6羽 「嫌な予感がする」①
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7羽のハルシーピの雛たちは、すぐに灰翼判庁というところへ届けたらしい。僕の鑑別が正確なのか、わかるのは少なくとも半年後だって。だいたい中雛になるのにそれくらいなんだってさ。長いな! まあ、ひよこみたいには行かないよね。しかたない。
――それよりも、僕は、結果が出る時期にもこの世界にいるんだろうか? それって、ちょっとした……いや、わりと深刻な事件ではないだろうか。
帰る方法を……探さなくては。
切実に、そう思う。
ここ、ヴェルク=シーヴィでの僕の生活が、ちょっとだけ変わった。出勤先がハッラさんの養鶏場ではなくて、ハルシーピのお見合いから産卵、孵化と育雛までを統括する施設へ。施設の名前は、なんか難しくて覚えられなかった。タルク曰く「その方が、安全だ」とのことだ。なにせ国家機密が詰まっている施設だから。……職場名言えないってなんか恥ずかしいけどね! 暫定で勝手に「砦」って呼んでる。なんか要塞っぽいから。
僕がグラに乗れないので、というか断固拒否するので、行きも帰りも馬車になる。やり方覚えとけって言われて、自分で手綱を握って。タルクはその間荷台で寝てる。いいのか、それで。馬が暴走したらどうするんだよ。
僕を職場に出勤させたら、タルクはグラに乗って自分の職場へ行くらしい。いちおう、灰翼判庁所属なんだってさ。それって、もしかしなくてもエリートなんじゃないかなあ?
「ルムス! 紹介する。ヨータだ」
どこかよくわかんない部屋に連れて行かれて、タルクが僕の肩を押してそう言った。ルムスって言われた男性は、砂色のさらさらの髪に、ちょっと猫っぽい茶色の瞳の人だ。タルクが外出時だけ身に着けている肩当てをしていないから、ハルシーピに乗る人じゃないのかな。猫みたいって思った目はキラキラ光って僕を見る。そして「おー、ウワサの! 凄腕呪い師くん!」と言って駆け寄り、僕の両手を取ってぶんぶん上下した。呪い師ってなに。えっ、もしかしてそういうことになってるの?
「ルムス・ハルカでぇーす! ここの育雛係だよー。ルムスって呼んでね!」
「あの、古賀陽太です。よろしくお願いいたします」
「うん? コガって名前? じゃあコガって呼ぶねー!」
「あっ、いえ、名前はヨータで」
あっ、陽キャだ。しかも一軍ウェイ系だ。なんか押しが強い人。高校時代はこういう人にノート貸す係だった。友だち扱いされていたから、お陰様で穏便に過ごせたけれども。
「わかったよー、ヨータ! いくつ? 偉いね、そんな年でちゃんと仕事して!」
「えーーー、26歳ですぅーーー、成人ですぅーーー」
「まじでぇえ⁉ 同い年じゃーん、まじでー⁉」
タルクが「まだ言ってるのか、その設定」と言った。設定ってなんだ。ルムスさんも「そうか、設定か」となぜか納得した。なにそれ。まって。
僕は、ルムスさんについて仕事をするらしい。呪いもとい、鑑別だけするのに置いとくわけにはいかないってことで。それはそう。やることと言えば、ハッラさんの鶏舎の雑務みたいなものかな。成鳥のハルシーピのお世話は、他の人がしているみたいだし。
基本的にハルシーピは肉食とのこと。でも野菜や穀物も与えたら食べるってことだから、雑食だね。ルムスさんの指示に従って、先日鑑別した場所とは別の雛の部屋を掃除する。中雛の子たちで、身長は僕の膝下まで来る。成鳥の鶏よりふた周りくらい大きいかな。産毛がぜんぶ真新しい羽根に生え変わっていて、顔つきも凛々しくなっている。それでもまだまだ子どもだなーって思うのは、ルムスさんがやってきたら一斉に近づいてくるところ。かわいいかわいい。でも突っつかれたら痛そう。この子たちが、グラみたいになるんだなあ。
「ここは、オスの部屋。とりあえずオレが惹きつけとくからさー、その間に清掃お願い!」
作業中、ルムスさんの言っている意味がよくわかった。めっちゃ「遊んで」モードの雛たちに集られて、ルムスさんは掃除どころじゃない。囮役ありがとうございます。
スーパー流れ作業で僕が清掃していくと、雛に襲われながらルムスさんが「慣れてんねー!」と感心したような声をあげた。
「なに、経験者?」
「ええ、まあ。ハッラさんの養鶏場で働いていました」
呪い師ってことになってるなら、雌雄鑑別師って言葉は出さない方がいいかなと思って、僕はそう言うに留めた。ここらへん、どうすべきなのかタルクにちゃんと聞こう。
午前中は清掃だけで終わってしまう。なんだかんだ、たいへんなんだ。メスの中雛の部屋も掃除したけれど、聞いていた通りこちらはオスよりも気性が荒くて、追い立てて別の部屋に移動させてからの清掃だった。たしかに中雛にまでなってしまえば、オスとメスの判別は難しくないね。メスの方がちょっとシュッとしいて、色味が薄い。
鶏とは違って、ハルシーピは年中産卵したりしない。上手く行けば春と秋の年二回らしい。僕が鑑別した20匹の子たちは、この春産まれたばかりなんだって。そろそろ呪い師を呼ぼうかっていうところに僕が来たから、みんな僕のことをタルクが見つけて来た異国の少年呪術師だと思っているっぽかった。もう、26って言うのは諦めた。
お昼の休みには、タルクもグラに乗ってやって来た。僕のところ行こうってグラがキュルキュル鳴いてうるさいんだってさ。だからさー、返却させてよ、羽根……。求愛されたって説明したら、ルムスさんが誇張じゃなく腹を抱えて笑った。なんか悔しい。




