第1話 猫はこうして始まる
家に闇金が来た。ドアの向こうには、いかにも危ないところからやってきたような風貌の男が二人立っている。
「すみませぇーん。猫屋敷さん。いるのはわかぁってるんですよ。ちぃとだけ出てきてくれんませんかねぇ」
さて、どうしたものか。
第一、私は危ないところからお金を借りたことはないし、そもそも借金というものは人生の中でたったの一回もない。この借金取りは誰かと勘違いしているのではないかと思った。ただ、相手は私の名前を知っている。これは由々しき事態である。
猫屋敷などという、棚からぼた餅が落ちてくるような確率と同じくらい珍しい苗字を間違える訳ない。ゆえに、この借金取りは私からお金を徴収しようとしていると確信できた。
恐らく、原因は父親だ。父親は昔からギャンブルや競馬などで浪費する癖がある。お金が足りなくなると借金をするようになった。それが発端となり、両親は離婚。私は父親に引き取られた。今までは、たまに千万規模の大当たりでなんとか借金を返済したりして、家計を保っていたが、今回はどうやら失敗したようだ。闇金に手を出し、私を勝手に連帯保証人にし、返済が不可能となり逃げたというところだろう。
では、どうするか。ここで振り出しに戻る。
まずは居留守という選択肢がある。だが、相手の「いるのはわかっている」という発言からして、多分私が部屋にいるのはわかっている。今どれだけ粘ろうと、相手もずっと居座るかドアを突き破ってくるかの二択だろう。「いないのかな」なんて甘い言葉が彼らの口から出るはずもない。
次に、素直に応じるという手がある。だが、この場合は勝手に家に入り込み、金目のものを根こそぎ奪い取っていくという光景が目に浮かぶ。最悪の場合、私の命もこの世から無くなってしまう可能性もある。これは、絶対アカンの選択肢だ。
一番いい手は、警察を呼ぶということだ。警察の前では、闇金も忠犬ハチ公。ワンと吠えるしか能がなくなる。ワンと鳴くのは、警察もそうか……。だが、警察が来る前にドアを破られる可能性も無きにしも非ず。
「いないか。今日はズラかるぞ」左の男が言い、去ってしまった。
どうやら、考えているうちに結論が出てしまったようだ。
この場合の選択肢として一番の好手は、居留守を使うということであると。まだ選択肢がすべて出きっていなかったのに……。
なんとか危機的な状況から脱したとはいえ、未だ脅威は消え去ってはいない。いつ闇金が来るかわからないからだ。
これから警察に駆け込むか、それとも消費者ホットラインに電話するか、どうするか。色々考えたが、警察や公的機関に頼るのは、先ほどの忠犬ハチ公と同じになるような気がして嫌だった。
私は家にある荷物を片付け、アパートを探した。ついでに、職も捨てた。




