ヨロコビのタネ 2
「たそがれ君」
泣きながら呼んだ花ちゃんの声は、たそがれ君には届きませんでした。
花ちゃんはたそがれ君に悪いところがあるなんて一つも思っていません。
なのにたそがれ君が傷ついてしまったのがとても哀しくて、ますます胸が苦しくなるのでした。
「私のせいだ。私の風が悪いんだ」
空ちゃんも泣き出し、雨が降り出しました。土砂降りです。
「ちがうよ、ちがうよ」
花ちゃんは泣きながら首をぶんぶん振りました。
あの時たそがれ君が元気になったことを、花ちゃんと同じように空ちゃんも喜んでいたのを知っているので、空ちゃんが悪いとはどうしても思えません。
ただ表現が、少し違っていただけなのです。
二人でわんわん泣いていると、色鮮やかなキノコを頭にのせた毒キノコちゃんが通りかかりました。
「何ふたりで泣いてるの、ばかみたい」
泣いている人間に対してもいつもと変わらない言い方です。
泣きながらなんとか事情を説明すると、毒キノコちゃんはまぬけ、とんまと責め立てました。
「泣いてるだけじゃどうしようもないでしょう。なんで花のタネを探さないの」
そう言って傘を放りだし、雨の中タネを探し始めました。
花ちゃんは哀しみに動けず泣き続けていましたが、空ちゃんは毒キノコちゃんの言葉に気付かされ、涙を拭き一緒に探し始めました。
「何やってるんだよ」
とんがり帽くんと野球帽くんもやってきました。空ちゃんはタネ探しの話をしました。
「ふうん」
なんて興味のなさそうな言い方をしましたが、いつも意地悪なとんがり君は泣いている花ちゃんを見てしゅんとなり、野球帽くんと一緒にタネを探し始めました。
毒キノコちゃんもとんがり帽くんも花ちゃんにいつも意地悪を言うのに、雨の中必死でタネを探しています。
本当は優しいんだねと、空ちゃんは花ちゃんに伝えたくて花ちゃんの近くまで行きましたが、泣いてばかりでみんなが来たことにも気付いていないようでした。
でも、と空ちゃんは考えます。
空ちゃんと花ちゃんが友達になる前、空ちゃんは悲しいことをかくして強がって、怒ってばかりいましたが、花ちゃんだけは優しく接していました。みんなは空ちゃんを難しい人だって言っていたのに、花ちゃんだけは『楽しいね』と言って笑いかけて、一緒に遊んでくれました。
空ちゃんはそれがとても嬉しかったのです。
『花ちゃんはただにこにこしているだけじゃなくて、人があんまり見せないところもよくわかってるんだ。もしかしたら花ちゃんはみんなが優しいことも、知っていたのかな』
空ちゃんは首をかしげて花ちゃんを見ました。
やっぱり花ちゃんは泣いてばかりです。
空ちゃんはこの優しい友人を助けようと、さらに気持ちを強くしました。
強く降っていた雨が止み、暗い雲がどこかに消えて、太陽が顔をだしてきました。
濡れた服もすぐに乾くような、よく晴れたいい天気です。




