理不尽だと思う
「マリアはルイ王子と結婚しないわけ?」
「するわけないでしょう」
即答された。かわいそうなルイ王子。
「顔良し、金あり、自分に一途。条件だけならいいんじゃない?」
「年齢がアウトでしょう」
やっぱりそこかあー。
マリアは私と同じ十七歳。ルイ王子は十三歳。年齢差は四歳だからそんな問題はないと思えるが、今現在十三歳はまずかろう。犯罪臭がする。私もその年齢の男性とはお付き合いできない。たぶんクラーク様がその年齢ならとっとと国外に逃げていたと思う。
「今ルイ殿下の求婚受け入れたら私、どう思われます? まだうら若い無垢な少年を手籠めにした魔女ですよ」
まあ、そうだろう。十三歳は明らかにまだ少年だ。大人の女と少年が結婚したら……そう思われるだろう。私も思う。
「何でルイ王子に求婚されてるの?」
「私にもわかりませんよ。だって、私ルイ殿下の傍にいたのって、三か月ぐらいですよ? すぐに実家が没落したから」
三か月の間に何があったのだろう。知りたいが、聞いたらまたあの長話が始まると思うと恐ろしくて訊きに行けない。
そう思ってマリアに訊いてみたのに、マリアはわからないらしい。謎だ。
「ルイ王子が十九で、マリアが二十四とかならまだ釣り合い取れていたかもね」
「そうですね。でも二十四だと私嫁き遅れ……」
マリアは遠くに視線を向ける。きっと、嫁き遅れそうな予感がしているのだろう。だってルイ王子が全力でマリアの縁談を潰しているし、男に会わないように工作している。
ルイ王子がマリアの誘拐を企てたのも年齢が関係しているだろう。十七歳はまさに結婚適齢期だ。
「どうしたらいいんでしょう……」
マリアが本気で悩み始めている。
「かわいそうなマリア……」
「王太子妃様……」
「私が味わった思いがようやくわかった?」
「慰めてくれない!」
悔しそうにしながらきちんとお茶を提供してくれる。プロだ。
中庭でのどかにお茶を飲んだり寛いだり魚釣ったりするの最高だわ。暖かい日差しを感じながらうっとりしている私をマリアが憎々しげに見ているのを感じる。
「ネグリジェ届くんですけど」
「それは私のせいじゃないわ」
「いや普通に王太子妃様のせいですよね?」
「あの馬鹿王子が勝手にやってるだけで私関係ない」
「ネグリジェの存在教えたの王太子妃様ですよね?」
「教えたんじゃない。巻きつけたの」
「同じことですよね!?」
「僕はマリアの脱ぎたてを巻きつけたい」
「でたああああああああ!」
突然わいて出た声にマリアが絶叫しながら後ずさる。ルイ王子は気分を害した様子もなく、じりじりとマリアに近寄っていく。
「マリア、今日も素敵だ」
「近寄らないでほしいです」
「つれないところも愛している」
「私は愛していません」
「大丈夫、僕の愛さえあれば」
「話が通じないー!」
マリアが走り出した。でも彼女は仕事中なので、走り回るのはこの中庭だけだ。プロだ。
中庭でマリアとの追いかけっこを楽しそうにしている美少年。見た目だけはいいので目の保養だと思いながらお茶に口をつける。
「はあー……国に帰りたい……」
後ろから声が聞こえて振り返るとライルがいた。
「元気ないわね」
「元気もなくなりますよ。毎回毎回マリアへの贈りもの探せだの、女の喜ぶもの教えろだの、母国への対応は任せたって押し付けるし、挙句の果てがネグリジェの手配って……」
それはご苦労なことである。従者って大変ね。私お嬢様でよかった。
それにしても、留学に来ているはずなのだが、マリアの尻を追いかけているだけで他に学んでる様子ないんだけど。いいんだろうか。いいんだろうな。きっと。
「どれ、このお菓子でも食べて元気をお出し」
「ありがとうございます……」
そう言って皿に乗っていたクッキーをライルに差し出す。ライルはお礼を言いながらそれを口に運んで――吹き出した。
「うっげ! ごほ! うっ!」
「クラーク様脅かし用に作ってみたんだけどどう?」
「どう? じゃないんですけど! 人を実験台にしないでくださいよ!」
「激辛クッキー。ご感想は?」
「最高に辛くてまずいです! 最悪です」
「やったわ最高の出来よ」
「誰も私に優しくしてくれない!」
ライルが何やら喚いているが知ったことじゃない。成功作をどうやって食べさせようかと考えている私の頭上を影が覆った。
「レティ」
あ、これまずいときの声だ。
私はゆっくりと頭上を見上げた。
「ク、クラーク様、ご、ごきげんよう?」
「ご機嫌じゃないんだが」
そうでしょうね。怒ってますものね。でも何で?
「レティ」
「はい!」
「俺は、男とお茶会していいなんて言ってない」
それかー!
激辛クッキーのおかげで顔を赤くしているライルが焦った顔をしている。
「いや、これは、勝手に途中から……」
「レティ」
言い訳をするも、優しい声に遮られる。声は優しいのに。声は!
「ちょっとこっちにおいで」
「はい……」
私は返事するしかない。
連行される私をライルがざまーみろという顔で見ていたのを私は忘れない。
あいつ今度はすっぱいクッキー食べさせるからな。