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第54話 処刑エンド令嬢、晩秋の決意とそよぐ風

※前回の「処刑エンド令嬢レディ


四人となって初めて音を合わせた「処刑エンド令嬢s」。

これまで以上の成長を感じる四人の元に商店街でのライブの話が舞い込み、

新たなる目標に向けて一致団結するのでした

 季節は少し進み、十一月――


 空気はすっかり冷たくなって、吐く息が白く揺れる。


 それでも、「処刑エンド令嬢s(レディース)」にシャルロットが正式加入し、来年四月の商店街ライブ参加が決まってからというもの、四人の練習は明らかに熱を帯びていた。


 地下スタジオでは、「神籬(ひもろぎ)」だけでなく、「Medium(ミディアム)」の他のナンバーにも挑戦している。


 テンポの速い曲では(こま)が汗だくになり、ミドルバラードではジャンヌが声量のコントロールに苦心し、シャルロットは和音の積み方を工夫し、ジェーンはリフの精度を上げるために何度も同じフレーズを繰り返した。


 その日の練習も、気づけば二時間を超えていた。


   *


 練習を終えた四人は境内へ出て、(なぎ)の御神木の前に腰を下ろした。


 夕刻の空気は冷たいが、体の内側はまだ熱を帯びている。


「今日も疲れましたね」


 (こま)が、両手をぶらぶらと振りながら言う。


「ワタシも、喉がガラガラです」


 ジャンヌは、ポケットからのど飴を取り出して口に含む。


「でも、だいぶ完成度が上がったと思うよ」


 シャルロットが、三人を見渡しながら労う。


 ジェーンは、軽くうなずいた。


「今日みたいに、セツナさんが不在の時でもきちんと熱のこもった練習が出来るのは、やっぱりシャルロットがリードしてくださるおかげですわ」


 突然の称賛に、シャルロットは目を(しばた)かせ、


「まあ、これでもアタシ、みんなより歳上だからね」


 少し得意げに言う。


「そういえば、シャルロットさんって、おいくつなんですか?」


 (こま)が何気なく(たず)ねる。


「たしか、二十四だったかな」


 前世での年齢を告げる。


「オバさんではありませんのッ!?」


 ひと回りほど違う年齢差に驚き、ジェーンが目を大きく見開く。


「オバさん言うなっ!! そこは『お姉さん』でしょう!?」


 本気で傷ついたシャルロットは、思わず立ち上がって猛烈に抗議する。


「やっぱり貫禄がありますよね。現世での生活でも先輩ですし」


 ジャンヌがフォローする。


「いやいや、同じフランスの大先輩の方がスゴいですよ」


 三百年以上も先輩から送られる賛辞に、恐縮するシャルロット。


 側から見れば奇妙な会話だが、四人は顔を見合わせ、同時に笑い出した。


 笑い声が、夜の境内にやわらかく広がる。


 ひとしきり笑った後、ジェーンがふと真顔になる。


「あの……みなさんに提案がございますの」


「提案って?」


 シャルロットが首をかしげる。


「商店街でのライブの件なのですが……」


 ジェーンは、少し間を置いた。


「オリジナル曲を作りません?」


 空気が、ぴたりと止まる。


「オリジナル曲……?」


 三人が同時に呟く。


「確かに、『Medium(ミディアム)』の曲はどれも素晴らしいですわ。ですが、いつまでもコピーばかりでは、ワタクシたちの個性を主張出来ませんわ」


「それで、オリジナル曲?」


 シャルロットが確認する。


 ジェーンは、こくりとうなずく。


 三人は、自然と考え込んだ。


「でも、曲作りって、具体的にどうすればいいんでしょうか?」


 (こま)が率直な疑問を口にする。


「シャルロットさんは、作曲の経験は?」


 ジャンヌが(たず)ねる。


「アタシは既存の曲を弾くだけで、作曲はしたことないなぁ」


 つまり、全員未経験。


 その事実が、少しだけ不安を呼ぶ。


「だからこそ、ですわ」


 ジェーンは、勢いよく立ち上がった。


「誰も出来ないことだからこそ、みんなで力を出し合って、ひとつのことを成し遂げるのに意義があるのですわ」


 熱を帯びた瞳で三人を見る。


 再び、三人は顔を見合わせる。


「確かに、みんなで何かを形作るという行為は、とても素晴らしいことですよね」


 ジャンヌが静かに言う。


「『三人寄れば文殊の知恵』。四人なら、もっとすごいものが作れそうな気がします」


 (こま)が、少し楽しそうに続ける。


「まあ、商店街のライブまでは時間あるし、やるだけのことはやってみますか?」


 シャルロットが肩をすくめる。


「みなさん、心強いですわ」


 ジェーンは、心から嬉しそうに言う。


「それじゃあ、いつもの練習に加えて、オリジナル曲の制作に取り掛かるということで」


 シャルロットがまとめると、一同は大きくうなずいた。


「それでは、今日はこれくらいでお開きと致しましょう」


 ジェーンが締める。


 四人は立ち上がり、境内を後にする。


 最後に歩き出そうとしたジェーンの頬を、ひとすじの風が撫でた。


 (なぎ)の葉が、さらりと鳴る。


「……え?」


 ジェーンは足を止め、振り返る。


 何か、声のようなものが聞こえた気がした。


 だが、そこにあるのは、悠然と屹立(きつりつ)する御神木だけ。


(気のせい……ですわよね?)


 小さく首を振り、ジェーンは三人の後を追った。


 冷たい空気の中で、(なぎ)の大樹だけが、何かを見守るように静かに揺れていた。



 処刑エンド令嬢s(レディース)――

 四人で“自分たちの音”を生み出そうと決意し、新たな物語の扉を開いた瞬間だった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


第55話は、

「処刑エンド令嬢(レディ)、新年の祈りと獣の面」

をお送りします。


少しでも気になっていただけましたら、

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