第7話 猫は探偵になる
「なるほど。彼らは本当に古い友人だったんですね」
机の上にあるお茶には触れず、阿賀川警部は淡々と舛崎太郎の動機について語った。
9年前にビール業で起業した仲間として、良き好敵手として仲が良かったのだそう。ビール業で一生食べていくと誓った。だが、6年前、山田太郎が舛崎太郎に何も知らせず、他の業界に手を出し、その上、大企業へと変貌した。かつての山田太郎は死んだ。そう思うと、自身の会社を買収することへの怒りが抑えきれなかったんだろう。
「人は怖いですねぇ、警部。お金で性格も変わってしまう」
「ああ。だが、一番怖いのはあの秘書だ。6年前に彼女が秘書になってから、山田太郎は変わったと聞く。もしかしたら、彼女に何か吹き込まれたのかもな……」
「……裏社会ですかね」
「さあ、今のところはわからない。だが、最近は『フリーキル』という裏社会の組織が暗躍しているという噂が広まってきている。もし探偵業をこのまま続けるなら、気を付けたほうがいい。知らぬ間に誰かに恨まれているかもしれんぞ」
少し声をひそめて、忠告をした。
「ハハッ。安心してください。……経験は豊富ですから」
「それじゃ、今回は感謝する。これは私からのほんの気持ちだ。次は事件以外で会えることを祈るよ」
警部は懐のポケットから、茶色い封筒を取り出した。
お茶を飲み干すと、立ち上がり玄関のほうへ向かった。
靴紐を結びながら、警部が訊いてきた。
「……ちなみに、名前を訊いていなかったな」
さて、なんて答えるのが適切なのだろうか。
……考え込んでしまうのは、私の悪い癖だ。それは自分自身がよくわかっている。この場合の選択肢は一つしかないのもよくわかっている。
私は口角が上がるのを感じながら、こう言った。
「私は猫屋敷。……『探偵』ですよ」




