第31話 処刑エンド令嬢、バンドを結成する
※前回の「処刑エンド令嬢」
覚子のライブ鑑賞に同行するため、東京へ向かったジェーン・グレイ。
初めて「Medium」のライブを聴いた彼女は、
そのバンドが放つ圧倒的な音の暴力に、心を奪われるのでした
午後の柔らかな光が差し込む、喫茶レストラン「舞姫」。
アンティーク調のテーブルを囲んで座っているのは、
ジェーン・グレイ――灰島ナデシコ、
駒――駒形姫乃、
ジャンヌ・ダルク――虹橋オトメ、
そして南牧覚子の四人だった。
紅茶とコーヒーが運ばれ、ひと息ついた、その時。
ジェーンは背筋を伸ばし、重々しく口を開いた。
「本日みなさまにお集まりいただいたのは、他でもありません」
三人の視線が、一斉に集まる。
「ワタクシ、大きな決意をしましたので、それをお伝えさせていただきますわ」
三者三様に首をかしげる中、ジェーンは一度、咳払いをしてから、
「――ワタクシ……バンドを始めようと思いますの!!」
そう高らかに宣言し、両手を掲げた。
しばしの沈黙――
最初に口を開いたのは、駒だった。
「確かにジェーンさん、バットにボールを当てられませんもんね」
「そうそう、かすりもしなくて悔しかったですわ……って、バントではありませんわっ!」
すぐさまツッコミが飛ぶ。
次に、ジャンヌが真顔で尋ねた。
「ジェーンさん、狩りを始めるんですか?」
「そうそう、狩りは貴族の嗜みですもの……って、ハントでもありませんわっ!」
ジェーンはテーブルを軽く叩き、声を張り上げる。
「ワタクシが言っているのは、バンドですわよ! バ ン ド!!」
「バンドって、本気なの?」
覚子の問いに、ジェーンは胸を張る。
「オフコース! もちろんですわ!」
そして、熱を込めて続けた。
「ワタクシ、『Medium』のライブを観て感銘を受けましたの。ワタクシもバンドがやりたい。あの煌びやかな舞台に立ちたいと、切に思いましたわ!」
両手を胸に当て、熱を込めて語る。
「へぇ……」
覚子は、感心半分、驚き半分で眉を上げた。
「最初は、音楽にまったく興味なさそうだったのにねぇ」
「人の心は、変わるものですわ」
キッパリと言い切る。
「でもさ」
覚子が続ける。
「誰か、アテはあんの?」
その問いに、ジェーンはきょとんとした表情を浮かべ、
「何をおっしゃってますの」
次の瞬間、さも当然のように言い放った。
「この四人で、バンドをやるんですわよっ!」
「「「えっ?」」」
見事なハモりだった。
三人は揃って目を見開く。
「ムリムリムリ、あたし、絶対ムリだからっ!」
覚子は大きくかぶりを振った。
「え~、なんでですの? 楽器が弾けない、という理由でしたら大丈夫ですわ。ワタクシも弾けませんもの」
自信満々に言い切るジェーンに、覚子は困ったように頭を掻く。
「いや、一応ちっちゃい頃ピアノをちょろっと習ってたけどさ……」
「まあ、それでは即戦力じゃございませんの!?」
ジェーンの目がらんらんと輝く。
「いや、アタシは音楽は聴くのが好きなんであって、演奏するのはちょっと違うかなって……」
改めて拒否され、ジェーンは、しゅんと肩を落とした。
「……残念ではありますが、無理強いも出来ませんものね」
小さくため息を吐く。
「でも、本気でやるんだったら、サポートくらいはさせてもらうから」
その言葉に、ジェーンは静かにうなずいた。
そして、残る二人へ視線を向ける。
「アナタたちは、どうですの?」
駒はしばらく考え込み、やがて答えた。
「部活との兼ね合いもあるので、あまり時間は取れないかもしれませんが……やってみたいと思います」
「ホントですの!?」
ジェーンは思わず駒の手を取る。
次にジャンヌが口を開いた。
「バンドって、要は楽団ですよね?」
ええ、とジェーンがうなずくと、
「音楽というものには常日頃興味はありました。ワタシも……やってみたいです」
「二人とも、ありがとうございます、ですわ!」
ジェーンは二人の手を取り、満面の笑みを浮かべる。
「となると、スリーピースか……。みんな、楽器は何やんの?」
覚子の問いに、ジェーンは即答した。
「駒。アナタはドラムが適任だと思いますわ」
「ドラム……? 太鼓ですか?」
首をかしげる駒に、ジェーンは力強くうなずく。
「アナタのスタミナとパワーはドラミングに打ってつけだし、何より」
ぐっと身を乗り出し、
「演奏時は、ほぼガニ股ですのよ!」
力説する。
「それはつまり、私の恥ずかしいクセが気にならないということですか?」
「ええ、それどころか、ガニ股はドラムを叩く上では強い武器となるのです」
「分かりました。私、ドラムやります!」
駒は言いくるめられ、あっさりとうなずいた。
「そんなんで決めちゃっていいのかなぁ」
苦笑する覚子だったが、
「まあ、理屈としては一理あるんだけどね」
と続ける。
「ではジェーンさん。ワタシはどの楽器が向いていると思いますか?」
ジャンヌの問いに、ジェーンは迷いなく答えた。
「ジャンヌ。アナタは、ベースが相応しいですわ」
「ベース……ですか?」
「ええ。ベースはバンドにおいてはアンサングヒーロー、縁の下の力持ちですわ。神の敬虔なるしもべのアナタに、うってつけですわよ」
ジェーンの目が、キラリと光る。
「つまり、ベースを弾くことが神への敬意を示すことになるのですね!」
ジャンヌの目が、キラリと光る。
「分かりました。ワタシ、ベースやります!」
こちらも簡単に言いくるめられ、あっさりと決まった。
「まあ、確かに虹橋さんは正確なビートを刻めそうだし……ホントに適任かもね」
覚子は苦笑しつつ言った。
「ってことは、ナデシコは何やんの?」
その問いに、ジェーンは、待ってましたとばかりに微笑み、
「ワタクシはもちろん」
胸に手を当て、
「ギターボーカルをやりますわっ!」
高らかに宣言する。
「ギターとボーカルの両方をやるなんて、スゴイです!」
「さすが、ジェーンさんは出しゃばり……もとい、器用なんですね」
駒とジャンヌが、純粋に(?)感心する。
――しかし。
ジェーンの脳内では――
ギターボーカル→センターに立つ
センターに立つ→目立つ
目立つ→ちやほやされる
スポットライトの中心で、観客の視線を一身に浴び、喝采を受ける自分の姿が、鮮やかに再生されていた。
だらしなく緩む頬。
「あーあ、また碌でもないこと考えてんなぁ……」
覚子は呆れたように呟き、ゆっくり立ち上がる。
「担当楽器はまあ、それでいいと思う」
そして真顔で続けた。
「でも、ボーカルに関しては実際に審査した方がいいと思うんだ」
ジェーンはゴクリと息を呑む。
「と、言いますと?」
覚子はニヤリと笑い、
「これから、ボーカルオーディションをしようよ!」
いたずらっぽく言うのだった。
処刑エンド令嬢・灰島ナデシコ――
とにかく目立ちたい、という彼女の承認欲求が、思わぬ形で次の段階へ進んだ瞬間だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第32話は、
「処刑エンド令嬢、カラオケでボーカルオーディション」
をお送りします。
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