【第22章】永遠に
その映画の結末は、原作と違っていた。
原作では、友達以上恋人未満の関係になった男女が、映画では二人が結ばれて終わる恋愛映画になっていた。
正直、これだけ原作を変えて問題にならないのかと思った。
役者はイメージと外れてなかったし、演技も良かった。
だから、尚更なぜ結末が変わったのか。
2時間の映画が終わり、真っ暗だった館内が明るくなっていく。
まるで、夜が明けていくみたいだ。
立ち上がろうと思い、彼女の方を見るとボーッとした顔をしている。
しばらくすると、ハッと我に返ったように僕の方を見て「行こうか」と言い、立ち上がった。
それでも、まだどこかぼんやりしている。
映画を観終わったあとは、その世界からすぐに抜け出せないことはある。
僕は原作を読んでいたから、どこか客観的に映画を観ていたのかもしれない。
でも、彼女は初めてこの物語に触れたのだ。
僕たちは多くを語らず、昼食を食べに行った。
映画館から少し歩いて、路地に入ったところにある蕎麦屋。
彼女が行きたかった店だ。
うぐいす色ののれんをくぐり、扉を開けると店内は混んでいた。
たまたま二人席が空いたので、僕たちはそこに座った。そして、お互い蕎麦を注文した。
僕はモノを捨ててから、めっきり食べる量が減ってしまった。
だから、友達と食事に行くのも避けるようになった。
もともと、お酒が飲めないから誘われても断ることが多かったけれど……。
「面白かった」
蕎麦を待つ時間、彼女がしみじみと言う。
「映画館に来たのは、久しぶりだったけど面白かった。主人公の二人がどうなるのかと思ったけれど、ハッピーエンドになって良かった」
映画を思い出しながら、彼女は話す。
それから、僕を見つめる。
映画の感想を聞きたがっていると分かった。
「最後は……」
僕は思っていることを言おうとした。
二人がハッピーエンドになったことは変わらなかったけれど、それが恋愛に着地したことに違和感を覚えていた。
でも、それを言うにはあんまりだ。
「二人は、これからどうするんだろうね」
とだけ言った。
本当は「僕も面白かった」と答えた方が良いのだろう。
彼女でなかったら、迷わずそう言ったと思う。相手に合わせて……。
確かに原作は読んでいたけれど、映画自体は楽しめたのだから、嘘ではない。
でも、彼女に対してはそんなことしたくなかった。嫌われてしまうとしても。
「きっと、二人は恋人のような、友達のような、家族のような……。
そんな、かけがえないのない存在になっていくんじゃないかな」
静かに笑いながら、彼女は続ける。
「最後、二人は結ばれたけど、私はそれ以上のものがあったんじゃないかなって思う。
だから、きっと永遠に支え合って生きていけるよ。お互いを必要としている限り」
僕は、黙ったまま何も言えなかった。
そのうちに、蕎麦が運ばれてきた。
彼女は小さく両手を合わせて「いただきます」と言い、美味しそうに蕎麦を食べ始めた。
僕も箸を手に取り、一口食べる。
美味しい。
誰かと食べるのは、久しぶりのことだった。
視線を感じて、顔を上げると彼女がじっとこちらを見ている。
「何?」
思わず声が出る。彼女は慌てて、
「ごめんなさい。桐山さんが食べてるの、初めて見たから」
と謝った。
そして、また食べ始めた。
もしかして、僕があまり食べないことを気遣って、あっさりしたものにしてくれたのかもしれない。
僕は申し訳ない気持ちと、彼女の優しさを感じた。
「美味しい」
そう言うと、彼女は驚いた顔をして、嬉しそうに笑った。
今日は、本当にこれまで泣いていた彼女と、どこか違う。明るくて和やかだ。
そして、さっきの映画の感想。
僕は正直、動揺している。
彼女の言葉が胸をざわつかせていた。




