第13話:悪意の侵攻
レイナたちがエルフ国へ行った次の日であった。
機械用の植物油の製作に3日かかるということで、レイナたちは一度自国へと戻っていた。
その日レイナは、国の端にある自分が開発している農場へと向かって、テータを連れ歩いていた。
「テータちゃんは、初めて見るよね。私の研究施設兼農場。」
「そうですね。どのような所なんですか?」
「私の研究テーマは『遠隔農業』でやっていて、その第一歩として、自動給水システム、自動空調管理、収穫時期の見極めを全て行える農園を作っているところなんだ。」
「なんだか難しい言葉が羅列されたような気がしますけど、この研究を始めた理由って何ですか?」
「昔、お父さんに連れて行ってもらったある国のおじいさんとお話したときに、『年を取ると体が動かなくて農業ができない』という言葉を聞いて、その人の助けになれるような研究をしたいと思ったのがきっかけかな。まぁ、その国がどこか忘れちゃったんだけどね…。」
「素晴らしいお考えです!私もレイナ様を助けられるくらい頑張りたいと思います!」
「おー。頼もしいなぁ。期待してるよ!」
そう話しているうちに、レイナたちは目的の施設へとたどり着いた。
その施設は、機械国特有の重厚な研究施設とは異なり、一般的にビニールハウスと呼ばれるような形状をした建物となっている。
近くには森林地帯が生成されており、緑が生い茂っていた。
「ここがレイナ様の研究施設ですか~。」
「そう。ここで、システムとハードの構築、そして、農作物の研究データを集めているの。」
「今日は何をしに来たんですか?」
「今日はね、そろそろ新しい農作物が収穫できそうだから研究データとして採集に来たんだ。これなら、テータちゃんでも一緒にできそうだなーと思ってさ。」
「ぜひ頑張りたいと思います!」
その時だった、森林地帯の奥からほんの一瞬火薬のにおいが漂ってきた。
「(火薬?私の研究では使用していない。ということは…。)」
「レイナ様?」
次の刹那、レイナは森林地帯の奥へと走り出した。
「ええ!?どうされたんですか!?」
焦るテータをよそに、レイナは複雑な自然の地形を巧みによけながら走っていく。
森の中心に近づくと、火薬のにおいが強くなってきた。
「(この匂い…銃火器?まさか…。)」
レイナは嫌な予感がしながらも、火薬のにおいが強くなる方向に向けて速度を上げて走った。
その後ろを、テータはぎりぎり見える速度でなんとかついてきていた。
しばらく走っていったところ、レイナの目の前に走っている少女が現れた。
少女の服はボロボロで、さらに腕と首には、黒い金属製の首輪が付けられていた。
「君!大丈夫?」
「いや!来ないで!」
「大丈夫。お姉ちゃんはあなたの味方だよ。落ち着いて。」
レイナは少女の目線が同じになるようにしゃがみ優しく話しかけたが、少女は大量に発汗しており、手はかなり震えていた。
その様子を見たレイナは、少女の手を握り落ち着くまで待った。
「(これは…前に同じ光景を見た…。)」
少しすると、遅れてテータが追いつき、レイナは多少落ち着いた少女から事情を聞き始めた。
「(何?殺気!?)」
次の刹那、レイナがテータと少女を抱えサイドに飛んだ。
その直後、少女のいた位置に銃弾が通り過ぎた。
「む?避けられたか。人二人抱えて、よく避けられましたね。」
「あなた誰?」
「あ?その顔見覚えがあるな。お前、機械族の種族王だろ?」
「そうよ。で、私の質問には答えてもらえないの?」
「俺の名は、スズメバチ。『Hound Bug』の幹部だ。」
「『Hound Bug』?」
レイナはその名に聞き覚えはなかった。
しかし、テータは聞き覚えがあったようで小声でレイナに話した。
「レイナ様、『Hound Bug』は世界的人攫い組織です…。この世界の人さらいはこの組織が裏にいると言われるほど巨大な組織です。」
「なるほどね。ありがとう。」
「というわけで、さっさとその娘をこちらに渡してもらえるか?そいつには、もう買い手がついているもんでな。」
その言葉を聞いたレイナが即座に決断する。
「テータちゃん、その子連れてすぐに自宅に戻って。」
「レイナ様はどうするんですか?」
「こいつを倒してから戻る。いいから早くいきなさい。」
「(ちっ。めんどくさいことになりそうだ。)」
その会話を聞いていたスズメバチが、テータに向かい即座に発砲。
しかしレイナは、地面に落ちていた石を投げ、その銃弾の軌道を外した。
「テータ!早く!」
「は、はい!」
レイナの怒号を聞いたテータは少女を抱え自宅の方面へ走っていった。
しかし、スズメバチは動じることなく逃げるテータの背中に向け銃口を向ける。
「俺の射程範囲内であれば、逃げることは不可能。」
「やらせるわけないでしょ!」
レイナは、地面に落ちている石をスズメバチに向かって投げた。
その速度は、常軌を逸した速度。しかし、スズメバチは難なく外した。
「へえ、邪魔するのか。」
「可愛いお友達を殺されたくないのよ。ところであなた、何でこんなことに手を染めるの?」
「やけに、威圧的な質問だね。本来であれば教えてやることなどないが、冥途の土産に教えてやろう。『金』のためだよ。金持ちの変態貴族に売れば莫大な富を築くことができるんだ。」
「・・・。」
「それで俺は、女とウハウハできるってわけだよ。まさに最高のビジネスだよ。」
スズメバチは、嘲笑と共に楽しげに話していた。
その言葉を静かに聞いていたレイナは無表情になっていた。
「そう。それが、あなたの答えね。」
「さて、邪魔した罰だ。さっさと、殺してしまうか。いや、適度に分解して新しい顧客に売ってやるのもいいな。」
「黙りなさい。もうあなたにかける慈悲はないわ。」
「あ?(なんだ?妙に威圧感が増しただと?)」
レイナは、内心怒りで爆発しそうだったが、怒りに飲み込まれないように冷静に状況を分析し始めた。
「(さっきの二回の発砲、すべて正確に急所狙いだった。これは拳銃を使わせない戦法を執るしかないね。)」
こうして、『Hound Bug』幹部のスズメバチとレイナの対決が始まった。
しかし、この戦いをきっかけに、『Hound Bug』との全面戦争に発展することになるとは、今のレイナは知る由もないのであった。




