7羽 「おまえも来い」 「もちろん」②
「……こんにちはぁ……」
開いた途端、めっちゃ明るかった。ランプじゃなくて自然採光の明るさ。声掛けしながら入って行く。なんか、温室みたいな造りの部屋で、実際に緑がたくさんだった。
「いらっしゃい。ひさしぶりだね、タルク。そしてはじめまして、判定師さん」
男性とも、女性ともとれない声が響いた。タルクが、背後でなんか礼っぽいのをしたのを感じ取る。振り返ってそれを見て、真似して右手を胸に当てて頭を下げた。
「ご無沙汰しております。緊急の要件で参りました」
「緊急じゃなくてもおいでと言っても、君は来ないのだからね。私は悲しい。近況を聞かせてくれてもいいのに」
「今は、そのような時ではありません」
「そうだろうね」
僕の頭上を会話が飛び交う。まあいいんだけど。声の主がでっかい観葉植物の間から姿を現した。緩やかなウエーブの白髪で、すごく穏やかな表情をした長身の美人さん。うわー、すごい。タルクも美形だけど、なんかこう、もっと儚げな2.5次元系。北欧系美人、破壊力すごい。
「東に、ハルシーピが二頭、飛んで行ったね」
「一頭は、私のイクナです」
「そうか。それで馬車で来たのだね。では四差を連れなさい」
「ありがとうございます」
「それで、これはどういった事態なんだい」
そう聞いて僕をじっとご覧になったけれど、僕はどうしていいものやら「えっと、えっと」と言葉をまとめようとした。僕の頭上を通してタルクが「私の親類の子が、ハルシーピを用いて誘拐されました」と断定的に言った。
「なんだって。それで、犯罪に用いられているというのか」
「はい。その子どもは、この判定師ヨータの弟子で、幼いながら良い呪いをします。おそらく、それを狙ってのことかと」
「ああ、ヨータというのか。――君の判定は、たしかにすばらしいものだ」
美人さんににっこり笑顔を向けられたら、どきどきしてしまう。僕が鑑別した雛の結果、まだ出ていないはずだけれどな。質問するのもおこがましいので、とりあえず「ありがとうございます」って言っておいた。
「一差と二差も出そう。もしかしたら――ヴェルク=シーヴィのハルシーピでは、ないかもしれないからね」
えっ、と僕が思ったのと、背後の空気が凍ったのは同時だったと思う。
「――感謝します。では、御前、失礼いたします」
「ぜんぜん失礼じゃないから、またおいで。この件が片づいたら、ゆっくり三人で話そう?」
美人さんがそう言うから、僕は「えっ、あっ、はい」って答えた。僕は後ろから引っ張られて階段を転がるように下りた。
来た路を倍速で戻って灰翼判庁の外へ向かう。ていうかもう走ってる。
「おい! なんで話そうってのに返事したんだよ!」
「えっ、だめだった⁉」
「あんな気味悪いおっさんと話したくねーよ!」
「えー⁉ あの人男性⁉」
「俺がガキのころからあんなんだった!」
入口の両開き扉は開かれていて、外にはグラじゃないハルシーピが三頭もいた。控えめに言っても圧倒されて、僕は腰が抜けそうになった。
「ヨータ、置いていくぞ」
「いろんな意味でそれがいいと思う」
タルクが口笛を吹くと、一頭が伏せて騎乗を促した。即座に走って乗り込んで、タルクはハルシーピの首を叩く。すぐにさっと飛び立ったその一頭に続いて、タルクと同じ服装の人が他の二頭に乗って続いた。あっという間のことだった。
僕はどうしようかな、と思ったけど、とりあえず来た路を戻ろうと考える。でも、馬くんどうしようかな。疲れて休んでるよな。置いていっていいかな。タルクが馬くんを連れて行った方向に行ってみたら、馬舎があって、管理人さんが預かってくれるって言ってくれた。
気分的には、いてもたってもいられない。でも、自分がこの世界では無力なことを知っている。だから、僕はタルクががんばってくれることを祈っているしかできないんだ。悲しいけれどね。さっきまでは気が立っていて感じ取れなかった風の冷たさが、僕を直撃して凍えさせる。
けっこうな早足で崖坂を下りきった。でもそこそこ時間がかかってしまった。とりあえずタルクの家に帰ろうと思って、そちらに足を向ける。今から砦に戻ろうにも、馬車がないし、たぶん着いたと同時に終業時間だ。それに、タルクって家に鍵をかけないんだよね。だから僕ひとりでも入れるの。盗まれる物はないし、盗む者もないって言って。
寒すぎたから、トイレに行きたくて家の外にある個室へ入った。いわゆるボットントイレてやつにも、もう慣れた。最初はハエがめっちゃいるの、しんどかったなー。
カタン、て音がした。なんだろうと思って、とりあえず手桶に溜めて置いてある水で手を洗ってからそちらを見た。特になにもない。気のせいか。
で、家の中に入ったわけですが。
「――え」
とんでもなく、荒らされていた。




