49.迷える心⑤
「……うん?」
「……お母さん?」
そこで、私はあることに気づいた。気配を感じたのだ。
この森に誰かが来た。私は、それを理解する。同時に思う。今この森を訪れるのが誰なのかと。
兄貴達だと考えるのは、少し無理がある。皆には、この森のことは話していない。流石にそんな状況で、この森を訪れると考えるべきではないだろう。
それなら、誰が来たのか。少し嫌な予感がする。
「ふっ……まさか、のこのこと出てきているとはな」
「しかも、あの子供だけだ。こんなにも好都合だと、思わず笑ってしまうな」
現れたのは、昼間に見た怪しい集団だった。やはり、こいつらが来てしまったようだ。
数としては、七人である。見覚えがある仮面をつけているので、恐らく昼間に負傷しなかった者達だろう。
「お母さん……」
「大丈夫、リルフは心配しないで……」
私は、リルフから体を離して、その前に立つ。ゆっくりと剣を引き抜き、構えを取る。
すると、怪しい集団から笑い声が聞こえ始めた。私の様子を見て、何か滑稽に思ったようである。
「ははは、まさか一人で俺達を相手できるとでも思っているのか?」
「子供は大人しく、家に帰ったらどうだ?」
「あまり舐めない方が、身のためだと思うけど? 昼間みたいに、なるかもしれないし?」
「何?」
私が煽るような表情を見せると、怪しい集団の態度は変わった。明らかに、少し怒っている。
どうやら、彼らは単純な人達であるようだ。こんな煽りに乗るなんて、いくらなんでも短絡的である。
「舐めた口を聞きやがって……その減らず口を今すぐに聞けなくさせてやる」
「……」
怒った一人の男が、私に向かってきた。その手には剣が握られている。
男は、私にその剣を振るってきた。真正面から一直線、非常に単純な攻撃だ。
「はあっ!」
「ぬうっ!?」
私は、その剣を受け流した。剣を受け止めながらその軌道をそらして、そのまま相手の懐に潜り込んで行く。
「やあっ!」
「ぐああっ!」
私は、自らの剣を振るって男の体を切り裂いた。肉を切り裂く感覚を覚えて、なんともいえない思いが芽生えてくる。
このように人を切るのは、初めての体験だ。今までこの剣術は何度か役に立ってきたが、人を切る機会はなかったのである。
わかったことは、人を切るというのはあまりいい感覚ではないということだ。できることなら、あまり味わいたくない感覚である。
「ぐああっ……」
「……」
だが、今はそんなことは気にしている場合ではない。相手は凶器と殺意を持って、こちらを攻撃してくる。そんな相手に対して躊躇えば、訪れるのは死だ。
私は、覚悟を決めることにする。この剣で、この者達を切ること私は躊躇わない。容赦情けなく、この者達と戦うのだ。
それが、自らの命を守ることに繋がる。何より、私の後ろにいるリルフを守ることに繋がっていくのだ。




