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飛ばない僕と、空を行く君と  作者: つこさん。
第三章 ヴェルク=ライナ

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55羽 「面会申請します」②

「……元気?」


 なんて言ったらいいのかわからなくて、僕はそんな場違いなことを聞いた。ルムスは「げんきげんきー。しばらくだねー。ヨータはなんか、前よりガタイ良くなったね」と、僕の記憶にあるルムスの調子で言った。それでも、どこか、違って。

 なにか、違って。


「俺のこと、わかったんだ?」


 切り出してくれたのはルムスだった。僕はあいまいにうなずいて、それから「番号の意味合いだけ……どうしてそんな番号なのかは、わかってない」と正直なところを言った。

 ルムスは、僕を見ながら、ぜんぜんここじゃないところを見ている目をしている。なんだか、捕まえておかなかったら消えてしまうのではないかという焦りを覚える。僕は手のひらをぎゅっと握った。


「ヴェルク=シーヴィの人がさ、そこまで調べただけでもすごいよー。それでなくてもわけわからん数字だしねー。なんか、わざわざごめんね? 俺がずっと黙秘してるから、手間をかけさせちゃったね」


 ちょっと笑って言ったルムスは、たしかにルムスだった。でもすごく遠くにいるような感覚だった。僕は心を落ち着かせようと、ちょっとだけ深呼吸してじっとルムスを見る。


「……ルムスは、第4階層で97という出身で、80という制限があり、27という職に着ける。僕の言っていることが、違ったら、教えて」

「うん」

「第4階層は、それなりの特権階級。生活する上で、わりといい選択ができる」

「うん」


 ルムスは、ゆっくりとまたたいただけで、表情は変わらない。僕は続けて「97は」と、なんて言えばいいのか言葉を選べずに、口にする。


「……おそらく、賤当民。なにも持たない、持てない人たち」

「うん」

「80は、かなりの制限。たぶん、監視されている」

「うん」


 否定してくれればいいのに。ちょっとそう感じていたけれど、ルムスは暴かれても変わらずに静かな瞳だった。きっと僕のほうがずっと動揺している。


「27は……かなり良い職業に就ける。でも、全体の数字のバランスから考えて、きっと選択幅は広くない」

「うん」

「……ヴェルク=ライナ王家か、それに近いところからの命で動いている、諜報員だ」

「うん」


 ルムスは、変わらない調子で肯定した。揺れない瞳で、けれど声は労うように「よくわかったねー。調べるの大変だったでしょ?」と言う。僕はもう、ルムスの中にある覚悟が怖くて、震えてしまいそうだった。どうして、そんな。そんな、ぜんぶを受けいれたような顔をするの。


「ねえ、ルムスは死ぬ気なの?」


 思い切ってそう聞いた。ルムスは少しだけ首を傾げて「ん? まあ、このまま死刑かなって思っているよ」とこともなげに言う。僕はそれを回避するため今ここにいるのだけれど、本人の意志が伴わないことに、握った拳の中がじっとりとした。


「ルムスのことを、教えて」

「調べて来たじゃーん」

「ルムスの口から、聞きたいんだ。どうして、こんな番号なのか、とか。それに、タルクの家を荒らしたのだって、命令だったんだろ?」


 僕の方がずっと切羽詰まっている。ルムスはやっぱり、僕を見ながら見ていない。でもちょっとだけ視線を外して、昔を思い出すような瞳で部屋の隅を見た。


「認識票はさー。まあ。俺もそんなに、いい思い出がないっていうかさ。長いこと持ってるのに愛着もなくて。身に着けるのも、なんか嫌でさ」


 そのつぶやきに、今度は僕が「うん」とあいづちを打った。ルムスは天気の話をするみたいに、続けた。


「鎖が切れかかっているのはわかっていたんだけれど、なんかそれもいいなって気になっていたんだ。でもさ、失くすわけにはいかないじゃん? だから首から下げずにポケットへ入れていた。家探ししたのは、ヨータの情報を探れっていう指令が飛んできたから。普通の泥棒の仕業ってことにしたかったんだけどね。ヨータが、途中で帰って来ちゃって。慌てて外に出て」


 僕はあのとき、家へ入る前にお手洗いへ入ったんだ。たしかに、思い出せば物音がした。きっと、そのときに認識票を落としたんだろう。


「本当だったら、それで終わりだったんだけれどね。羽根を持って帰って来たはいいけど、ポケットが空だった。いやー、死ぬかと思った。びびった。いらねーってずっと思ってたけど、実際に失くなるのはまじで想定外。とりあえず、タルクの家に落とした可能性を考えて、もう一度行った。真っ暗だったから、ヨータはまた出かけたのかと思ったのに、居るし」


 ちょっとだけ思い出し笑い。その感じはルムスっぽくて、ちょっと安心する。ルムスは続けて言った。


「もう、ヨータといっしょに片づけるってことで探すしかねーなって。ヨータが寝ている間にも、ずっと探して。ベッドの下かよー。さすがに、ヨータを起こさずに、そこまで探すのはムリだったよなー」


 ちょっと悔しそうな声色は、語られている内容の深刻さには見合わないくらい軽やかだった。

 僕は、ルムスにそんな風に、自分の命を軽く思ってほしくないと、思った。心から。

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