表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

ヨロコビのタネ 4

 タネが見つかってから、みんなは目一杯遊びました。

 駆け回って転がって飛んで跳ねて叫んで笑って、楽しくてしょうがありませんでした。

 でも花ちゃんは落ち着かない様子です。

 花ちゃんはタネがでてもずっと、たそがれ君のことが気になっていました。

 花ちゃんはいてもたってもいられなくなって、探しに行かなきゃ、と走り出しました。

 たそがれ君はすぐに見つかりました。ちょっと離れた所にタネが運ばれたのではないかと考えて、周辺でずっとタネを探し回っていたのです。

 よく見ると洋服も手も顔も、泥だらけでした。

 たそがれ君が花ちゃんの花に気がついて笑顔を見せました。

「花ちゃん、タネ見つかったんだね。よかった」

 たそがれ君はほっとしましたが、これ以上近くにいてはいけないと思い立ち去ろうとしました。まだ自分の不運が花ちゃんを巻き込むと思い込んでいるのです。

 花ちゃんはたそがれ君の腕をしっかりつかみました。

「たそがれ君も一緒に遊ぼうよ。たそがれ君がいないと寂しいよ」

 そう言って花ちゃんは悲しい顔をしました。

「でも……」

 たそがれ君はまだ迷っています。

「花はね、たそがれ君がいないと哀しくなるよ。でも一緒に遊んだらすごく楽しくなるの。ううんとね、だから、行こう」

 花ちゃんはどうにかたそがれ君にわかってもらいたいのに、うまく言葉に出来ません。

「でも花ちゃんがまた僕のせいで泣いてしまうかもしれない」

 たそがれ君は、花ちゃんにもう哀しい思いをしてほしくないのです。

「泣いてもいいよ。それに花、今日泣いたけど嬉しいこともたくさんあったよ。泣いたことも、なんだか楽しかったよ」

 花ちゃんは自分の気持ちをたどたどしくも精一杯伝えて、それはたそがれ君の心にちゃあんと届きました。

「わかったよ。ありがとう、花ちゃん」

「行こう」

 花ちゃんはたそがれ君の手を取って広場まで連れて行き、たくさん遊びました。

 たそがれ君はやっぱり人よりたくさんこけて、ボールが当たって、穴に落ちて大変な目に合いましたが、笑うのに精一杯で前みたいに悲しむ暇なんかありませんでした。


 たくさん遊んで疲れておなかが減ってきた頃、大きな虹が架かりました。

「虹を渡っておうちに帰ろう」

 空ちゃんはそう言うと花ちゃんと手を繋ぎました。空ちゃんがいるから、虹も歩いていけるのです。

 同じように花ちゃんはたそがれ君の手を繋いで、たそがれ君は毒キノコちゃんの手を繋いで、毒キノコちゃんはとんがりくんと手を繋いで、とんがりくんは野球帽くんとてをつないで……そうやってみなで手を繋いで虹を渡りました。

 虹の上は七色にキラキラ輝いてとてもきれいです。

 歩きながらみんなで歌を歌いました。

 陽の光がポカポカして、心の中もポカポカしてすごく良い気分です。

 タネを探したことも、遊んだことも、手のぬくもりも、この風景も、みんな今日のことはずっと忘れないでしょう。

 今日のことを思い出すだけで、心の中に花が咲き、哀しい時でも笑顔を取り戻せるでしょう。

 それは自分が誰かを想った、誰かが自分を喜ばせた、そんな証となる記憶です。

 目には見えないけれど、ずっとずっと、この記憶はみんなの中でキラキラと輝き続けるでしょう。

 でも、今はただみんなでケラケラと笑います。

 誰かが笑って、自分も笑う。今はそれだけが大切なことなのです。

 みんなの笑う声を聞いて、今日は良い一日だったなあ、と花ちゃんはニッコリと笑いました。

 花ちゃんの帽子の中からは次々に花が咲き、花びらは帽子から零れ落ちて穏やかな風に舞いながら、虹の上で輝きます。

 それはそれは、とてもきれいな光景でした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ