12羽 「残るよ!」②
「――と! ……ちょっと、あんた、起きなさいよ!」
揺さぶられて、僕は目を覚ました。明るい。めっちゃ明るい。手を目の辺りにやって光を遮って、目をぎゅっと閉じてからもう一度開いた。ちょっと慣れた。なんか暗いところにずっといたから、朝ってこんなに明るいんだ、と思った。
「ほら、さっさと起き上がって、どけてよ! あーもう、迷惑極まりないヤツね!」
そういえばこの声はだれだろう。ちょっと妹に似てる。雄鶏っぽいけたたましさ感。僕は起き上がって、声の主を見た。
薄い茶色の髪を低い位置でポニテにした、緑の瞳の女の子。10代半ばくらいかなあ。こっちの人、年齢よくわかんないんだよなあ。
じっと僕を見て、そして「あんた、目も黒いのね。ここらへんの人じゃないの? 事故かなにか?」って、さっきの口調よりはちょっと心配そうな声色で聞いてくれた。
「えっと。事故、といえばそうかも。ハルシーピが、負傷しちゃって」
「この子、いい子ね。あたしが近づいてもおとなしい。すごく人馴れしてる。そう、怪我をしているの……」
なんだか、僕に対するよりずっと同情的な視線を向けて、女の子はグラの前に手を出した。グラは、それに答えるみたいにその手のひらをくちばしで軽くつついた。
「とりあえず、事情はわかったわ。ここからどけてほしいの」
「はい、わかりました」
と言っても。グラはどうだろう。僕が首元をなでながら「グラ、歩ける?」と聞くと、グラはきゅるるるーと声をあげた。
「ごめんなさい、ちょっと時間かかりそう。どっちへ行けばいい?」
「……あんた、ハルシーピの首に触れるのね」
びっくりしたような、怒っているような表情で女の子は言った。僕は「ああ、うん。他の子はムリだと思うけど、この子なら」と返す。
「なんで? 翼騎兵隊の訓練生? それにしてはハルシーピが大きいけれど」
「あー、そういうのではない。そもそも、乗れないし。たまたま、この子が僕に懐いてくれているだけ」
番認定されてますとか口が裂けても言えない。ぜったいに。なんか怪しむような目を向けられたけれど、これ以上どう説明しろと。
もう一度「グラ、ゆっくりでいい、移動しよう?」と声をかける。小さい声でキュォーと鳴いた。
「で……どっちへ? 見渡す限り同じ草原なんだけど」
「草原じゃないわ、ラィードの畑よ。……あっち。農道があるから、そこへ」
グラは動かない。いや、動けないんだ。そりゃそうだ。まだ痛いんだろうし、ムリさせたら飛べなくなるって。僕がどうしようか考えていると、女の子が「この子、どこを怪我しているの?」と尋ねてきた。
「お腹と、脚。お腹の傷は深いから、ムリできないって」
「それを早く言いなさいよ」
聞かれなかったし……。さっとどこか遠くを見て、女の子は指笛で複雑な音を出した。するとすぐに、向けた方角から返答みたいに指笛が響き渡ってくる。女の子が応答する。また響いてくる。そんなやり取りが数回。なにそれ⁉ 指笛で会話してる⁉ かっこいい!
「……この子の名前は?」
「グラ」
ぴぃぅ、という音。それ、グラって意味で伝わるのかな。すごいな。興味津々で見ていた僕を振り返って、彼女は言った。
「とりあえず、グラくんのことはしかたないわ。動けるようになるまで待ちましょう。でも、あんたまでここに居られてもこまる」
畑なら、そうだよなあ。長くて黄色っぽい葉っぱ。これなんだろう。どう食べるんだろう。とりあえず「そうですね。移動します。……グラ。またあとでね」と言って、農道へ。本当に、見渡す限り目に優しい黄色い畑だ。稲畑もこんな感じなんだろうな。すごくキレイだ。
女の子がついてきて、なにか言いたそうな顔で僕を見る。とりあえず僕は「あの、ここってどこですか」って聞いてみた。
「ムルナヴェンよ。ラィード畑がたくさんあるんだから、わかるでしょ」
「えーっと、すみません。わからなくて。あのー、灰翼判庁があるところから、どれくらい遠いんですかね?」
「え、あんたヴェルミトゥラから来たの? やっぱ翼騎兵団の人なの?」
質問に対する直接的答えをもらうにはどうしたらいいんだ。なんか母親と話している気分。とりあえず「僕自身は、翼騎兵団の人間ではありません。お世話になっているだけで」と言うにとどめて、質問のしかたを変えた。
「怪我をしているハルシーピを飛ばせないで、ここからどうやって灰翼判庁へ戻れますか」
女の子は、なんだか奇妙なものを見るような目つきで僕へ言った。その声はかなりあきれたって感じで、僕が言ったことはよっぽど常識はずれなんだってことがわかった。
「ムリに決まっているじゃない。トゥルハッラ連峰があるっていうのに、どうやって飛ばないでヴェルミトゥラへ行けるっていうの? 人の足じゃ踏破できないって、学校で教わらなかったの?」




