいるのは紛れもなく宮本キキ本人。
私が普段渡しているお弁当袋を持っていることから、偽物とかではないだろう。
「もう、なんでそんなじっと見てくるの? 言っておくけど、しないからね?」
「ちょ、ちょっと待ちなさい」
「え、サヤカが敬語じゃないの初めて聞いたかも」
ああ、これはまだ寝ぼけているのかも。
なんてことはない、また頬でもつねっておけば起きるはず。
「い、痛いわ……」
「そりゃ痛いよ、頬を思い切り掴んで伸ばしたら」
「それよりあなた、いつの間にか大きくなったのね」
「いやいや、私よりサヤカの方が小さかったからね? というか、私の方が年上だし」
……いいか、とりあえずいまはご飯を食べよう。
なんでもそうだ、お腹が減っていたらまともな思考もできないから。
「あれ」
「あ、今日は栄養が摂れるようにしてみたよ」
「もしかして作ったの……」
「そ、私! サヤカはあんまり得意じゃないからね」
食べてみたら普通に美味しかった、現実のキキもこのように作れるのだろうか。
起きたら協力して作ってみるのもいいかもしれない。
「サヤカ!」
「え? あら、あなたまた来たのね」
「戻ってこい! このお馬鹿者が!」
ガチンと叩かれて視界が暗転。
「うっ……」
「あ、やっと起きましたね」
体を起こしたら、横にいた彼女はほっとしたような笑みを浮かべた。
「キキ、私はあなたより年上よね?」
「当たり前じゃないですか、どうしたんですか?」
「いえ……抱きしめてもいい?」
「へっ? べ、別に……いいですけど」
ああ、大丈夫だ、これは紛れもなく現実だ。
この安心感は現実でなければ有りえない、なにより敬語を使っているところがその証拠だ。
「ありがとう、側にいてくれて」
「も、もー、なんですか急に……」
「ちなみに、昨日はどうだったの?」
「サヤカさんはすぐに寝てしまいましたよ、私も余計なことはせずにすぐに寝ました」
「そう、なら良かったわ」
また寝られない流れにならなくて良かった。
それだけで満足できる、早くお弁当を作って学校へ向かおう。
「うなされていましたけど大丈夫でした?」
「夢の中でのあなたは私より年上だったの、キスもしていたみたいね」
「ぶふぅっ!? そ、そんなことしていませんからね!?」
「――? でも、たまにはいいかもしれないわね、あなたが年上っぽいのも」
なにより呼び捨てにされるというのがいい、かも。
試しにと頼んでみたら、顔を真っ赤にしたまま固まっている彼女が視界に入った。
「どうしたの?」
「サヤカさん、それはあくまで夢ですからね?」
「ええ、そんなことはわかっているわ」
私はこんなのでも年上だ、それはどうしたって変わらない。
それよりもと頼んだ結果、普通に呼び捨てで呼んでくれた。
「ん、敬語なのがおかしいわね」
「サヤカっ、キスなんてしていないからね!」
「ええ、どれだけ引っ張るのよ」
無理している感じがあるので戻させて学校へ。
「やっほー」
「早いのね」
「うん、クウちゃんまだかなー!」
フウナさんはいつでも楽しそうで羨ましい。
私もこういう明るい性格だったらキキをもっと楽しませてあげることができるはずなのに。
「おはよ、今日は宮本もいるんだね」
「ええ、戻った方がいいと言っても聞かないのよ」
先程からぶつぶつと呟きながら私の席に座っているだけ。
「あ、私ってあなたと同級生よね?」
「は? そうだよ、当たり前じゃん」
「この子が年上になっている夢を見たのよ」
「なにそれ、実はそういう願望があったとか?」
「どうやら付き合っているみたいだったわ、キスとかもしていたみたい」
「ふーん、実はしたいのかもね」
わからない、わからないからわかろうとするしかない。
とにかく先程から様子のおかしいキキをなんとかするしかない。
「キキ、少し空き教室に行きましょう」
「え、はい、わかりました」
さすがに教室でするわけにもいかないから逃げ込むように移動した。
困っている風な彼女の両肩に手を置いて、至近距離で顔を見つめる。
「え、ちょ、冗談……ですよね?」
「少しだけ黙っていなさい」
まずはしたことがない自分から抱きしめるという行為で。
うん、そうでなくてもいい匂いなのに彼女の耳元や後ろ髪からは濃密な匂いがする。
ドキドキはしていない、いまあるのはずっとこうしていたいという気持ち。
「ねえ、もしかしてキス、したの?」
「……して、ないですけど」
「そう」
「ごめんなさい、しようとして……できませんでした」
「そうなのね」
勝手に奪ってくれなかったことだけは評価したい。
もちろん、だからといってしたいわけでもない。
そういうことはもっと大切な時にすればいい。
焦る必要はない、この子がいてくれれば私だってすぐ側にいるから。
「ありがとう、落ち着けたわ」
「はい」
入り口の扉に背を預けつつ床に座る。
彼女は律儀に扉を閉めてから同じように座った。
「というか、朝から開いているんですねここ」
「私、ここがなにに使用されているのかわからないわ」
「私たちが仲良くするためにです」
「ふふ、そうかもしれないわね」
少なくとも悪くない雰囲気。
側にいるからなのか熱が伝わってくる。
キス未遂であそこまで照れるなんて彼女らしくないが。
どんなことをしようが笑顔でいてくれるのが私にとっての理想。
でも、関わるようになってからわかったこともあって。
「ね、あなたってもしかして無理しているの?」
「していませんよ、チアキちゃんにも指摘されましたけど」
「それならいいのだけれど。でももし、あなたが――」
「駄目ですよ、そんなこと言わないでください、そもそも私に少しでもそういうつもりがあるのなら抱きしめてなんていません」
それならあの空白の1週間は?
こちらといることに意味を見いだせなくなって離れたかったのでは?
「なら、私から離れないで」
「はい」
「「いまのは告白かな!」」
そのようなものだから否定はしなかった。
大体、こういうところで慌てたりするからからかわれるのだ。
「え、あの、そういうことだったんですか!?」
「あなた駄目ね」
「えぇ!?」
そうだった、この場所はもう既に知られているのだから意味のない話と言える。
おまけに同性が大好きなフウナさんのことだ、どうせ笑って「付いていこう」とか言ったに違いない。
それに乗っかるクウナだから質が悪い、このふたりは私たちにとって凶悪なコンビだ。
「まあまあ、邪魔をするのはやめてあげよう」
「そうだね、だって初々しくていいもんね!」
扉越しにとはいえこうして来ておきながらそれを口にする資格はないと思う。
そういうことに関しては先輩なのだから黙って見ていてほしい。
勉強をするしかできなかった私はもういないのだ、変わる時がやってきたことになる。
「落ち着きなさい、そんなに慌てなくてもいいわ」
「はい……すぅ、はぁ……」
未経験だけれど年上らしく振る舞わなければならない。
自分が落ち着くように、彼女にとっても私といることで落ち着けるようになってほしい。
そのためになら手を握ったりもする、単純に自分が安心したいだけなのかもしれないけれど。
「いいのよ、私はここにいるわ」
「……安易に言わないって」
「変わったのよ、あっという間にね」
ずっとこういう日を待っていたのかもしれない。
自分だけでは殻の中から出られなかったから。
勉強をしていれば将来後悔しないからと言い訳をして、強がっていた可能性もある。
だからいまそれが壊されてふわふわしたした状態だ、なのに捨てられたら困ってしまうのだ。
「捨てたら恨むわよ、ずっと家の前に立って見続けるわよ」
「ま、まさかサヤカさんからそんなことを言われるとは、最初は友達にすらなってもらえなかったんですよ? しかも1年間毎日続けて! なのにどうしたんです?」
「空白の1週間が重要だったのかもしれないわね」
1度離れたからこそ大事なことに気づけたというか。
それなのに離れることなど許さない。
フウナさんの気持ちがよくわかる、キキが他の子と仲良くしていたら絶対に睨む自信がある。
「これからはきちんと考えて行動することね」
「は、はあ……」
「そろそろ戻るわ、ちゃんと毎時間来るのよ? 来なかったら、ふふ、どうなるのかなんていちいち言う必要はないわよね?」
教室に戻ってしたこと、とりあえず自分の両頬を叩いて平静を無理やり装うこと。
明らかに調子に乗ってしまっていた、もしそのせいで愛想を尽かされたら?
その場合は後悔してもしきれなくて、引っかかって落ち着かない毎日を送ることになるかもしれない。
「そんなに叩いたら赤くなるよ」
「クウナ……私はもう駄目かもしれないわ」
「え? さっきはいい雰囲気だったじゃん」
「調子に乗ってしまったの、私の側に必ずいなさいと言っただけだけれど」
「え、それぐらい私も言うけど? 寧ろ毎時間」
「それは相手も求めてくれているとわかっているからでしょう? こちらのは一方通行なのかもしれないのよ……もしそうならかなり痛い発言よね」
未経験なりにと行動しようとしたのは悪いことではないだろう。
が、それで非常識的な発言をしてしまうのは悪いことだと思う。
相手の善意につけ込もうとするのも駄目だ。
「いい方法あるよ、好きだって言ってみたらいいじゃん」
「振られた場合は?」
「その時は泣くでも暴食するでもなんでもすればいいじゃん」
「初めてになるのよ? そんなことで割り切れるとは思わないけれど……」
大丈夫だと思えてからでなければ告白することなど不可能。
いかな年上と言えども、こういうことに関してはキキから踏み込んできてほしかった。
でも、告白してこないということはつまりそういうこと? ……想像以上に苦しい。
「サヤカなんて勉強にしか興味ないと思ったけどね」
「いつの間にか変わっていたのよね、弱体化してしまったわ」
「ああ、確かに他のことに集中できない時もあるもんね、喧嘩した後とかは特に」
喧嘩したこともないと。
仲良くなければ喧嘩はできないと言うし、仲良くない可能性も……。
「そんな顔をしなくても大丈夫だよ、寧ろあの感じでサヤカのことを好きでいないなら怖いって」
「ちなみにあなたたちは付き合っているの?」
「うん、中学生の頃からね」
「そう、それなのによくここに受かったわね」
「前にも言ったと思うけど逆に頑張れたかな、フウナと絶対に離れたくなかったから」
なるほど、いまは側にいたいと思うしわからなくもない。
仲良くするようになってからも勉強だけはしっかりやってきた。
チアキがいるからというのも大きいからだろうが、黙々とやれていると思う。
そうか、焦る必要はないと口にしてきたのは自分なのだから信じて行動すればいいか。
らしくないところを見せてしまった、そして友達がいてくれて良かったと心からそう感じて。
「ありがとう、私といてくれて」
「友達だからね」
少し前までならわからなかったことだ。
いい変化だろう、壊してくれたキキやふたりには感謝してもしきれない。
「サヤカちゃん、クウちゃんと随分仲がいいみたいだねぇ?」
「キキがいなかったらクウナを狙っていたわ」
「むきー! だめだよそんなのー!」
「ふふ、冗談よ」
変われた私を信じて行動しようと決めた。
「サヤカ、なにをやっているんだ?」
「課題をやっているの」
振られてもなお近づけるところが強い。
いまの私ではそうできないだろうからなおさらそう思う。
「キキたちとやると言っていなかったか?」
「その時は普通に復習をしようと思って」
就寝前にやらなくて済めばキキのために時間を使えるから。
あまり油断はできないけれど、そう慌ててガツガツ知識を溜め込む必要もない。
「誘わないのは珍しいな」
「ああ、いるわよ、そこに」
上級生の席を借りて転がっている彼女。
あの夢に出てきた時のように額に攻撃されて「うぇ!?」と声を漏らしていた。
「もー……痛いよぉ」
「寝るな、一緒に課題でもやったらいい」
「もう終わらせたもん、サヤカさんと自由にいられる時間を減らしたくないし」
「はぁ……なら側にいたらいいだろう?」
「邪魔したくなかったの」
「一応そういう配慮はできるのか」
「できるよ!」
恋のライバルともこうして普通に会話できるのがすごい。
なぜ私の周りにいる年下はみな優れているのか。
「さて、邪魔者は帰るとしよう」
「別に大丈夫だよ? 取られるとも思っていないし」
「へえ、煽ってくれるじゃないか」
「ふふ、もう誰が来ても勝てないよー」
「この口から騒音が聞こえるな、無理やり閉じておこう」
「いふぁいふぁい!」
喧嘩になってしまう可能性があるから終わったのをいいことにしまって帰ることにする。
「あら、あなたも来るの?」
「ああ、こいつが大丈夫だと言っていたからな」
「まあ……それはその子の言う通りね」
「だから気にしないでくれ、そういう意味でいたいわけではない」
友達が増えるのなら大歓迎だ。
昔ならこう思えてはいなかった、見ているだけで終わっていた。
冗談でもなんでもなく小中と全く他人といなくて、最近は距離感がよくわからなくなることもある。
けれど知ってしまったものはどうしようもないと。
「ふふ、また今日も来たんですね」
「そっちこそ、あなたはサヤカさんのなんなんですか?」
「私はサヤカさんの特別な人だよ!」
「私はサヤカさんの親戚の人です」
「ほら、入って」
「ああ、お邪魔させてもらう」
いつものことだから気にする必要はない。
だから気にせずに中へと入ってゆっくりしたのだった。