10羽 「じゃあ、いってくる」 「たのんだ」②
「…………穴」
「そうだ。空からも確認したが、今のところここしか入り口がみつかっていない」
ぶっとい根が何本も絡まって盛り上がって、その隙間。たしかに、ライラちゃんなら問題なく通れる。タルクは一見してムリ。僕は……ギリ、行けそう。匍匐前進とかでなら。なんだこの敗北感。
「……これ、どこにつながってるの」
「順当に考えたら樹の中だろうが、入ってみなきゃわからん」
「……入るだけ入って、これ、行き止まりだったら」
「どうにか出てこい」
無茶振りすごい。匍匐後進てやったことないな。僕はいちおう、準備体操でラジオ体操っぽい動きをした。タルクが無言でガン見してた。なんだよ。
ライラちゃんが、長時間なにも飲食していない可能性があるので、水の入った筒と乾燥させた果実が入った袋を渡された。もしものときの包帯と傷薬の軟膏も入っている。腰に巻きつけて、いざ。
「……じゃあ、いってくる」
「たのんだ」
そりゃあ、タルクが行けるなら、自分で行きたかっただろうな。ライラちゃんのことかわいがっているから。僕だって、なんだかんだ懐いてくれているライラちゃんはかわいい。だから行けって言われてもべつに嫌だって気持ちはなかったんだけれど、何度も小休止を挟んで進み、だんだんこの先にライラちゃんがいるのか、ちゃんと戻れるのかって心配になってきた。真っ暗だし。樹の中だから火を使うランプなんてもってのほかだからね。虫もけっこういた。なんかカサカサいってるし、ときどき顔にぶつかってきた。
「……で。……行き止まりなんですか」
なぜか敬語になってつぶやいてしまった。なんだろう、この徒労感。その場でぐでーと横になったまま、ため息をつく。
てゆーか、ライラちゃんが本当にこの先にいるのかわからないじゃんとか、いろいろ考えてなんだかやけっぱちになってしまった。方向転換できるだけのスペースはないし、戻るのにもかなり時間がかかりそう。仮眠しようかな、とか思ったけど、ヘビとか出てきたら困るから、体力が回復したら戻ることにする。
「ライラちゃーーーーーーん、いるかーーーーーーーい! いないならいないって言ってーーーーーーー!」
寝そべったまま僕は声をあげた。僕の声が狭い穴の中をこだました。うるさいな。もうやめよう。息を整えて戻ろうとしたとき、どこかで音がした。
「え⁉」
控えめに言ってびびった。ずっと自分が這いずり回る音と虫の羽音しか聞いてなかったから、なおさら。耳を澄ましていると、やっぱり、樹のものではない、人の声っぽいもの!
「ライラちゃん⁉ ライラちゃんかーーーーーーい!」
音が、近くなった気がする。いや、気がするじゃなくて、確実に。僕は自分の周りの木肌を、どんどんと叩いて回った。最初やみくもに叩いちゃったけど、それじゃわかんないやって思って、一箇所ずつ順番に。どんどん。叩いて、手を当てて、応答を待つ。――きた! ちっちゃい音だけど、きた!
「ここかっ」
反応があった部分を、もっと、何度も叩いた。どうにかぶち空けられないかなって。ときどきライラちゃんの名前を呼んで。どうにもならなくて、とりあえずそこら辺を触りまくると、指が引っかかった。それで僕は「押してダメなら引いてみなー!」と叫んで思いっきり両手でそのひっかかりを引いてみた。
ゴソッと音がして、本当になんか、空いた。まじか!
「ライラちゃん⁉」
空いた穴の向こう側も、真っ暗。でも「ヨータ!」って鼻をすする声がすぐ傍で聞こえた。僕はひっしに這いずってそっちの空間へ出た。勢いあまって転がり落ちる感じで。
「ライラちゃん!」
僕もライラちゃんも、真っ暗に目が慣れていたからか、すぐにお互いの存在にたどり着いた。すんごく高い位置に外から光がちょっとだけ差し込んでいたし、音にも敏感になっていたからね。僕はライラちゃんを抱き上げて、ライラちゃんは僕の首にしがみついて大泣きした。その泣き方がすごく深刻な響きをしていて、僕はもらい泣きしながら「ライラちゃん、ライラちゃん。よくがんばったね。怖かったね」って言いながら背中をぽんぽんした。泣き止むまでにかなりの時間が必要だった。
「ライラちゃん。お水あるよ。飲めるかい?」
うなずいたけど、僕から離れたがらない。とりあえずその場に座って、腰に結びつけていた袋を取る。そして水筒のふたを取って「持てるかい?」って聞いたら、首を振った。すごく震えてるし、僕にしがみついてるし。だから口元に持っていって、飲ませる。それから乾燥りんご。しばらくカリカリ食べてから「もういっこ」とねだった。口に入れてあげる。
「ライラちゃん、ずっとここに居たの?」
尋ねると、また涙がぶり返したみたいで、しゃくり上げなからうなずいた。まずった。ここを出てからすべき質問だった。僕はずっと上の方にある光が、どんどん薄くなっていくのを見て、あわてる。そう、ハッラさんの家にいたときが夕日だったから、きっともう夜が更けていくところだ。
「ライラちゃん、外にね、タルクがいる。いっしょにライラちゃんを探しに来たんだ。外へ出よう?」
ぎゅっと抱きしめながら言うと、ライラちゃんは何度もうなずいた。なのでさっき僕が作った穴へ、彼女を入れようとしたんだけれど、全力で拒否された。
「やだ! やだ!」
「ライラちゃん……ここからじゃないと、外に出られないんだよ」
「やだ! ヨータいっしょ! やだ!」
ああ、僕と離れるのが嫌なのか。それはそう。どうしようか考えて、穴の大きさ的にギリだな、と思いながら「ライラちゃん、おんぶしよう」と言ってみる。




