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第四十六話 愛着からの珍獣爆誕

 過酷な一日を、いつも通り気絶で終わらせた翌日、これまたいつも通りの日課を行っていた。


 ダブルパンチからのジョギング回収だ。


 ただ、昨日の増改築で堀を深くしてしまったせいで、ジョギングだけでは回収できなかった。どうするか悩んでいたところ、スライムさんが住処から抜け出して死体を持ち上げてくれたのだ。


 巨大な体を持つスライムさんは、細やかな気配りができる女の子のようだ。


「スライムさん、ありがとう!」


 感謝の気持ちを伝えると、ポヨーンと体を揺らして頷いている。そこも可愛らしい。


 ……あれ? ちょっと待て。昨日が過酷すぎたせいで感性がおかしくなっているのか、すでにスライムさんに愛着を持ち始めてしまっている。


 どうかスライムさんだけであってほしい。大っ嫌いな蛇の可愛がり方は知らないぞ……。


 とりあえず冷静になるために開墾したまま放置されている木材や、薬草や食べられる野草などを拾いに行こう。戻ってきたときにはきっと冷静になっているはずだ。


 ◇


 結局、冷静になって考えてもスライムさんは可愛いという答えに行き着いた。


 何故かって? 


 冷静になるための木材回収も手伝ってくれたからだ。森を荒れたままにしないように、森魔術を使用して削れた地面に芝生を植えたり、地魔術で地面をならしたりしているときに護衛をしてくれていた。


 リムくんは召喚したあと、爆睡中のラビくんのところに置いてきたから側にはいない。だからこそ、この気配りは嬉しかった。


 まぁ元々スライムに抵抗はなく、巨大なだけだから可愛いと思えるのかもしれないな。


「そういえばエルフの死体を持っているんだけど、丸ごと吸収したら変身とかできる?」


「…………!」(ポヨーン!)


 頷いているってことかな? この子はまだ心話スキルが上手く機能しないから、正解かどうか分からないのだ。


「この五人の中でどれがいい? ちなみに分かりにくいと思うけど、女は二人だけだからね!」


 エルフの美点である容姿端麗な顔だが、整いすぎて中性的に見える。しかも男も普通に長髪だから、他の特徴で男女を判断しなければいけないのだが、男女ともに細身という特徴では服の上から判断するのは困難を極める。


 実際、種族間の問題でエルフの性別判断が難しい上、デリケートだから要注意と伯爵家の本に書かれていた。


 エルフに分かりやすい特徴はない。


 ――ん? 胸はどうかって? 


 中性的です。この答え以外は持ち合わせていない。つまりは種族間問題の地雷はエルフの胸問題ということだ。


 今回は裸に剥いてしまっているから間違えることなく女性の数を把握できたが、服を着ているときに全員男だと思っていたのは仕方がないことだと思う。


「ん? どうしたの?」


 スライムさんが洞窟の北側を指し示している。エルフを選んでいたはずだけど、気になったからエルフをしまって北側に移動する。


「ボォォォォーー!」


「え? もしかしてエルフが欲しいの?」


 ピシッ! 地面を一度叩いた。


 取引のときの返事と同じなら、イエスということだ。


「じゃあ分け合ってくれたまえ! たぶんまた手に入ると思うから喧嘩しないでね!」


 コイツらが帰還しなかった場合、追加の人員を送るのは目に見えている。今の内に檻でも造って、ハイドラさんに檻に詰め込んでもらうようにお願いしようかな。


 ちなみに、エルフを吸収してもスキルと魔力は俺がもらったからどれも同じと伝えたが、二体ともかなり迷っているようだ。


 東洋人が欧米の顔の違いを判断しにくいような感じで、エルフも整いすぎて違いが分かりにくい。つまり、どれも同じだから迷う必要はないと言いたい。


 それでもなかなか決まらなかったから、朝の日課の続きや朝食の準備をしにいくことを告げ、その場を離れることにした。


 ◇


 数十分後、朝の日課を終わらせた後、二体の元に行くと答えを出し終えたようだった。


 女を一人ずつ分け合い、トレントさんが男を二人もらって合計三人のエルフを吸収しているところだ。もちろん、スライムさんも二人のエルフを吸収している。


 トレントさんはイレギュラーだったけど、スライムさんには通訳ができたら便利だと思って提案してみたのだが、吸収しただけでは話せないのでは? と不安がよぎる。


「おっはよーー!」「ガウゥーー!」


 どうなるか期待と不安を抱きながら二体を観察していると、モフモフ寝ぼすけたちが起きてきた。いっぱい寝て満足したのか、元気いっぱいで朝のあいさつをしている。


 それもハイドラたちも含めて、一人一人にあいさつしているのだ。


 朝のあいさつ回りは、ラビくんがエグいダブルパンチを見なくて済むよう考えた日課らしいが、洞窟の周囲をあいさつして回るから結局見るハメになっていた。


 たまにドジっ子のようなヌケているところがあって、とても可愛いモフモフなのだ。

 まぁたまに悪魔に見えなくもないけどね。最近は特に酷かった。ワニから始まり蛇で終わるという爬虫類地獄を味わったからな。


「何してるのーー?」


 あいさつ回りを終えたラビくんが、リムくんの背中に乗ってやってきた。


 ラビくんにエルフの死体の処理をしていることを説明すると、やっぱり同じように「何でトレントさんも?」と気になっていた。


 仮にトレントさんが人型になったとしたら、俺は困り事しかないよ? 災害級の脅威度六の魔物がいても平気だったのは、あまり動かない植物型で近づかなければ良いと思ってたからだ。


 動いたら恐怖でしかないし、木材がもらえなくなるではないか。さすがに「腕、ちょうだい!」とは言えないよ?


「あっ! トレントさんが……!」


 ラビくんは何かに気づいたようだけど、俺にはまだ変化がないように見える。しいて言うなら、幹の色が薄くなったような気がしないでもない。気のせいかもしれないけど。


「スライムさんも……!」


「ラビくん、何か変わった?」


「全然違うよ? スライムさんは格に関しては変化はないけど、エルフの知識を吸収しているみたいで、魔力の制御がスムーズになったよ!」


「つまり?」


「うーん、怪力自慢の脳筋がテクニックを覚えて頭脳派に転向した感じ?」


「それってもう別人じゃん!」


「それくらい違うんだよ!」


 今までは巨体と魔力量でボコボコにするタイプだったのかな? ポヨーンとかプルプルしている見た目に合わない戦闘スタイルなんだね。可愛いのは見た目だけってことかな。


「まぁ元々そういう種族だったからね!」


「そういえばスライムさんと蛙さんの種族をまだ聞いてなかったね。ラビくん知ってる?」


「もちろん! スライムさんは脅威度五の【狂将粘体】バーサクスライムだよ! 蛙さんは脅威度五の【貴婦蛙】メーテルフロッグだね! さすが魔境! 脅威度が高い魔物や魔獣がたくさんいるね!」


 舐めてたわけじゃないけど、魔境だとしてもいすぎじゃないか? 未踏破領域でも、ここはまだ中層なのだ。普通は脅威度四くらいが群れでいる程度だろ……。


「……嬉しそうだね。それと種族名の前になんかついてるけど、どういう意味なの?」


「いろんな魔物が見れて嬉しいよ! 昔は特別な日を除いて引きこもっていたからね!」


 ……不憫な子だ。監禁でもされてたのかな? じゃなきゃこんな活発な子が引きこもるはずないよな。


「それで種族名の前の二つ名みたいなものについてだけど、これは種族に対しての二つ名だよ。普通は個人につけられるものだけど、魔物の場合は二つ名の代わりに『名前』がつけられるからね! だから、最上位の危険な魔物は二つ名付き種族のネームドになるかな! まぁ単純に場所ごとに呼び名が違うだけの場合もあるけど、脅威度五以上は二つ名で間違いないよ!」


「じゃあトレントさんは?」


「うーん……今の状態なら知性の持ち主だから脅威度が高い割りに危険度は低いから、二つ名はついていないよ。トレントさんが怒るときは、森の怒りの代弁みたいなものだからね!」


「さすがラビくん! 相変わらずいろいろ知ってるね! ラビペディア大先生だね!」


「いや~! 照れる~!」


 可愛い。


 照れて顔を隠すときはいつも耳を引っ張って、耳で顔を隠しているのだが、それが堪らなく可愛い。


「ふむ。動かしにくいな」


「――ん? どなた?」


「吾輩か? トレントだ。いや、もう違うのか?」


「――はっ? なんて?」


 エルフによく似た全裸の男性が目の前に立っている。違うところは多々あるが、美男であることと長めの耳のおかげでエルフに見える。


 違うところは細身のエルフとは違い、体が大きいところ。決してゴリマッチョではなく、引き締まった筋肉なのだ。


 さらに緑髪に色白が基本のエルフとは違い、ダークエルフらしい褐色肌をしている。しかし、髪色はダークエルフとも違う。誰に似ているかと言えば、俺に似ていると思う。


 ラビくんと従魔契約をした後、元々の深緑色の髪に銀色のメッシュが入ったのだが、トレントさんは黒に近い深緑色の髪の毛先が赤くなっている。


 トレントさんの全体像をよく見れば、体全体で元々の樹を表していることがわかる。髪は葉や実を表している色なのだろう。


 ただ、何故か瞳の色が俺と同じで天色で、額から二本の角が生えている。俺はまだどこからも生えてないよ?


「……ラビくん。どういうことかな?」


「……不思議なことってあるんだね! ぼくにわかることは、トレントさんが希少種である【森守(もりもり)】エントになったっていうことだけ。危険度は上がるけど、脅威度の表記に変化はないんだな! だってほとんどいないから、いないものとして扱われてるんだよね!」


「……なるほど! いないものを生み出したのはリムくんに次いで二回目だ。以前よりも冷静でいられたのは、対処法を知っているからだ! ということで、タマさん召喚!」


 ――《カスタマーサポート》――


「……はーい……。何かしらーー?」


「昨日もそうでしたけど、死にそうなほど疲れていますね。なんか呼ぶのが申し訳ないんですが……」


「……全てはドロン酒のためだからいいのよ」


「ドロン酒といえば、風魔術を習得したので冷たいドロン酒を御馳走できますよ。複合属性のコツは掴んでいるんで!」


「それを早く言いなさいよ! それで何? 何で呼んだのよ!?」


 ドロン酒の新しい飲み方を言っただけで元気になったタマさんに若干呆れつつ、トレントの変化について説明するのだった。



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