小説重版お礼:クラーク様の宝物
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●コミックス二巻5/7発売!自粛期間中ですが、お手に取っていただければ幸いです
詳細活動報告に載せましたので目を通していただければ幸いです。
よろしくお願いします!
「ブリっ子、ちょっとお城探検しよう」
「お城はちょっとという軽い気持ちで探検するものではないと思うんだけど」
「いいからいいから!」
私はむしゃむしゃマカロンを頬張っているブリっ子を連れて、王城の廊下をスタスタ歩く。たまにいる兵士は静かに頭を下げるだけで止めることはしない。今日は脱走しているわけでもないので当然の対応だ。
「ねえ、部外者の私がうろちょろしても咎められないんでしょうね?」
「大丈夫大丈夫! ブリっ子は許可を得て王城にいるんだから」
「あんたの大丈夫ほど信じられないものはないのよねえ」
ブツブツ文句をいいながらもブリっ子は後からついて来てくれている。
「で、目的地はあるの?」
「うん、ここ」
ブリっ子に懐に入れていた地図を見せる。
「ひいっ! ちょっと、それこのお城の地図でしょう!? 絶対私に見せちゃダメでしょ!」
プイッとブリっ子がそっぽを向いて、地図から顔を背けた。
「ちっちっち! 地図は地図でも、ほら見てこれ!」
「うっ!」
ブリっ子の顔をこちらに向けて顔の目の前に地図を広げる。ブリっ子は嫌そうな顔をしていたが、じっとそれを見ると、目を瞬いた。
「なにこれ、落書き?」
「失礼な!」
私はブリっ子の前に掲げた地図を取り戻す。
そしてうろんな目を向けるブリっ子に、私は胸を張る。
「宝の地図よ!」
「はあ?」
「ほら、これ見てよ! 宝物庫にあったんだけど」
「なんて物持ってきているのよ!」
ブリっ子が逃げ出そうと背中を向けたのでその首根っこを摑まえる。
「やめてぇ~! 共犯にしないでぇ~!」
「大丈夫だって、ほら」
私はピラッとブリっ子の目の前に地図を広げた。
「ひぇー! …………なにこれ」
「宝の地図よ!」
「どこが? どう見ても子供の落書きじゃない」
ブリっ子がそういうのも無理はない。
どう考えても、手書きの、それも子供が書いたと一目でわかる地図だからだ。
「ふふ、これはね、クラーク様の宝の地図なのよ!」
そうなんとこれを書いたのはクラーク様なのだ。
「王妃様に聞いたら『これねえ、クラークが書いたのよぉ。宝を隠した! とかはしゃいでいたのを思い出すわぁ。まだその地図の場所にあるんじゃないかしらぁ』って言ってたのよ!」
「待って、王妃様って本来そういう話し方なの?」
「それは今どうでもいいんだけど」
「私には衝撃なんだけど!」
なにやら衝撃を受けているブリっ子を放って地図の通りに進む。ブリっ子は時折「憧れていたのに」「いやこれはこれでいいかも」「ギャップ萌え」とかボソボソ呟きながらついて来ていた。ギャップ萌えってなんだろう。あとで訊こう。
「ここよ!」
ある部屋の前で足を止める。
「あんまり宝がある感じしないわね」
「そういうものよ! で、ここからがブリっ子の出番なんだけど」
「ただ連れてきたわけじゃないのね」
私は扉に付いている鍵を指差した。
「これ、文字で開くタイプなんだけど、地図に書いてある字が読めないのよ……」
地図にはきちんとここを開くための言葉が書いてるようなのだが、私に読めなかった。ぐちゃぐちゃと書きなぐられた、子供の字の解読は私には難しかったのだ。
「前に子供とよく接してるって言ってたでしょ? 読めたりしないかなーと思って」
「よく覚えてたわね。どれどれ……」
ブリっ子が地図の文字を読みながら鍵をガチャガチャ動かす。
カチャッ!
「開いたわよ」
「さっすがブリっ子! 子供心をいつまでも持っている女!」
「ちょっと! 一言多いのよ!」
「どーれどれどれ……」
「聞きなさいよ!」
ブリっ子を無視して果たしてどんなお宝があるのかとワクワクしながら、扉を開け放った。
「えーっと……」
ブリっ子がなんとも言えない顔をしている。
それもそのはずである。
「なにこれ……」
それはなんとも表現し難いものがゴロゴロ転がっていた。よくわからない彫像、よくわからない粘土の塊、よくわからない絵、基本的によくわからないもので満たされていた。
「レティ!」
二人で顔を見合わせて戸惑っていると、後ろから声がした。
「クラーク様」
クラーク様が息を弾ませながらこちらに来た。
「レティ、それ……」
「あっ! ええっと……」
私の握りしめた宝の地図を見つけたクラーク様の、咎めるような視線から逃れるように言い訳を考えるが見つからない。
そしていつもながらブリっ子は一瞬のうちに消えた。
ずるい。私も連れて行って!
オロオロしていると、クラーク様にガシッと肩を掴まれた。
「レティ、俺は……」
「はい……!」
いつになく真剣な表情のクラーク様に、私は背筋を伸ばした。
「俺は……芸術的センスが皆無なんだ……」
「げいじゅつてき……えっ、何……?」
「この部屋を見てくれ」
クラーク様にクルリと体の向きを変えさせられて、部屋の中の物を見させられる。
中にあるのはやはりよくわからない物ばかりだ。
「これは昔俺が作ったんだ」
「えっ!」
このよくわからない物たちを!?
「俺は芸術的センスが皆無なんだ……」
クラーク様がもう一度言った。
「でも王族は必ず芸術の授業も受けなければいけない……」
「ああ……」
なんとなくわかった。これは幼い頃クラーク様が作った物なのだろう。
「芸術的センスはないが、それでも子供ながらに一生懸命作った、俺なりの宝物だったんだ……」
だから宝の地図なのか!
私はクラーク様の宝物を一つ手に持ってみる。
……やっぱりよくわからない……。
よくわからないが、これは幼いクラーク様の努力の結晶なのだろう。
「……これはこれで味があると思います!」
「レティ……!」
何とか絞り出した私の言葉に、クラーク様は感動した様子で瞳を潤ませた。
私が手に持ったよくわからない物をしっかりと握り込まされる。こ、これはまさか――
「レティ、じゃあそれ君にあげるよ!」
「ごめんなさいそれは大丈夫です!」
私はきっぱりはっきりお断りさせていただいた。
だって絶対夢に出るもの!