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リユニオン 堕天使は不敵に笑う   作者: HARD LUCK
不夜城の怪人 ラスベガス編
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不夜城の怪人 第三五話 ディヒューマナイザー 6


「まともじゃねえぜこいつはよぉ。自分を改造した野郎に喜んで従っているんだからな」


ルーク中尉はそう言い放つと、血をだらだら流すスキンヘッドの生首を蹴った。血の泡を吹きながら生首は壁際へと転がっていく。


「な、仲間じゃなかったのか?」

「仲間? 馬鹿をいうなよ、笑っちゃうぜ。俺をこんな身体にしやがった奴らの何が仲間だ?」


彼は大声で笑いながら爪を見せる。その爪は金属のような銀色の鋭い光沢を放っており、その先には赤いネバネバしたものが付着している。あわれなパーセル少尉の血だった。


「なあ、お前も俺のお仲間なんだろう?」

「え?」

「自分の身体を改造されて、無理矢理に奇妙な能力を身につけさせられた。そしてその力を使ってここから脱走しようとしている、そうなんだろ?」


どうやらミナトがここに捕まっていて、すきをみて逃げ出した被験ひけん体か何かだと思っているらしい。ルークの語り口は哀れみと同情を含んでいる。


「お前はラッキーだぜ。そうやって自由を手に入れようとしているんだからな。俺なんて最低だぞ? 能力を植え付けられたときに小指の先ほどのほんの少し反抗しただけで、薬けにされてさっきまで立つことも歩くこともできなかったんだ。そういう意味ではこいつに感謝だな」


ルークはまたパーセルの不気味な生首をボールのように蹴った。無感情に白目を剥いた首はただ壁際へと転がっていく。

ルークが「なあ」とぐるりと振り向きミナトの両目を捉える。


「俺たちはこれから自由になる。しかしそれを俺たちだけが自由を享受きょうじゅできるのは不公平だと思わないか?」


ルークの口元には終始しゅうし得体の知れない笑みが広がっている。しかしその目は狂人のように見開かれ、一度も笑みを浮かべたことはない。

要するにルーク中尉は笑っていないのだ。自分の心を明るく偽ろうとして笑っているが、心の中には怒りの炎が燃え上がっている。

それは誰に対する怒りか?

ミナトか? いや違う。

生首になったパーセル少尉か? それも完全とは言えない。

ルーク中尉は続けた。


「俺とお前、二人でこの基地をぶっ壊しちまおうぜ」


答えは自分を怪物に作り変えたこの基地、エリア51全てにである。彼はまっすぐな怒りの持ち主だった。





「よし、これで生命力はあらかた吸い尽くしたな」


全身をしばっていた拘束をき、久方ぶりに動いた首をコキコキと漆間うるまは鳴らした。自由をなつかしむように伸びをして、硬くなった関節を解きほぐしていく。床には二つのミイラが転がっていた。

漆間はいかにして監視から生命力を奪ったのか?

それは彼の隠し持っていた植物の種子に関係がある。

拘束された漆間を監視していたのは二人だった。その二人は以前に漆間にやられた四人と同じてつを踏まないためにも、何重にも拘束された彼の手が届かない距離に立っていた。もちろん、手首は手錠でしばられている。椅子いすに固定されて身動きひとつできない状態である。しかし不気味な能力に対して監視の男たちは油断できなかった。なぜなら漆間がどうやって前の四人をミイラに変えたかわからなかったからだ。

漆間の能力は生命力の授受じゅじゅ。右手で奪い、左手で与える。生命力は老いと若さに似ていて、彼はそれを駆使することで生物を老人にしたり、傷の治癒力を高めたりする。それは全て手で触れることが発動条件であった。

さらにいうと生物さえ介していれば、間接的に触れた場合にも成立する。

漆間は左の奥歯の隣に隠し持っていたアサガオの種子を拘束される前に、あらかじめ左手で包み込んだ。生命力を受けた種子は左手の中をそろりと抜け出すつるを伸ばした。慎重に、慎重に、目の前の二人に気づかれないよう自分の影に蔓を隠して、光に当てないよう、葉をつくるまで成長しないように、長く長く伸ばしていく。

そしてその細長く、日も当たらず真っ白なアサガオの蔓は監視の二人の足首をそっと一周し、漆間が種子を握りしめると同時にギュッと巻きつく。


「なんだ!?」


と二人が驚き足元を見る間に左手から伸びていた蔓を右手でつかんだ。

右手は生命力を奪う右手である。

二人の屈強な足首は一瞬にしてせ細り、ミイラのようにからびた。無論、突然れ木のように朽ちた脚で屈強な軍人の身体を支えられるわけもなく、二人は片脚を突如とつじょとして失ったかのようにコンクリートの床に崩れ落ちた。

あとは簡単である。蔓を今度は顔に巻きつけ、生命力を奪って動けなくなる程度まで老化させたあと、そのまま蔓で鍵を奪い拘束を解く。そして改めて監視の二人の生命力を奪い尽くす。それが漆間がエリア51から逃れるためにこれまでした全てだった。


「さて……、こっそり逃げるときの定番は通風口だが……」


部屋の中をぐるりと見回すと、通風口があるにはあったが溶接されていて蓋が取り外せそうもない。


「ドアから堂々と逃げるしかないか」


そう決心してドアを蹴破ると、そこはすでに赤い光がまばゆく照らし、警告音を耳が痛くなるほどに鳴り響かせていた。






「田沼さんよお、あんたを病院に連れていってやりてえが、俺にはこの本を持てねえぜ」


魔本『堕天使の懺悔ざんげ』はミナトが生み出した生物だけを燃やすあおい炎につつまれている。間接的に持てば大丈夫かと思い、暖炉だんろに置いてあったカナバサミで突ついて鞄の中に入れようとしたのだが、炎は目ざとく蒼い触手を伸ばしテオの太った右手を捕まえようとする。どうにも生物が近づく、あるいは間接的に魔本を動かそうとするだけでもこの蒼い炎は反応するらしい。


「私が自分で持ちますよ」


田沼がひょいと魔本を手に取った。炎は魔本を依然いぜん包み込んでいるが、それを手に取った田沼の手は無事だった。


「あんたは生き物じゃないのか?」

「秘密ですよ」


と田沼は薄く笑った。

ホワイトブロンドのガキ、リタは田沼に終始怯えている。確かに気味の悪い男だが、震えるほどもないだろう。


「じゃあ行こうか。嬢ちゃんの親父さんのところへ」


三人はこれから病院へと向かう。リタの父であり、天才外科医でもあるエドガー・シュミットと会うために。




「いいか? この基地は二ブロックに分かれている。俺たちが今いるのはここ、航空基地ブロックだ」


ミナトにとってルーク中尉と出会えたことは幸運だった。潜入にはなかば成功、半ば失敗という中途半端な状況に立たされ、漆間がどこにいるか探さなければならないのに軍人に追われる始末である。そんな折にであったこのルーク中尉はこの基地の内情に明るく、しかも能力者である。好都合としか言いようがない。


「――だから通常ならこの連絡橋を通って研究所ブロックに向かわなくてはならないわけだが……、聞いてるのか?」

「……うん、聞いてるよ」


研究所ブロックと航空基地ブロックとは物理的に隔絶かくぜつされている。それは人員の異動が激しい航空基地ブロックの軍人たちが誤って極秘ごくひ資料が満載の研究所ブロックに入り込むのを防ぐための当然の処置だった。唯一、この二者を繋げるのは五階に渡された連絡橋のみである。


「連絡橋は使えない。基地側としたら、僕らが研究所ブロックを目指しているのは明らかだからね。連絡橋を封鎖するだけで僕らを足止めできるし、万が一突破されそうになっても連絡橋ごと落とせば侵入を防ぐことができる」


ルークは満足そうに頷く。


「その通りだ。だから俺たちは別のルートを使うんだ」



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