ヨロコビのタネ 4
タネが見つかってから、みんなは目一杯遊びました。
駆け回って転がって飛んで跳ねて叫んで笑って、楽しくてしょうがありませんでした。
でも花ちゃんは落ち着かない様子です。
花ちゃんはタネがでてもずっと、たそがれ君のことが気になっていました。
花ちゃんはいてもたってもいられなくなって、探しに行かなきゃ、と走り出しました。
たそがれ君はすぐに見つかりました。ちょっと離れた所にタネが運ばれたのではないかと考えて、周辺でずっとタネを探し回っていたのです。
よく見ると洋服も手も顔も、泥だらけでした。
たそがれ君が花ちゃんの花に気がついて笑顔を見せました。
「花ちゃん、タネ見つかったんだね。よかった」
たそがれ君はほっとしましたが、これ以上近くにいてはいけないと思い立ち去ろうとしました。まだ自分の不運が花ちゃんを巻き込むと思い込んでいるのです。
花ちゃんはたそがれ君の腕をしっかりつかみました。
「たそがれ君も一緒に遊ぼうよ。たそがれ君がいないと寂しいよ」
そう言って花ちゃんは悲しい顔をしました。
「でも……」
たそがれ君はまだ迷っています。
「花はね、たそがれ君がいないと哀しくなるよ。でも一緒に遊んだらすごく楽しくなるの。ううんとね、だから、行こう」
花ちゃんはどうにかたそがれ君にわかってもらいたいのに、うまく言葉に出来ません。
「でも花ちゃんがまた僕のせいで泣いてしまうかもしれない」
たそがれ君は、花ちゃんにもう哀しい思いをしてほしくないのです。
「泣いてもいいよ。それに花、今日泣いたけど嬉しいこともたくさんあったよ。泣いたことも、なんだか楽しかったよ」
花ちゃんは自分の気持ちをたどたどしくも精一杯伝えて、それはたそがれ君の心にちゃあんと届きました。
「わかったよ。ありがとう、花ちゃん」
「行こう」
花ちゃんはたそがれ君の手を取って広場まで連れて行き、たくさん遊びました。
たそがれ君はやっぱり人よりたくさんこけて、ボールが当たって、穴に落ちて大変な目に合いましたが、笑うのに精一杯で前みたいに悲しむ暇なんかありませんでした。
たくさん遊んで疲れておなかが減ってきた頃、大きな虹が架かりました。
「虹を渡っておうちに帰ろう」
空ちゃんはそう言うと花ちゃんと手を繋ぎました。空ちゃんがいるから、虹も歩いていけるのです。
同じように花ちゃんはたそがれ君の手を繋いで、たそがれ君は毒キノコちゃんの手を繋いで、毒キノコちゃんはとんがりくんと手を繋いで、とんがりくんは野球帽くんとてをつないで……そうやってみなで手を繋いで虹を渡りました。
虹の上は七色にキラキラ輝いてとてもきれいです。
歩きながらみんなで歌を歌いました。
陽の光がポカポカして、心の中もポカポカしてすごく良い気分です。
タネを探したことも、遊んだことも、手のぬくもりも、この風景も、みんな今日のことはずっと忘れないでしょう。
今日のことを思い出すだけで、心の中に花が咲き、哀しい時でも笑顔を取り戻せるでしょう。
それは自分が誰かを想った、誰かが自分を喜ばせた、そんな証となる記憶です。
目には見えないけれど、ずっとずっと、この記憶はみんなの中でキラキラと輝き続けるでしょう。
でも、今はただみんなでケラケラと笑います。
誰かが笑って、自分も笑う。今はそれだけが大切なことなのです。
みんなの笑う声を聞いて、今日は良い一日だったなあ、と花ちゃんはニッコリと笑いました。
花ちゃんの帽子の中からは次々に花が咲き、花びらは帽子から零れ落ちて穏やかな風に舞いながら、虹の上で輝きます。
それはそれは、とてもきれいな光景でした。




