2羽 「ここ、本当にどこですか?」②
どこかの家のベッドへ横になっている。
灰色の石壁の、なんだか生活感のない家。横になったまま見回すと、例の赤髪イケメンが椅子に座っていて、残念そうな表情で「おまえは、どこかの箱入り息子か?」と僕へ言った。
「えーっと、恵まれた環境に生まれ育った自覚はありますが……」
「だろうな。でなきゃ、今どきハルシーピ騎乗で気を失うなんて、ありっこない。なんだ、もしかして、他の町へは行ったこともないのか?」
「ええっと、ハルシーピっていうのが、さっきの大きい鳥のことであるなら、乗るのも初めてです。そして、そもそもあんなのに乗って正気でいられる方がすごいかと」
「はあ? なに言ってるんだ? 頭打ったか? それよりおまえ、どこんちの子どもだ?」
子どもって言った。失礼すぎる。僕は起き上がって「古賀陽太と申します。26歳です」と、年齢を強調して言った。
「そりゃどうも。俺はタルク・エルシ。23だ。で、俺より年上を騙るおまえの家はどこだ?」
「騙るじゃなくて、本当に26です。必要なら免許証見せます」
そう言って僕ははっと気づく。……いつも肩にかけている、サコッシュ。
周りを見回す。……ない。ない!
「うわー! まじかー! スマホに財布! クレカも入ってる! もしかしなくても車のキーも落としたままかよ⁉」
「あー? なんだ、財布? おまえ最初からなにも持ってなかっただろうが。俺はなにも盗ってないぞ」
「えっ、じゃあ、あのでっかい建物の中に落として……」
「なかったと思うがなあ? もう一回、グラに乗るか?」
「………………」
また世界がひっくり返る気分を味わうくらいなら、クレカとスマホの会社に連絡した方がいいや、って思う。
「……あきらめます……」
「そうか。じゃあ、目が覚めたことだし、おまえはどこの家のヤツか、教えてくれ」
まあ、勝手に知らない施設へ立ち入っちゃったしなあ。
僕は「新飯塚駅から歩いて10分くらいの、立岩のマンションに住んでいます。スマホ落として来ちゃったんで、今ちょっと連絡できないですけど、702です。管理会社とかに問い合わせてくれれば、母が家にいると思います」と言った。イケメンあらため、タルク・エルシさんが変な顔をした。
「……シンィイ=ヅヵエク? なんだそれは、おまえのハルシーピの名前か? 変わった名前だな。というか、おまえもあんまり見ない顔だ。母親は、外国の方なのか?」
「えー、いえ、純血日本人です……」
さすがに自分の容姿がこのイケメンっぽい感じじゃないことはわかっている。悲しい。でも北欧系の人から見たら、僕の顔のが珍しいのかな。そもそも、日本で純日本人の顔が珍しいっていうことが珍しいけど。
「ジュン=ケッホンジン? おまえの言葉は聞き慣れないものばかりだな。旅巡りの民か? それなら理解できる」
「あのー、正直僕も、先ほどからタルク・エルシさんの言葉で、わからないことたくさんあります……」
「うん? やっぱりそうか。じゃあ、警らに確認するしかないな。最近ここらに、旅巡りの民が寄ったとも聞かないし」
えー、ってなった。この年で、迷子になって警察のお世話になるとか。勘弁してくれ。僕は「いえ、自分で帰れます」と言ってベッドから出た。
「んー、そうか。念の為に俺も着いて行くが、いいか?」
「どうぞ。やましいことはなにもないので」
そして、家の外に出て。
あらためて、見回して。
僕は、タルク・エルシさんを振り返って、言った。
「……ここ、本当にどこですか?」
僕はそのとき、これまでの人生で一番真顔だったと思う。






