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穴にはまる



 ちなみに逃げるのをあきらめていない私は新たな脱出手段を考え行動している。


「えっほ、こらしょ」


 掛け声を出しながら、叩いていく。

 手に持っているのは暖炉の灰かき棒だ。本当はハンマーが欲しいところだが、残念なことにここでは手に入れられない。


「えっほ、こらしょ」


 言いながら叩くのは壁だ。この部屋に備え付けられている小さな衣裳部屋の隅に、修繕したあとの壁を見つけたのだ。そういうところは総じて脆い。私はそこに狙いを定めて叩いていくと、案の定、少しずつ穴が開いてきたのである。

 長かった。穴をあけるのに三日かかった。そして今、穴は大分大きくなっている。

 私は気合を入れて大きく叩きつけた。これが最後の一撃だ。

 私は灰かき棒を捨てて、その穴にもぐり込む。うふふふここを抜けたら今度こそ自由よ!


「ん?」


 もそもそ上半身を突っ込んだ私は思わず声を出した。

 進まない。

 私は血の気が引いた。

 頑張って前に進もうとするも動かず、後ろに動こうとしても動かない。

 しまった。大失敗だ。

 さあー、と音を立てて血の気が引いてきた。

 何だ、穴が小さかったのか? だが修繕した部分は全部崩したからこれ以上はどうにもならない。なら他の敗因は何だ。いや、考えるまでもない。私は悔しさで唇を噛んだ。

 ――太ったのだ。

 そうだ、ここに閉じ込められて、大した運動もしないのに三食しっかり出て、おやつまで食べている。太ったのだ。確実に太った。

 以前の体形なら行けたものが、今は不可能となってしまった。

 しかも現在にっちもさっちも動かない。

 終わった。こんな姿見つかったらどうなるか、いや、それ以前にこんな間抜け姿誰にも見られたくない。

 どうにもならない状況で悲しみと悔しさと恥ずかしさで涙が出てくる。

 しくしく泣いていると、後ろから声がかかった。


「レティシア」


 天の助けのようにも聞こえるし、悪魔のささやきのようにも聞こえる。


「クラーク様……」


 泣いたまま声を出す。残念ながら今頭は外に突きぬけているので顔を見ることはできない。


「なぜこんなことに……」


 困惑の声が聞こえる。ええ、ええ、そう聞きたい気持ちが良くわかります。


「いけると思ったんですよ……」


 悔しさを交えて言えば、クラーク様は戸惑いながらも助けようと動いてくれる。


「引っ張ればいいのだろうか」

「たぶん」


 頭を突っ込めたのだから後ろから引いてもらえればきっと抜けるはず。


「せーのでいくぞ?」


 クラーク様が声をかけてくれる。


「せーの」


 クラーク様は私の足を掴み、引っ張る。


「痛い痛い!」

「でも我慢しないと」

「違います、足が痛いんです!」


 引っかかっている部分ではなく、引かれている足が痛い。


「す、すまない」


 クラーク様が謝って私の足から手を離す。


「私の腰部分を持ってくれませんか?」

「え?」


 私から提案すると、クラーク様から戸惑った声が出た。


「でも、そうするとレティの可愛いお尻部分も触ってしまうことになるが」

「可愛いとか変な言い方しなくていいですから。とにかく今は緊急事態なので許します」

「触ったから名前を呼ばなくなるとか言わないか?」

「言いません」


 今この状況でそんなこと気にしている場合か!


「では……」


 クラーク様は緊張した声を出しながら私の腰に手を当てる。


「せーの」


 ぐいっと引っ張られる。痛い。


「頑張れレティシア、少し動いたぞ」

「それはよかった……」

「もう一度、せーの」


 引っ張られ、痛みに呻く。それを繰り返し少しずつ中に戻っていく。


「せーの」


 そしてついに最後の引っ張りですぽんと穴から抜けた。

 抜けて最初に見たのは汗をかき、髪を乱したクラーク様の姿だった。

 私はじんわりと再び涙がにじむのがわかった。


「レティ」

「クラーク様」


 私は今すごい姿だろう。でもそんなの気にしていられない。私は初めてクラーク様に抱きついた。


「やりました!」

「ああ、やったな!」


 二人で妙な達成感を感じながら、しっかりと抱きしめあったのだった。



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アスタール王国に留学に来た、遠国の王女・アビゲイル。

初日から、初恋相手であるというクラークに猛アタック宣言し、
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― 新着の感想 ―
レティシア...敵(?)ってこと忘れてる!駄目だよ、忘れるなは戦略を立てる上で基本の「き」だよーー!!!笑
「ふぁいとー!」 「いっぱぁつ!」 「・・・(冷静になる)」 「・・・(同じく)」 「・・・場の勢いって怖いですね」 「・・・う、うん、ああ」
[良い点] 穴にハマったなんて…… 笑い過ぎて涙がとまりませんでした。 [一言] 面白すぎる
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