8羽 「ない、ない!」①
「すみませーん、どなたかいらっしゃいませんかー⁉」
現場を荒らしちゃいけないかと思って、なにも触らずに玄関の前から集落中に届けって気持ちで叫んだ。ハルシーピの乗り手さんが住んでいるところだから、もしかして日中はお仕事でだれもいないかな? 何度か声をあげて不安になったあたりで、遠くの家の扉が開いて、人が出てきた。やった。僕、視力めっちゃいいんだよね。
「すみません、こっち、こっちですー!」
証拠保全のためと、第一発見者として現場を動いてはいけないっていう薄い知識で、僕は両手を大きく振ってその人に合図した。ゆっくりと歩いてこっちに向かって来られる。なんか、せかせか歩くタルクとばっかりいっしょにいるから、その時間がめちゃくちゃ長く感じた。
「ん? タルクのところの居候くん? どうしたの?」
「あの、家の中がめちゃくちゃになっていて。あの、警察呼んでもらえませんか?」
百聞は一見にしかず。見てもらったら、玄関から首をつっこんで「うわー」とその男性は言った。
「物がないのに、荒らせるんだね」
「それちょっと僕も思いました。あの、どうやったら警察呼べます?」
ぴぃいー、と男性が指笛を吹いた。ぶわっと風圧があってハルシーピが近くに降り立つ。
「ちょっと呼んで来るね。とりあえず待ってて」
「ありがとうございます!」
なんかこう、とにかくいろんなことが重なって、じっとしていられない気持ちだった。でも動いちゃいけないし。玄関前のスペースでうろうろしていた。すっごく長く感じたけれど、きっとたぶん20分くらいで男性の乗ったハルシーピが戻って来てくれて、それに続いて二頭のハルシーピにふたりづつおまわりさんが乗ってやってきた。なんだろう、警察官っぽい空気感の人が来てくれるだけで、本当にほっとした。
で、現場検証。入ったときになんか蹴っ飛ばしちゃった。そもそも足下に物があるってことがない家だから、ちょっとびっくりする。家主は今、仕事でいないってことで、同居人の僕が調書を取られた。タルクって私物がほとんどなくて、着替えとタオルと布団と、あと木製の食器があるくらい。そこに、僕のベッドと布団と、着替えがちょっと。
「なにか、なくなっているものは?」
「記憶にある限りは、特に……そもそも、元々物がない家なので……」
タルクの服とか下着とか、なくなってるって言われてもわかんないな。僕のはちゃんとぜんぶあったけど。もう一度僕は部屋を見回して、そして、息を呑んでから叫んだ。
「あーーーーーー!」
「どうしました?」
「ない、ない! グラの羽根!」
おまわりさんは「なんですかそれ」って言った。説明したら、全員から爆笑された。
で。
盗られた物が羽根だけだってわかって、とくに犯人の遺留品があるわけでもなかったので、家は片づけていいよーって言われた。タルクが帰って来たら、一度警ら隊に出頭してほしいって伝言を預かる。
片づけていいよって、言われても。手を動かせばどうにかなることはわかるんだけど、ライラちゃんのことがずっと心配で、そこにこんなことが重なって、僕は呆けて床に足を投げ出して座り込んでしまった。どれくらいそのままぼーっとしてたかな。ランプに火を入れないと室内が真っ暗な時間になっても、タルクは帰って来ない。心配で。お腹は鳴ったけど空いたって感覚もなくて、ベッドに寄りかかって天井を見てた。
ああ、僕、無力だな。
たとえ、雌雄鑑別技術が、この国で尊ばれているのだとしても。
ライラちゃんが見つかったら……本気で、日本に帰る方法を探そう。母さんと妹の顔を思い浮かべながら、そう決心した。
そう思った瞬間に、ノックがあって。
僕はびっくりして飛び起きて、タルクかと思ってドアに飛びついた。タルクがノックなんかするわけないんだけどさ。開けたら、猫みたいな目をびっくりさせてルムスが立っていた。
「あっ、ルムス。どうしたの?」
「それはこっちのセリフでしょー、ヨータ! どうしたのさ? こんな暗い中で。タルクといっしょに出てったまんま、戻らなかったから心配したよー!」
あっ、そうだった! 僕、仕事の真っ最中に抜け出して来たんだった。とにかく「ごめん!」と平謝りして、散らかってるけどって前置きしてから入ってもらった。ランプに火を入れたら、ルムスの目がもっと真ん丸になった。
「散らかってるっていうか……どしたん、強盗でも入った?」
「うん……」
「えっ、ちょっとまって、冗談でしょ?」
どこから説明していいのかぜんぜんわかんない。なんか混乱していて、とりあえず僕は「あの、タルクの姪っ子? じゃないや、お父さんのいとこの子どもってなんて言うんだっけ? なんかそんな子がいて」と言った。ルムスは「んー? 親戚の子ってこと?」と首をひねって言う。僕は「そうそうそうそう」と返した。
「その子が、いなくなっちゃって。タルクが探しに行って。僕が帰って来たら、家が荒らされてた」
「なんだそれ? 散々だな!」




