11羽 「僕が行くしかないでしょ」②
「――起きろ、走るぞ、ヨータ!」
「えっ、えっ」
窓の木板は閉めたままだったのに……明るい。バチバチという音、山小屋の隙間から見える赤々とした光。それに、カッカッカッカッという、グラの警戒音。
僕が目を覚ましたのを確認したら、タルクがライラちゃんを抱いて即山小屋の外へ走った。僕もあわててそれに続く。そして、出た瞬間に感じ取る、濃い火の匂い。
あきらかに見覚えのある方向に、立ち上る、炎。
「――うわあ!」
「燃やされた! ライラが居た場所! すぐにこっちに火が回る、走るぞ!」
カッカッカッカッ
「えっ――グラは?」
タルクは、なにか苦いものを飲み下すような顔で――「置いていく」
「はあっ⁉」
「時間がない、ライラの命優先だ」
「だって、飛べないんでしょ、今⁉ グラは⁉」
もう一度、タルクは言った。
「ライラが優先だ!」
「わかってるよ、そんなこと!」
僕は――火の方向に、走った。
「ヨータ、バカヤロウ!」
「なんとでも言え! いーから先に逃げろ!」
ライラちゃんの「ヨータ!」と呼ぶ声も聞こえた。僕は「追っかけるから!」と言いながら、走る。
タルクの判断は正しい。すごく正しい。そして、正しい選択しかしちゃいけない立場なんだろう、きっと。
だって、雛から育てるって言ってた。翼騎兵隊は、10代のころにふわふわなハルシーピの子をもらって、育てて、そして大きくなったらその子に乗るんだって。
たぶんだけど。最初、タルクがもらった子は、メスだったんじゃないかな。すごくかわいがっていて、でも、死なせるしかなくて。
そんな悲しい思いを、ハルシーピにも、他の隊員にもさせたくなかったんだと思う。だから、僕の雌雄鑑別を頼りにして。
グラのことも、すごく大切に思っている。きっと、死んでしまったハルシーピの分も、すごくかわいがってる。
知っているよ、そんなこと。
だからさ。
「――主のタルクが行けないなら……番の僕が行くしかないでしょ」
なんだ、僕。ちょっとかっこいいじゃん。
カッカッカッカッ
開けた場所。まだ火は来ていないけれど、熱がすごい。僕は息があがって、それに、こんなに間近に火事を見たことがなくて、すごく心が怖気ついて足が震える。かっこわるいな。でも、グラが僕にすぐ気づいて、警戒音をやめて、僕をじっと見ている。
「……グラ! 立てる? 歩いてでも、ここから逃げよう?」
走り寄って。グラは僕を見て、首を横腹にこすりつけてきた。じゃれてる場合じゃない。とりあえず僕は、グラについている鞍の手綱を取った。引っ張ってみて、そして。
「……立てないの? グラ……」
ごうん、と音がして、ライラちゃんが監禁されていた樹から、さらに大きな炎が立ち上った。
だめだ、ここにいたら、もう火の粉が来る!
僕は、火の味がする空気を、胸いっぱいに、吸い込んだ。そして、グラの目を見て、言う。
「……一生に一度さあ、肚くくるとしたら。いつだと思う、グラ? ……今じゃない?」
胸がドキドキしている。グラは僕を見て、僕の声を、言葉を、聞いている。
バチバチ、ごうごうという音に、竦みそうになる。
「お互いさ、男を見せてやろう、タルクへ。――飛ぼう? グラ」
きゅるるるーって、グラがまた、甘えた声を上げた。僕は首のあたりをかいてやって……そして、グラの背の鞍に、またがった。
見えてはいなかったけれど、タルクの手綱さばきはわかっていた。手に取るように。怖くて、飛んでいる間ずっとそこへ意識を集中させていたから。だから……だいじょうぶ。できる。
両手に手綱。ピンと張って。深呼吸。それから、タルクがやるみたいに、鞍近くの首元を、ひとつ叩く。
キュォー!
ひときわ高く、グラが鳴いた。
そして立ち上がり、翼を広げ――飛んだ!




