第12話:エルフ族種族王
翌日のことであった。
テータは、レイナの執務室へと呼び出されていた。
「テータちゃん。ここの生活には慣れた?」
「はい!先輩たちやレイナ様のおかげです。」
「そんなテータちゃんに、新しい任務を与えます。」
「新しい任務ですか?」
「それはね、私と一緒にエルフ国へとついてきてもらいます!私と初めての2人での業務だよ。」
「おお!私頑張っちゃいます。ところで、私は何をすればいいんですか?」
「私の護衛をしつつ、商談を一緒にうけてもらう感じだね。昨日のうちにアポは取ってるから、すぐに行こうか。」
「ええ!?今すぐですか?」
テータが戸惑っている中、レイナはすぐに家の玄関前へと移動した。
テータの焦りながらも、レイナについて行った。
玄関前には、エルフ国の紋章が刻まれた高級車が止まっていた。
その車の前には、白色のケープを羽織ったポニーテールの女性が待っていた。
彼女の名前は、リーア・ソング。
エルフ国の重鎮兼エルフ族種族王の付き人を務めている。
「お待たせしましたー!」
「レイナ様早いです…。」
「なかなか、騒々しい登場ですね。」
「ああ、リーアさんすみません。」
「いえ、楽しそうでうらやましいですよ。」
リーアは楽し気に笑顔を浮かべていた。
「お二人が、今回アポを取られたレイナ様とテータ様ですね。」
「そうです。今日はよろしくお願いします。」
「よ、よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。では、車へとお乗りください。」
リーアは淡々と仕事をこなし、レイナとテータは車内へと後部座席へと乗り込んだ。
その後、リーアも後部座席に乗ると車が出発した。
「お二人はエルフ国へ来るのは初めてでしたね?」
「そうですね。どのような所なんですか?」
「エルフ国は、動植物の保護を目的に動いている国家です。環境保護などにも力を注いでいて、地面ではありませんが環境汚染が一番少ない国であると我々は自負しております。」
「ちなみにですが、この車も環境に配慮されているんですか?」
「いいご質問です。この車は『神力』または『魔力』を媒体としたエネルギーで動くようになっています。」
「確かにそれであれば、エネルギー効率もいいですし、排気ガスも出ないですものね。」
「このように、我が国では環境保護を目的とした研究活動および動植物の生態研究など幅広い分野で活動しております。」
「素晴らしいですね。」
レイナは、エルフ国に着くまでの道中に、エルフ国の研究内容や研究施設などの情報をリーアから教えてもらった。
この間、テータは緊張のあまりレイナの横で硬直していた。
約2時間が過ぎたころ、車の前方に周りを木々で囲まれた巨大なエルフ国が姿を現した。
エルフ国──環境との共生を重視、植物系魔法や自然制御が得意なエルフ族が暮らす国家。
薬の調合などの技術も凄まじく、医療業界において高い信頼性を保持している。
国の中心には巨大樹があり、そこにツリーハウスのような城が聳え立っている。
レイナたちは、車から降りずにエルフ国へと入国した。
「そういえば、他国から城までの直通道路なんて初めて見ましたね。」
「他国では、防衛の観点で直通経路がないようになっているんですよ。ここは一見、直通のように見えますが、王女様が自ら王城までの道を構築されているので、実際のところ他国と差異はないですよ。」
「な、なるほど。(なんか、サラッとすごいこと言わなかった?)」
こうして、レイナたちはエルフ国の王城に到着した。
「テータちゃん、ずっと無言だったけど大丈夫?これから王女さんに会うんだけど。」
「だだだ、大丈夫ででです。」
「うん。大丈夫じゃないね。体がガッチガチに固まってるね。」
「テータ様。そう緊張しなくても、王女様はお優しい方なので大丈夫ですよ。こちらでもお飲みください。心が落ち着きますよ。」
リーアは、どこからともなくティーカップ&ソーサーとガラスティーポットを取り出した。
「(今それ、どこから出しました!?)」
「テータ様どうぞ。カモミールティーです。」
「ああああ、ありがとうございます。」
テータは、注がれたカモミールティーを飲み、少し緊張が和らいだようで、リラックスができたようにだった。
「なんだか、少し心が落ち着きますね~。」
「カモミールティーは、リラックス効果が高いお茶ですからね。さて、王女様がお待ちです。城に中へと参りましょう。」
レイナたちは、巨大樹の側面に備え付けられている階段を上って最上部の王室まで向かうこととなった。
15分ほど上ると、高級感あふれる白い木の壁をした建物が出てきた。
「ここが、王女さんのいる場所ですか?」
「ええ、王女様は既に中でお待ちです。私はここでお待ちしていますので、気軽にお話してきてくださいませ。」
リーアにそういわれたレイナは、テータを連れ王室の扉をノックした。
すると中から、落ち着いた女性の「どうぞ。」という声が聞こえてきた。
レイナたちが王室へ入ると、部屋の中央の玉座に気品あふれる緑髪の女性が座っていた。
彼女は、エルフ族の種族王を務めるセラフィナ。
植物観察が趣味の自然をこよなく愛する女性である。
「初めまして、あなたがレイナさんね。」
「初めまして、機械族の種族王のレイナです。」
「付き人のテータです!」
「これはご丁寧に、私はエルフ族の種族王のセラフィナよ。確か今日は、機械の潤滑油に使用する植物油をご所望だったわね。」
「はい。公害対策のために必要なのですが、詳細情報がなかったので直接お伺いしました。」
「確かに、我が国で取り扱っている植物油は基本的に調理用のもののみを生産しているので、機械用の潤滑油は我が国では取り扱っていませんでした。」
「取り扱ってないのですか…。」
レイナは、少し残念そうな顔を浮かべたが、セラフィナはこう続けた。
「話は最後まで聞きなさい。取り扱ってなかっただけで、ノウハウがないわけではないわ。」
「ということは…。」
「3日よ。3日で機械用の植物油を完成させてみせるわ。完成したら、またお呼びするわ。せっかくなら、我が国自慢のお茶の葉でもお土産に買っていきなさい。」
こうして、レイナは城下町でいくつかお茶の葉を買って、機械国へと戻ることとなったのであった。