クッキーリベンジしたい
「クッキーリベンジをしたいんだけど」
「私は何も聞いていない」
聞こえないフリをするブリっ子を捕まえる。
「クッキーリベンジをしたいんだけど」
「ごり押しがすごいのよあんたは!」
逃げようともがくブリっ子の首根っこを摑まえる。マリアが哀れんだ表情でブリっ子を見ながら合掌している。
「いやよ巻き込まないでよ!」
「まあまあそう言わずに。私たち友達じゃない?」
「こういうときばっかり友達って言葉出すんだから!」
そう言いながら観念するブリっ子は嫌いじゃない。
ブリっ子はふむ、と思案した。
「そもそも、クラーク殿下が嫌いな味を探るべきなんじゃないの?」
「え?」
想定していなかった言葉に、私はきょとんとする。
「だって、これクラーク殿下脅かし用なんでしょ? 相手が苦手なものじゃなきゃ意味ないじゃない」
「いや、まあそうなんだけど……」
ブリっ子の言うことはもっともである。
「と、なれば、さっそく調査よ」
「え? 調査って?」
スッと立ち上がったブリっ子に嫌な予感がする。
「もちろん、クラーク殿下の苦手なものを調査するのよ!」
「あ、私不参加で」
「言い出しっぺが逃げるんじゃない!」
「私が言ったのはクッキーリベンジであって、クラーク様の苦手なもの探しじゃない!」
「ええい往生際が悪い!」
ブリっ子に首根っこを掴まれた。
「ちょっと、私これでも王太子妃なんだけど!」
「そういうのはそれらしくなってから言いなさいよ!」
「どういう意味!?」
そういう意味です、とマリアがボソリと呟いたのが聞こえた。マリア、悪いけど私地獄耳なのよ!
ブリっ子に引きずられ、渋々ついていく。
「まずはクラーク様を探さないとね」
ブリっ子が楽しそうに辺りをきょろきょろしている。
「なにはしゃいでるのよ」
「だって、王城をこんな堂々と練り歩ける機会なんてそうそうないんだもの!」
フカフカ絨毯! とブリっ子が興奮している。もはや目的を見失っていると言っても過言ではない。
ブリっ子はよほど王城の中が気になるのか、あちこちに足を運ぶ。クラーク様の自室、執務室、厩舎、中庭、調理場。
「いないわね」
ブリっ子が調理場で手に入れたシュークリームを食べながら呟いた。
「何食べてるのよ!」
「だってくれるって言ったんだもの。あんたもいる?」
紙箱に詰められたシュークリームをブリっ子が差し出してくる。
くっ、誘惑に負けない!
「太るからいい……というか、何で太らないのよ! むかつくわね!」
「八つ当たりしないでくれる?」
ブリっ子がまた一つシュークリームを口にする。うう、羨ましい……
「あんたの旦那どこにいるのよ」
「私もわからないわよ」
探索し尽して、ブリっ子は飽きたようだ。
こほん、と咳払いが聞こえた。私でもブリっ子でもない。私はブリっ子と顔を見合わせた。
こほん、と再び聞こえる。
音のほうを振り返ると、私たちの護衛についてきていた兵士がいた。
「…………まさか」
いやな予感がして呟くと、その兵士がゆっくり兜を取る。
「やあ、レティ」
「やっぱりー!」
予想通りの展開だった。
「何で兵士になってるんですか!」
「いや、驚かせようと思って。驚いた?」
「驚きますよ! というか、もっと早く出てきてくださいよ!」
「まったく気付かないから楽しくなってしまって。何だか劇団員になった気分で」
「アホな遊びしないでください!」
ははは、と笑うクラーク様は絶対反省していない。
「ブリっ子からもなにかいっ……て……」
ブリっ子はいなかった。
あ、あいつ食い逃げしやがった……!
「ところでレティ」
ずい、とクラーク様が顔を寄せる。
「俺の苦手なもの、見つかった?」
いいいいいいい息がかかるううううう!
「み、見つかりませんでしたあ!」
半泣きで告げる私にクラーク様は満足そうに微笑んだ。