ブリっ子と兄
「ブリっ子、よかったの?」
「何が?」
綺麗なガラスの器に入ったプリンを美味しそうに平らげながら、ブリっ子が聞き返した。
ブリっ子、来る度におやつをバクバクあるだけすべて平らげて行くんだけど、何で太らないの? その胸にすべて吸収されてるの?
「ほら、デルバラン王国の王太子に気に入られていたじゃない」
私の言葉に新婚旅行中のことを思い出したのだろう。可愛らしいと言うより綺麗と表現できる顔をくしゃりと歪ませた。
「ああ……身体が目当ての男ね」
確かに端的に言えばそうだけど、もう少し表現を考えてほしい。そこでクッキーの配膳準備をしているマリアの教育に悪いでしょ!
「王太子ね」
「おっぱい好き男ね」
ブリっ子はわざわざ私の言葉を言い直した。確かにその通りだけども。
「前言った通り、あそこまであからさまな身体目当てはいやよ。私だって乙女だもの。できるなら、きちんと愛してくれる人がいいわ」
「えっ」
目を輝かせながら語るその内容に、口を手で押さえたが声が漏れてしまった。私の反応にブリっ子が目をつり上げる。
「何よその反応!」
「だって! 散々お金お金言ってたじゃない!」
私の反応がおかしいように言われたが、ブリっ子の日頃の発言に問題があると思う。ブリっ子はカラになったプリンの器をマリアに返しながらのたまった。
「お金が大事だけど愛もほしいの!」
「とんでもない強欲!」
「なんですって!?」
キッとブリっ子が私を睨み付けた。
「いいわよね! 愛されている人は!」
「は、はい!?」
いきなりの発言に声が上擦った。
「な、何の話!?」
「すっとぼけないでよね! クラーク殿下よ!」
「私も愛されていると思いますー」
「ややこしくなるからマリア黙っててちょうだい!」
「はーい!」
いいお返事! いい子!
「私のことは置いておいて!」
「マリア聞いた? 『私のことは置いておいて』ですって。愛されていると確証している反応よね。あーごちそうさま」
「ごちそうさまと言いながらおかわりに手を出してるじゃない!」
「それはそれ、これはこれ。食べれるときには食べないと」
「やっぱり強欲!」
マリアから受け取った新たなプリンをスプーンですくうブリっ子はおいしそうに口に入れる。
王城のシェフ手作りのプリンだ。食べないともったいないおいしさだけど、限度というものがあると思うの。
「ブリっ子、兄様はどうしたの?」
ブリっ子がピタリと止まった。
「私はね、高望みはしないの」
「いやめちゃくちゃしてたじゃない。王太子狙ってたじゃない」
「とにかくね!」
あ、スルーした!
「私はヘビみたいにねちねちした男はお呼びでないのよ!」
「ね、ねちねち……」
「拒絶の仕方が! なんかねちっこい!」
「ねちっこい……」
我が兄ながら、ひどい評価だ。二人の間に何があったのだろう。
怖いから聞かないけど。
「あとで言っておこう」
「ちょっとやめてよ! ねちっこい仕返しされそうじゃない!」
やっぱりねちっこいんだ……。
私は兄に仕返しされるブリっ子を想像しながらプリンを口に含んだ。
つまり仲良しってことよね。うん。