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Imitation  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年生 夏季休暇編
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不器用な大人たち

フォンブラウ領に戻って一番最初に見たものは、アーサー様とテウタテス様の大火力【火の(ファイアボール)】だったと言っておこう。


それを水で打ち消し氷の刃を飛ばす孫一同、何も悪くないと思う。





「父上、御爺様、いきなり大火力をぶっぱなすのはいかがかと思いますが?」

「「すまぬぅ……」」


現在、父上によるテウタテス様とアーサー様へのお説教が進行中である。

テウタテス様もアーサー様も、孫曾孫が帰って来るのが待ち遠しかったらしい。

それでもあんたたちの大火力の威力についてちょっと話し合おうかというお話になるわけで。


俺たちは普通に水で防いだがかなり水蒸気が上がっていた。

母上から聞いた話だと、テウタテス様の方は特に、水蒸気爆発を魔術で起こすのが得意らしく、彼のその魔術に関しては【エクスプロージョン】に分類されているようだ。


つーか、父上、水使えたんですね。

この家の歴史書読み直そう、そうしよう。


そんなことを考えていたら、ソルとルナが入室してきた。


「「お帰りなさいませ」」

「ただいま、ソルちゃん、ルナちゃん」


母上が微笑んで言葉を返し、ソルとルナは次の瞬間俺に殴りかかってきていた。

避ければ次は蹴りが来る。

それを手で払ってバランスを崩したソルを抱きとめた。


「……よくも心配かけたわね」

「……悪かった」


アウルムが俺から目をそらしたので、連絡したのはあいつだろう。

まあ、仕方ないとは思うが。

今回のバルフレトの件はドルバロムが焦ったほどだったそうだからな。


バルフレト、というと、上位火竜種の頂点に立つ存在である。

俺としては別に生きていれば問題なかったのだが、周りはそうはいかないというものだろう。この調子だとカルからも何か言われそうだな。


ソルを立たせ、こけてしまったルナの手を取って立たせる。


「……それにしても、なんか、変な感じがするわね」

「そうなのか」

「うん、なんか溢れかけてる桶に蓋してる感じ。沸騰したお鍋の方がイメージ近いけど」


魔力、とりあえず抑えているつもりだったんだが、そんなに抑えきれていないのだろうか。


「そんなに? 私には分からないや……」

「ソルちゃんはちょっと敏感だもの。魔術に特化してれば分かるわ」


そんな母上の言葉に、俺は目を丸くした。

父上が説教を終えたテウタテス様とアーサー様に話を振ってみたら、かなり魔力が溢れているように感じるそうで。


「……自分では全く分からないのですが?」

「うん、そんなモノよ。でも、それだけあると流石にかなりの威圧感を放つことになるわ。抑えるための魔道具を買いましょう。ゼロ君はそういう系統は作れなかったわよね?」

「はい」


エルカもどちらかというと効果付与系の魔道具を作る方がメインらしく、俺は大人しく魔道具を買うことになったのだった。

ちなみに。

アクセサリ型のものが多いので、俺はとうとう一番嫌だった、“着飾る”状態になったのだった。


俺が身に着ける魔道具というのは相当腕のいい人が作らないと効果が出なさそうなので、頑張って職人探すよ! と父上やらテウタテス様やらアーサー様やらが張り切り始めた。


あまり豪華じゃない方がいいが、そんなのは頼むだけ無駄というものだ。

魔道具には魔晶石が使われるが、高い魔術効果を運用するならば、それだけ純度の高い魔晶石が必要になる。


物は試しということで、小さな魔晶石で俺の魔力に耐えられるかというのを試したのだが、触れた瞬間に灰になる魔晶石が結構あった。


「抑えてるんですけど……?」

「すごい魔力ねー。御爺様もこんな感じだったらしいわ」


器は遺伝ですかね。


「これは触れる」

「じゃあこの純度からね。って言っても9割くらいの純度だけど」

「それ無理がありませんか」

「大丈夫よ、ドラゴンの魔石を魔晶石に精錬すれば9割余裕だから!」

「ドラゴンが可哀そう」

「理不尽の極み」


これから狩られるであろうドラゴン種に、ちょっと同情。

リーヴァが魔石持ってたりしないかな?

ちょっと当たってみよう。





翌日と翌々日は今まで構ってなかったからという名目でテウタテス様とアーサー様と手合わせをすることになった。

まあ俺は魔術特化型であるし、フォンブラウの血がかなり濃い気がするが。


魔術の訓練と称して2人の御老体をフルボッコしている真っ最中だ。

訓練のために使っている場所には結界を張ってあるし、問題はない。


俺がコードを組むのが苦手だと判断した2人は、俺にとにかくコードの組み方を改めて教え、簡略化した術式を刻むことを教えてくれた。


「遅いっ!」

「はい」


魔術ははっきり言ってこれから学校で攻撃の準備、コードの組み方を習う、という段階なのだが、まあこの人たちには関係なさそうである。


怒鳴られながらコードを刻んでいく。

決まった法則があるものなのだと家庭教師の教科書では習ったのに、この2人はそんなもん全部放棄して丁寧な言葉遣いを一切を排除、必要最低限の字を刻むにとどめている。

それでも大火力なのはこの2人の魔力量がおかしいからだろう。


自分の中で必要な情報だけを集めてそれをコードに落とす。

詠唱と同じである。

あと、やっぱり魔術のイメージは必要なものであるらしい。


無意識にイメージして使っている魔術よりは、きちんとイメージを固めて使った方が威力も上がると。


火の球しか飛んでこないのは、俺が水で防げると分かっているからだ。

時折足元が爆発するので、それからは逃げねばならないが。


とにかく、ゲームのファンタジーとは似ても似つかない、めっちゃ走り回る魔術師である。

逆に騎士でもガンガン魔術を使うやつはいるし、走れない魔術師など格好の的。近接戦闘も仕掛けてくるのでそれを薙ぎ払いつつコードを使った魔術のみで応戦する。


これをする理由は、【サイレント】という状態異常――声が出ない状態を作られた時、詠唱しかできないのでは魔術が行使できないからである。

無詠唱ならばこれは問題ないが、詠唱短縮化では意味がない。

おそらくこれは、声に魔術の発動スイッチを持たせているために起きることだろうと思われる。


アーサー様は特に、それで妹を喪っているという。

そりゃ躍起になって教えるわけだ。


俺は何とかコードを組み終える。

走り回るとコードをうまく刻めないのだ。

だから皆詠唱に頼る。

【サイレント】を使われて一間の終わり。


こちらが使うのは土属性魔術。

火属性で砕けるためだ。御二方ならば傷付くことはない。


「甘いッ!」

「チッ」


手数が足りなかった。

土の楔のようなものを飛ばす【土の(ランス)】を大量に撃ってみたのだが、テウタテス様が深く切り込んできた。

刀で何とか軌道をずらし、蹴りを入れる。


「まだまだ!!」


アーサー様が大量に火の球を飛ばしてくる。

コード刻むのが早すぎるだろう!!


水で防御、刻もうとすれば近くにいるテウタテス様が切り付けてくるので回避するしかない。

間に合わない。


「チッ……!」


何度目の舌打ちかもうわからないが、とにかく俺はコードを刻む。

水の盾を――。


(――盾?)


目の前が見えなくなってしまうのはいただけないのである。

さっきからそれで何度もテウタテス様に蹴られている。

一瞬でイメージしたものを出すとしたら、やっぱりアイコンのような感覚がいいだろう、とどこかで遠く考える。


では、盾。


随分と冷静になることができた。

いや、冷え切ったというべきだろうか?


コードが刻まれる。中央に盾のマークの、青いコード。

それを、水色に変える。

【氷壁】。


名前などいちいちつけなくていい。

見たものそのものを名付けてしまえ。


オレンジ色のコード。中央に手のマーク。

【拘束】。


「ぬあっ!?」

「おお!?」


御二方の声が聞こえる。氷の壁が一度蹴られたところからパキパキと崩れていきそうになっている。

水色のコードが現れる、マークは氷の結晶。

【氷結】。


さあどうだ。


俺は透明度の高い氷の向こう側へ顔を出した。

そこには、テウタテス様とアーサー様ががっちり拘束された状態で止まっていた。


「「参った」」

「やっと勝てました。【崩壊(ブレイク)】」


2人の拘束を解いて傷を診る。テウタテス様が低温火傷気味。

赤いコード、炎のマーク。

【暖炉】。

温もりよ溢れろ( ´∀` )


「おお……もうコードをこんなに早く刻めるようになったのか……」

「省略もできませんがね」

「このコードは、マークを中央に?」

「はい」


要は、ピクトグラムを参考にしたのだ。

あれ、慣れると分かりやすいからな。


「素晴らしい案だな」

「前世で地図を表すのに利用されていたものを参考にしただけです」


俺はテウタテス様の傷を【癒しの(ヒールウィンド)】で治し、腰を下ろした。


今まで構えなかった分、これから構いたいのだという意思がありありとうかがえる御二方だが、齢を考えろという話である。





俺は数日後、カル以外のメンバーとお茶会をして、エルカたちを紹介した。

皆快く受け入れてくれたので本当によかった。


エルカたちにはフォンブラウ領の館と王都を繋ぐ転移用の魔道具を渡しておいた。これでいつでも逃げられる。ちなみにヴォーグは魔力が少ないので魔晶石を持たせてある。


「さて、明後日から学校だけど、忘れ物はない?」

「ない」

「ありません」

「ないよー」

「では、出発!」


ソルの声とともに、俺たちは王都へ転移したのだった。


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