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想定外だった



「食事をしてから雑貨を見て回り、服屋に寄る。典型的なデートコースね」


 あれだけ面倒だと言っていたブリっ子は今や探偵を気取っている。

 クラーク様の後を追う間、淡々と彼らの行動を推測して楽しそうにしている。次の行動はまだかまだかと途中から前に出て行ってしまうのではないかというほど積極的だった。嫌がってたのはなんだったんだ。


「でもデートにしては距離があるのよね。肩を抱くでもない、手を繋ぐでもない、会話をしているけど甘い雰囲気は感じられない」


 再び馬車に乗ったクラーク様を追うために、自分たちもバレないように馬車で追いかける間もブリっ子は分析をやめない。


「だってデートで笑顔にならないってある? 無表情だったわよ。見てた?」

「うん、見てたけど……」


 確かにクラーク様は女性と色々な場所に立ち寄っていたが、やたら距離が遠く、楽しんでいる様子も見られなかった。


「確かにブリっ子の言う通り、なんか変なのよね……」


 見ていて私も違和感を感じた。デートというには物足りない感じの。


「異性で恋人関係でないということは……」


 ブリっ子が閃いたという顔でこちらを見た。


「生き別れた姉か妹なのでは⁉」


 ……はあ?


「突拍子なさすぎる。そんな話聞いたことないし」

「ちっ、ちっ、ちっ、事実は小説より奇なり、ってことよ!」


 キラキラした瞳を向けてくるブリっ子の傍らには、旅行の帰りに読むと言って買った推理小説が置いてある。なるほど、ブリっ子、さては推理オタクなんだな。


「あのお、着きましたけどー」


 私たち二人の会話になるべく入らないようにしていたマリアが、申し訳なさそうに声をかけてきた。

 慌てて馬車を降りると、そこは見覚えのある場所だった。

 ブリっ子が、またも嬉しそうにしている。


「いきなり妻の泊まっているところに、愛人を持ち帰るだなんて……やるわね!」


 さっき姉か妹と言っていたくせに……。

 ブリっ子はあっさり推理を変更して、はじめの愛人説に戻ったようだ。確かにその説が有力かもしれない。自分の泊まる場所に、愛人を連れ込む。よくある話だ。そこに妻がいなければな。

 そう、私たちの馬車が着いた場所は、新婚旅行中泊まっている、デルバラン王宮だった。


「色んな人間の目もあるのに、そんなのあり得る? リスク高すぎない?」

「でも実際ここに連れてきているじゃない」


 そうなんだけど……。

 王宮の警備をしている人間が一人でも私に漏らせばすぐにバレるというのにわざわざそんな場所を選ぶだろうか。私なら別に宿を取る。


「こうしちゃいられないわ! 行くわよ!」


 ブリっ子は私の手を握って走り出した。足をもつれない様に注意して私も足並みを合わせる。


「い、行くってどこに?」

「決まっているじゃない! 現場を押さえるのよ!」


 ブリっ子は嬉しそうに、クラーク様の部屋まで一直線に走っている。


「え⁉ い、今⁉ いきなり⁉」

「今浮気相手がそこにいるんだから、行くしかないでしょ!」

「ま、待って! 心構えがまだ……!」


 私は走るのをやめて足で踏ん張ろうとするが、ブリっ子のほうが力が上だった。ズリズリと遠慮なく引きずっていく。


「こういうのは、はじめにしっかりして正妻の立場から物申したほうが、今後のためにもいいのよ!」

「で、でも……」

「四の五の言わずにさっさと行って面白い展開に……じゃなかった、しっかり言ってやんなさいよ!」

「今面白い展開って言った!」

「ええーい! 女は度胸!」


 抵抗むなしくクラーク様の部屋の前まで連れてこられ、人の気配のする中に、無理やり押し込まれた。

 すぐに部屋を出ようとするも、無情にも固く扉が閉ざされて開かない。お、おのれブリっ子、覚えておけ!


「レティ?」


 扉に縋りつく私の背後で、声がした。間違いようがなく、クラーク様である。

 私はすっと立ち上がり、にこりと微笑んだ。

 ブリっ子が言っていたではないか。女は度胸。


「こんにちは、クラーク様。そちらの方はどなた?」


 クラーク様は、私の笑顔に動じる様子もなく、隣にいる女性を紹介してきた。


「ああ、紹介する。この人はデルバラン王国の公爵だ」


 女性が一歩前に出てきて手を差し出してきた。私はその手を握る。浮気相手と堂々と対面させるとは、と苦々しい気持ちを隠して笑顔を保つ。

 しっかりとこちらを見つめる女性は、女性にしては長身だが、その美しい顔に笑顔を浮かべている。その容姿は誰かに似ている。あれ、もしかして、と思ったとき、女性が口を開いた。


「はじめまして、ニールと申します」


 私はその声を聞いて自分の勘違いに気付いた。


「王弟です」


 驚きの声を上げず、にこりと微笑むことのできた自分を心の底から褒めてあげたかった。



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