第二話 「禁忌」
前書き
第二話です。
主人公の力が、
ただの“特殊な回復魔法”ではなく、
世界そのものが封印した禁忌だったことが少しずつ見えてきます。
今回から、
命理魔法の危険性や、
世界に隠されている闇も出てきます。
追放ざまぁ系から、
徐々にダークファンタジー寄りになっていく予定です。
それでは本編をどうぞ。
「寿命を……回復している?」
俺は呆然と呟いた。
目の前の老人——いや、もう老人ではない。
数秒前まで死にかけていたはずの男は、
今では五十代ほどにしか見えなかった。
白髪には黒が戻り、
曲がっていた背筋は真っ直ぐ伸びている。
ありえない。
こんなこと、回復魔法で起こるはずがない。
「お前、自分の力を理解しておらんのか」
男は苦笑した。
「俺の力は……傷を治せない」
「違うな」
即答だった。
「お前の力は“傷”ではなく、“命”を回復しておる」
命。
その言葉が重く響く。
「普通の回復術師は肉体を修復する。だが、お前は違う」
男は静かに言った。
「お前が干渉しているのは、生命そのものじゃ」
理解が追いつかなかった。
そんな魔法、聞いたこともない。
「……あんた何者だ」
「ふむ」
男は少し考えた後、笑った。
「ゼノ、と呼べ」
その瞬間。
空気が変わった。
まるで巨大な魔物を前にした時のような圧力。
本能が警鐘を鳴らす。
——強い。
桁違いに。
「ワシはかつて、“千年賢者”と呼ばれておった」
思考が止まった。
千年賢者。
それは神話に出てくる存在だ。
数千年前、
魔王戦争を終結させた六英雄の一人。
「……いや、待て。千年賢者って、もう死んでるだろ」
「死にかけてはおったがな」
ゼノは肩を回す。
「寿命を繋ぎ続けて生きておった」
「……は?」
意味が分からない。
だが、俺は今、
目の前で老人が若返る光景を見た。
否定できない。
ゼノはそんな俺を見て、小さく笑った。
「お前の魔法は《命理魔法》じゃ」
「命理……魔法?」
「神代に存在した禁忌の術式」
ゼノの声が低くなる。
「生命を癒すのではない。“生命そのものを書き換える”魔法じゃ」
その瞬間、
背筋に寒気が走った。
「かつて世界は、この力によって滅びかけた」
ゼノは一本指を立てる。
「寿命を過剰回復された兵士は、生命力に耐えきれず暴走した」
「暴走……?」
「肉体が限界以上に活性化する。筋力も魔力も何倍にも膨れ上がる」
ゼノの目が細くなる。
「じゃが理性を失う」
俺は息を呑んだ。
そんなもの、
回復魔法じゃない。
兵器だ。
「さらに命理魔法は、他者の寿命を奪うこともできる」
「っ……!」
「熟練者は触れるだけで相手を老衰死させる」
冗談じゃない。
そんなの化け物だ。
だがゼノは続ける。
「自らの寿命を燃やし、限界以上の力を得ることも可能じゃ」
「寿命を……燃やす?」
「寿命十年で数秒。寿命百年で一撃」
ゼノは静かに告げた。
「神代の英雄たちは、命を削って戦った」
命を燃料に戦う。
その言葉は妙に現実感があった。
俺は、自分の手を見る。
今まで無能だと思っていた力。
だがその正体は、
世界が封印した禁忌だった。
「なぜ……そんな危険な魔法が存在するんだ」
「必要だったからじゃ」
ゼノは夜空を見上げる。
「世界には、“死”すら超越した化け物がおった」
風が吹いた。
次の瞬間。
ゼノの表情が初めて険しくなる。
「そして今も、生きておる」
「……え?」
「数千年前、命理魔法によって不死となった皇帝」
その声は重かった。
「世界は奴を“死んだ”ことにしておるがな」
嫌な汗が流れる。
「そいつは今もどこかで生きている」
ゼノは真っ直ぐ俺を見た。
「そしておそらく——」
その瞬間だった。
ゾクリ、と。
背後から異様な気配が走る。
路地裏の奥。
暗闇の中に、“誰か”が立っていた。
顔は見えない。
だが。
黄金色の瞳だけが、
こちらを見て笑っていた。
第二話を読んでいただきありがとうございます。
《命理魔法》の危険性、
そして“不死皇帝”という存在が出てきました。
主人公の能力は便利な回復魔法ではなく、
世界を壊しかねない禁忌です。
今後は、
寿命という概念
種族ごとの命の価値
命理魔法を巡る思惑
主人公の変化
この辺りも描いていく予定です。
少しでも続きが気になったら、
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