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第33話 処刑エンド令嬢、バイトを始める①

※前回の「処刑エンド令嬢レディ


バンドを設立するも、ボーカルになれなかったジェーン・グレイ。

さらに彼女たちには、バンドをするにあたり

越えなければならない大きな壁が立ちはだかっていたのでした

挿絵(By みてみん)



天守(あめもり)セツナ




 ――――



 後日――

 喫茶レストラン「舞姫」。


 午後の落ち着いた時間帯。

 いつもの席に、ジェーン、(こま)、ジャンヌ、覚子(さとこ)の四人が集まっていた。


 口火を切ったのは、ジェーンだった。


「これは――由々しき事態ですわ!」


 勢いよく立ち上がり、びしっと指を立てる。


「ワタクシたち、みんな楽器を持っていない上に、金欠! 楽器を購入するお金さえ、ありませんわ!」


 あまりにも切実な現状に、三人は顔を見合わせる。


「そこで!」


 ジェーンはテーブルを叩く。


「バイトを始めますわ!」

「バイト……?」


 (こま)が首をかしげる。


「労働で軍資金を調達するということですか?」

「ええ、その通りですわ」


 胸を張るジェーン。


「まあ、確かに楽器って高いからねぇ」


 覚子(さとこ)は楽器カタログを広げ、ぱらぱらとめくりながら言った。


「わあ……」


 ジャンヌが目を丸くする。


「何十万もするんですね、楽器って……」

「まあ、そこまで本格的なものは、まだ必要ないと思うけど」


 覚子(さとこ)はページの一角を指さす。


「ほら、この“初心者セット”なら、数万円で買えるよ」


 その瞬間。


「そのような安価なもの――」


 ジェーンが、きっぱりと言い放った。


「ワタクシには、相応しくありませんわ!」


 微動だにしない断言だった。


「まあ、練習用ならともかく、実際に人前に立つなら、それなりのモノを持ちたいよね」


 覚子(さとこ)は肩をすくめ、続ける。


「それに、高いものはそれだけ音質も良いしさ。苦労して手に入れたモノなら、愛着も湧くだろうし」

「当然ですわ!」


 ジェーンは満足そうにうなずいた。


 ――その時。


「なにやら、おもろい話してますなぁ?」


 はんなりとした声が、頭上から降ってきた。


 紅茶とコーヒーをトレイに乗せた、店長の女性だった。


 やわらかく結った髪。

 細目で穏やかな笑み。

 飄々として、どこか掴みどころのない雰囲気。


 その顔を見た瞬間――


「……え?」


 覚子(さとこ)の表情が、凍りついた。


 次の瞬間。


「も、もしかして……!」


 勢いよく立ち上がり、身を乗り出す。


「『Medium(ミディアム)』の……セツナさんですか!?」

「なんや、うちの事、知ってるん?」


 店長は細い目をさらに細めて、にこりと笑った。


「ア、アタシ……昔から『Medium(ミディアム)』の大ファンなんです! この前の武道館ライブも行きました!!」


 覚子(さとこ)は一気に早口になる。


「へぇ~」


 セツナは楽しそうに相槌を打つ。


「それは、えろうおおきに」

「……この方が、『Medium(ミディアム)』のメンバーですの?」


 ジェーンが訝しげに問う。


「そうだよ。ナデシコもライブで見たでしょ? キーボードの、セツナさん」

「ああ……隅にいた方ですわね」


 ジェーンは、あまり興味なさげに言った。


 承認欲求の塊である彼女は、センターに立つギターボーカル以外への関心は希薄なのだ。


「ちょっとナデシコ!?」


 覚子(さとこ)が、ぐっと顔を近づける。


「セツナさんは、すごいキーボーディストなんだよ! アタシの憧れの人なんだから、目立たないとか、糸目で何考えてるか分かんないとか、あんま失礼なこと言わないでよねっ!!」

「わ、ワタクシ、そこまで言ってませんわ……!」


 その目は完全に血走っており、ジェーンは、その迫力に完全に押されていた。


「まあまあ」


 セツナは苦笑する。


「キーボードが目立たへんのは、ほんまの事やさかい、しゃあないわな」


 そして、話題を切り替える。


「それよりアンタら、楽器を買うために、バイト探してるんどすなぁ?」


 四人は、揃ってこくりとうなずいた。


「そやったら――」


 セツナは、にっこり笑う。


「ウチで、バイトしまへんか?」

「……こちらで?」


 ジェーンは、店内を見回した。


「そや」


 セツナはうなずく。


「たまに知り合いが手伝いに来てくれるんやけどな。ちゃんと従業員、雇おか思うとったとこやったんやわぁ」


 四人を軽く見渡し、


「若いし、かぁいらしいし。文句なしやわぁ」


 ぽん、と手を叩いた。


「確かに、働かせていただけるのはありがたいですが……」


 ジェーンが慎重に(たず)ねる。


「賃金は、いかほどいただけますの?」


「そうどすなぁ……」


 セツナは電卓を取り出し、カタカタと入力する。


「これくらいで、いかがでっしゃろ?」


 表示された数字を見て――


「……こんなに!?」


 四人の声が、見事に重なった。


「それにやな」


 畳みかけるように、セツナは続ける。


「楽器欲しいんやろ? やったら、購入するまでのあいさ、知り合いのモノ、貸したってもええで?」


 これはもはや、至れり尽くせりの条件だった。


「やりますわ!!」


 ジェーンが、即座に飛びついた。


「私も……ジェーンさんと一緒なら」


 (こま)が控えめに言う。


「接客業もご奉仕。これも、神の思し召しです」


 ジャンヌも、静かにうなずく。


「アタシはバンドやらないんだけど……」


 覚子(さとこ)は肩をすくめ、


「まあ、基本ヒマしてるから、イイか」

「ほな、満場一致で決まりやな」


 セツナは、どこか楽しそうに笑った。


 そして――

 テーブルの上に、そっと置かれる衣装一式。


 それは、黒と白を基調とした、クラシカルなメイド服。


 フリルがたっぷりとあしらわれ、スカート丈は膝が見えそうなくらい短い。

 そして――胸元は、ハート型に大胆に開いている。


「こ、これを……」


 ジェーンは、それを広げて、声を震わせた。


「……これを、着るんですの!?」

「きっと似合うで」


 セツナは、いたずらっぽく微笑む。


 ジェーンは、恨めしそうな視線を向け――やがて、ぐっと拳を握った。


「……分かりましたわ」


 そして、高らかに宣言する。


「やりますわよ!!」



 処刑エンド令嬢(レディ)・灰島ナデシコ――

 目標のためなら、フリルもミニスカも引き受ける覚悟を決めた瞬間であった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


第34話は、

「処刑エンド令嬢(レディ)、バイトを始める②」

をお送りします。


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