13羽 「おまえはどうなんだ」①
で、そんなことがあって、僕は今。ラィードっていう葉っぱみたいな穀物を収穫するための人員として雇われ、日々刈払鎌をふるっている。どうしてこうなった。
ライラちゃんを無事にハッラさんのお家へ送り届けたタルクは、ハルシーピを乗り換えてすぐに引き返してきてくれた。
グラがしばらく動けないのは自明で、僕も居たからね。僕は、なんだか灰翼判庁で重要人物と定められているらしい。なにそれこわい。もしかして雛の結果が出たのかな。
とりあえずグラには、せめて脚の傷が治るまで、ラィード畑の真ん中に居てもらうことになった。大きすぎて人の手でどうこうできないし、ムリに動かして傷が広がってもいけない。これから夏ってところでよかった。ハルシーピは冬が得意らしいけどね。
タルクって、翼騎兵隊員としてけっこう重要な職に就いているらしい。だからか、権限でさくっといろいろ手配してくれた。グラの毎日の食事と必要に応じた手当て。グラの精神的支えである僕が逗留する家と資金。そして脚の怪我がマシになったあたりで、前人未踏らしい高すぎる山脈を迂回して、隣国の領地を通ってグラを帰還させるための準備。
「……べつにおまえはハルシーピに乗ればすぐにでも帰」
「ああ、グラが心配だ! 僕はグラとともに陸路を行くよ!」
ということで、ただグラが良くなるのを漫然と待っているわけにもいかないので。ラィード畑で話しかけてくれた女の子、ヤーヴァちゃんのお家に雇われてこき使われている。まあ、忙しい方が好きだし、いいか。
「……上手くなったわね」
僕の刈跡とラィード束の山を見て、ヤーヴァちゃんが言った。今がまさしく刈り入れ時らしくって、僕みたいな期間労働者がたくさんいる。最初はめっちゃリーダーに怒鳴られたけれど、ここ数日はコツがわかったので怒られない。褒めてくれてもいいのに、と思ったところでヤーヴァちゃんがそう言ってくれて、僕はにっこにこで「ありがとう!」と返した。
「やったことない仕事だったけど、できるようになるとうれしいね!」
「……あっそう」
ふいってそっぽを向いて行っちゃった。お手本のように由緒正しいツンデレだなっていつも思う。
夕方まで働いて、日が傾いてきたら終わり。それから僕はグラのところへ食事をさせに行く。いろんな人がグラのことを心配してくれて、毎日お供えみたいにいろんな食べ物を置いていってくれる。グラは怪我をしてからすっかり甘えん坊になっちゃって、僕が差し出すまでそれらを食べない。なんか、妹に離乳食あげてたときのことを思い出すよ。大きさが桁違いだけどさ。
行ったら、近くに他のハルシーピがいて、タルクがグラのくちばしをなで話しかけていた。タルクは自分が常に乗るハルシーピはグラって決めているみたいで、こっちに来るときは毎回違う個体を使っている。ちなみに、雛から育ててこのハルシーピにしか乗らない! って決めた個体のことを、イクナって呼ぶらしい。特別な絆がある関係性だから、特別な名前があるんだろうね。なんか横文字っぽい単語がたくさんで、覚えきれないよ。
「タルク、来てたんだね」
「ああ。おまえが働いているのも見たぞ。なかなか様になってた」
「天職は鑑別だと思っていたけど、他にもあるんだなって実感してる」
グラは僕が来たからきゅるるるーって言う。僕ももう、番ってことでいいやってなってる。種が違うからそも番えないけども。
僕の手から鶏肉と果物を食べたグラは、静かに伏せて目を閉じた。それが体力と傷の回復の近道だってわかっているみたいで、毎日ひたすら寝ているんだ。それを見届けてから、タルクが「おまえの家、行くぞ」と言った。
「うん? どうしたの。泊まってく?」
「そうだな。いろいろ打ち合わせたいことがある」
借りてくれたのはラィード畑の中にぽつんと孤立した平屋の木造一軒家で、僕ひとりで住むには広すぎる大きさだった。こうしてタルクが滞在することも想定しているんだと思う。
初夏の間はここへ逗留することになりそうだから、食材とか最低限の調理器具はそろえた。スーパーとかホームセンターはないし、どこで買えるのか尋ねるところから始まった思わぬ一人暮らしだけれど、それなりに快適に過ごせている。
「ざっと食事作るよ。連れてきたハルシーピくんは? もう食べた?」
「グラへの提供品をいくらかもらった。だいじょうぶだ」
「そっか。じゃあちょっと待ってて」
エプロンをつけて手を洗って、調理をしている間中、タルクからガン見されていた。なんだよ、僕だって調理くらいするよ。
ここいらでは鹿肉が手に入りやすくて、切込みを入れて少し燻した日持ちするやつを買ったばかりだった。タルクはけっこう食べそうだなって思ったからガッツリそれを使って、ラィードと肉野菜炒めみたいにした。こちらではもちろんガスコンロなんてないから、火炉って呼ばれている調理に特化した火鉢みたいのを使う。慣れたらそれなりに使いやすいよ。
ラィードって、野菜っぽくも使えるし、小麦みたいに挽いてパンの原料にもできるらしい。しかも栄養価が高くて、ヴェルク=シーヴィの主食扱いだった。タルクの家にいたときも、僕が気づいていなかっただけで何度も食べていたっぽい。
ラィードの堅焼きパンをスライスして、簡単なスープも器に盛って。ぜんぶをテーブルに並べたら、タルクがいまだかつてなく真ん丸な目で、それをじっと見た。
「……おまえ、料理できんのか」
「炒めただけじゃん。胡椒は高かったから使ってないよ。食べよう」







