3羽 「雌雄鑑別師です!」①
「うーんと、ヨータは『ニホン』という国に住んでいて、このヴェルク=シーヴィ国のことは見たことも聞いたこともないと、そう言いたいんだな?」
「はい、その通りです……」
もう一度家の中に戻って、今度はお互いテーブルの席に着いて向かい合う。そしてタルクさんが、言い含めるような口調で僕に確認した。ちなみにタルク・エルシさんって呼んでたら、まどろっこしいから名前だけでいいって言われたからそうしてる。敬称つけて。だから僕もヨータでいいって言ったんだけど、すでに呼び捨てにされている。なんでだよ。まだ26だって思ってないのかよ。ムカつくなあ。
「……ウソならもう少しマトモなやつを……」
「ウソじゃないですよ⁉」
なんだこのイケメン、顔が良くて背が高ければなに言っても許されると思ってるだろ。空気感がビシバシとそんな感じだ。なにもかも恵まれし者のオーラだ。ふざけんな。
僕だってせめてあと7センチくらいほしかった。しかたがないだろ、ノストラさんの遺言を守るため大王退治に最適化された遺伝子だったんだよ、きっと。ひよこを手に乗せるため選ばれし者なんだよ。背が高すぎると孵化場では不便だしね。そういうことにしといてくれ。
顔の方は、まあ。これはこれで気に入ってる。目元が母親似。悪いって程悪くはないだろ。たぶん。
たぶん。
……ないよな?
怨嗟のこもった僕の気持ちが伝わったのか、タルクさんは「そうか」とちょっと引き気味に納得の様子を見せてくれた。
「それにしても……俺も聞いたことがないぞ。その『ニホン』なんて国は」
「えー、あのー。ジャパンです。ジャポン、ジャポーネ、イーポォニャ、リーベン、イルボン。あーあとなにあるかな」
「……言い換えられてもわからんもんはわからん」
それはそう。僕もさっき教えてもらったこの地域の名前を初めて聞いたし、見せてもらった地図もまる目にしたことがないものだった。途方に暮れるってこういうことを言うんだろう。どこだよ、ここ。
とりあえず、今日の仕事のシフトに穴を空けなかったことはよかったけれど、車をアイドリングさせっぱなしだ。だれか鍵を拾って止めておいてくれないかな。
なんて、しばらく僕はのんきなことを考えていた。だってさ、あるわけないだろ? ラノベみたいな異世界転移とか。
「……ステータス!」
「なんだ? なんて言った?」
「いえ、ナンデモナイデス」
ほら、やっぱ違うって。出てこないもん、なんかこう、能力値書いてあるやつ。ボワって。ちょっとチート期待して損した。
「いずれにせよ、おまえの身柄は、警ら隊へ預けることになる」
「えー……それちょっとどうにかなりません?」
「ならんな。自分が身元不明な不審者だという自覚を持て」
「そんな……」
ということで、僕は警ら隊の詰め所へ連れて行かれることになった。ハルシーピっていう怪鳥に乗るのは断固拒否したよ、もちろん。なので「あの丘の建物まで歩くぞ」って言われたけれど、だだっ広くてどの丘のことだかわからなかった。だいたい、丘。めっちゃ目に優しい緑。キレイだけど、車ないと生活できないなー、ここ。
タルクさんは僕より脚が長いので、歩調が一向に合わない。遠慮なくどんどん先に進んで行ってしまうのは、べつに僕を信用しているからとかじゃなく、ハルシーピのグラが僕の後をついて歩いてくるから。こんなお目付け役を撒けるわけがない。
そのうえ、タルクさんから「とりあえず、持っておけ」って言われて、グラからもらった羽を握って歩いている。ちょっとでも遅れたら咥えて巣に連れて行かれるかもしれないっていう恐怖心から、僕はタルクさんに遅れないよう必死で歩いた。脚が細くなりそうだ。そして、めっちゃ風が冷たく感じるけど寒がってる隙はない。
いくつかの丘を越えて、僕の息があがってきたころ。タルクさんがくるっと振り返ってじっと僕を見た。
「……歩くの遅くないか?」
「すみませんねええええええええ」
「もういい。迎えにこさせる。とりあえずそこの家に行くぞ」
「はいはい、どこへなりと……!」
言うと同時に道を右に逸れて坂を登り始めたタルクさんを、僕はやけくそで追いかけた。
そして、そこにあったのは木造の平屋。一見して、僕はすぐにわかった。
「えっ、鶏舎?」
日本の物とは趣きが違うし、いくらか造りも違うけれども。鶏の声が聞こえるし、飼料の穀物っぽい匂いもする。僕が声を上げると、タルクさんは「そうだ」と言って中に声を掛けた。
「おじさん、居るかー⁉」




