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第四十七話 真正からの能力吸収

「ふーん。なるほどね。このエントは新種だから、エントと言い切る自信はないわ。本来のエントはもっと植物に近い姿をしているからね」


「たとえば?」


「髪の毛が葉っぱとか、体は節くれ立っていて幹や枝を思わせるのよ。彼はどう見ても混血のダークエルフに見えるわね」


「角が生えてますよ?」


「先祖返りの下位互換に上位血統というものがあるんだけど、エルフやダークエルフの上位血統の証明が角の有無なのよ。最大で三本の角が生えて、多いほど血が濃く力を強く受け継いでいると言われているの。だから、角くらいまでならエルフを吸収した影響だと予想できるのよ。過去にもトレントが人間を吸収した例はあったし。まぁエルダートレントだけだったけど」


「そうだよね! ぼくもエントになれるのはエルダートレントだけだと思ってたよ。魔力量の関係や魂の格の問題で!」


 また新種を生んじゃったみたいだな。でも、今回はスライムさんとトレントさんのお願いを聞いただけだから、俺は何もしていないはず。


「今はエルフを見た後だからエルフに寄っているだけで、能力を使うときはエントっぽくなるかもしれないわね。トレントとエントの変化も自由だし、今まで通り接していれば問題ないんじゃない。ただ、瞳の色とトレントの状態からエントになったのはあんたのせいよ」


「な、なんで!?」


「毎日毎日、特濃魔力水を上げてたら魔力量が増えるでしょう。魔力許容量が限界を迎えると、魔物は生存本能で勝手に格を上げるようになっているのよ。今は体が追いついていないから、エルダートレントになっていないだけ。竜種に例えるなら【真竜(オールド)】ってところかしらね。本当の意味での災害級よ」


 竜種の真竜って確か全盛期を意味して、老竜(エルダー)の一つ手前だったはず。ということは、このまま成長したら遠くない未来に、エルダートレントのエントという化け物になるわけだ。


 しかもエントとしての経験値は通常のエントよりも高いから、強力な化け物になる可能性大である。


 うん、気にしない方がいい。ここを離れて領域を譲ったら無関係になるのだから。


「トレントさん、おめでとうございます! これからもよろしくお願いしますね!」


「うむ。こちらこそ頼む。ただたまにでいいからドロン酒なるものを飲ませて欲しい」


「まぁ少しだけならいいですよ。ドロンの果実があまり多くないので」


 許可を出した瞬間、ラビくんたち呑兵衛三人組の視線が俺を射貫く。グサグサと責められているような視線に堪えながら、エントさんと良好な関係を築くよう会話を続ける。


 動ける災害級の相手は御免被るのだ。酒だけで回避できるなら惜しくなどない。


「ふむ……。ドロンの果実か……」


「他にも薬草が必要なんですよ。だから他のお酒も考えているんですが、最近忙しくて時間がなかったのですよ」


「なるほど。ところで、何故そのような話し方をしている?」


「年上ですし、格上の方が相手ですからね」


「ん? それはおかしいぞ。それならそこの狼殿も――「ぼくたちはまだ子どもなんだよ! ね! リムくん!」」


「……ガウ!」


 あれ? 二人に対して言ったのか? 指を差されていたのはラビくんだったような……? まぁいいか。


「アーク! 対等な取引をした相手なんだから、言葉遣いは気にしなくていいと思うよ! ね!」


「う、うむ」


「そういうことなら……」


 ラビくんの圧力がすごい。迫力はないけど、顔を近づけて訴える姿が有無を言わさないだけの圧があった。可愛いという圧が。


 ちなみに、スライムさんは死体の量が足りなかったのか、人の姿になることはなかった。でも死体は綺麗に片づいたから良しとしよう。


「そういえばエルフはあまり強くない個体だったけど、魔力もスキルも切り取れたのは何でですか?」


「あの三つの条件を満たしていたからよ。『解体』と言えばバラバラだけど、必要部分だけ抜き出すよう念じれば必ず切り取れるわよ。ただし、あんたも不満を感じたかもしれないけど、切り取ったものの山分けはできないから不便ではあるわ」


「じゃあバラバラの方がいいのか?」


「時と場合によるでしょ。今回は竜の素材を含む全てを手に入れたかったし、毒の除去もしたかったからバラバラが向いていたの。血液もスライム状で分けられているだろうから、あとで容器に移すだけで一滴残さず入手できるのよ? じゃあ素材に価値がない人間は?」


「……見たくない……。想像するのも嫌……」


「でしょ? その場合は必要なものだけ入手すればいいのよ。しかも、複数をイメージして切り取ることができるんだから。生存中は魔力か能力かだけで、人間の能力などに対しては干渉不可能な上に殺傷能力なし。三つの条件を満たしていない場合の死後は、死体の鮮度と個体の強さによって、確率や入手個数が変化するって思っておけばいいらしいわ」


 あれ? 能力は生存中しか切り取れないのでは? と今更疑問に思い、確認してみることに。


「あぁ……あれ。製作者曰く、あれは誤情報らしいわ。ドM勇者は脳筋傾向が強いナイフ使いだったんだけど、素材をちまちま切り刻むのよ。武器の性質上仕方がないんだけど、神器をずっと使っていたせいで死ぬまで戦闘スタイルに変化がなかったわ。まぁ魔力や魔眼などを優先して取っていたから、魔術を使うようにはなっていたけどね。それに解体はお付きの人の仕事だったから、解体に神器は使われなかったのよねー」


「つまり条件を満たすことができなかったばかりか、死体からも能力を得たことがないから、生存中しか切り取れないと記録に残されたということですか?」


「大正解ーー! まぁ記録係はあたしじゃないから、予想でしかないけどねー! あとバラバラにして宝珠のようにした能力の保管期間も丸一日だから、早く吸収するなりした方がいいわよ。宝珠になっているものだけで、素材は気にしなくて大丈夫だから。血液の移し替えと毒の処理だけをやってしまいなさい。そのあとにあたしから話があるから!」


 話か……。気になる。


 まぁその前にやることをやってしまおう。


 まずは毒や汚物に関しては、万能薬を入れたバケツに移してそのままゴミ処理施設に投棄。


 血液や眼球などの生もの系の素材は、ここ最近量産を続けている魔水晶製の大きい保存容器に詰めていく。血液はそのままで、眼球などは特濃魔力水で満たしてから。


 魔水晶を硝子の代わりに使用している理由は、透明であることはもちろん、地魔術で形を変えられるからだ。魔力訓練にもなるから一石二鳥である。


 ただ、今回のワニは大きさもさることながら素材の量も多く、追加で容器を作るはめになったのは言うまでもない。女王ワニの存在はまさに青天の霹靂だったのだ。


「ガウー、ガウガウーー!」


「ふむふむ! なるほど!」


「どうしたの?」


 詰め替え作業中にモフモフコンビが会議を重ねており、ようやく能力を食べてもらおうとしたのだが、まだ会議が続けられていた。


「リムくんは言っています! ワニの量が多いから、きっと能力は重複するでしょう! それなら、みんなで分け合おうと言っています!」


「……本当に?」


「なぁ! 疑ってるの!?」


「いや……流暢な話し方だなって……」


「会議の内容をまとめて、ぼくが代弁しているだけです! ね!」


「ガウ!」


 コクリと力強く頷き、リムくんはラビくんの意見を肯定していた。

 それを見たラビくんは、「ほらぁ」とドヤ顔を浮かべている。


「でも副作用がないのはリムくんだけで、他の子たちは痛いんだよ? やるかな?」


「力が欲しいもの、この指とまれ!」


 本来の大きさに戻ったリムくんの背中の上で短い手を上げ、遊びに誘うかのような呼びかけをした。指が小さすぎて、指というよりも手を上げているようにしか見えないところが可愛い。


 直後、スライムさんが掲げられたラビくんの手にちょこんと触れる。他のペットやエントさんはスライムさんの体に触れることで、代わりとしているようだ。


 果たして、全員参加型の能力獲得イベントが開催されることになった。


「ほらね! 世界五大魔境の魔物たちが多少の痛みなんか気にするはずないよ!」


「世界三大魔境……。知識として知ってはいたけど、まさか自分が住んでいる場所がそうだったとは……」


「まぁここはややこしい事情があるから、そんなに気にしなくてもいいと思うよ。それよりもみんなで分け合おうじゃないか! ぼくはいらないからね! 痛いのは嫌!」


「じゃあ魔力は全部リムくんでいい人!」


 全員が様々な方法で賛成を示したため、リムくんの口に二十一個の宝珠を放り込んでいく。


「なんか……狼に丸薬飲ませてる気分……」


「ガウゥゥゥーーー!」


 竜種の魔力を取り込んだことで、リムくんは爆発的な急成長を遂げていた。

 まずは発する魔力の量と密度が激変し、別の生物と言われた方が納得できる。リムくんは暇な時間を見つけてはラビくんに魔力操作を習っていたから、魔力圧縮をしていても発する魔力量が桁違いである。


 通常は魔力圧縮した分だけ魔力量が減ったように感じるのだが、リムくんの場合は焼け石に水状態だ。


「見た目も子狼の丸っこい可愛さが減って、精悍でたくましくなったね」


「ちょっと大きくなったしね! カッコいいよ!」


「ガウゥゥゥ~~~~!」


 両前足で顔を隠して照れを隠しているようだ。こういうところはまだ幼く見え、とても可愛いと思う。


「次は脅威度五のワイバーンとランスバイパーを片付けようか」


「それに脅威度六の子どもワニを追加して、それぞれ丸々一体ずつをスライムさんにあげたらどうかな? 変身できるんじゃないかな?」


「一体ずつでいいの? エルフは二人でも変身しなかったけど?」


「それは相性と格の違いのせいだから、今回は大丈夫だと思うよ。スライムさんたちは脅威度五だから、同格以上なら確実に吸収できるよ。エントさんとエルフは属性が近いから、格に差があっても不完全ながら人化できたんだよ」


「じゃあ一体ずつ出すから吸収していって!」


 巨体を持つ三種類の魔物の素材を丁寧に一体分ずつ並べ、保存容器に入れていたものも蓋を開けて提供した。


 個人的に大蛇が一体片づいたのはかなり嬉しかったけど、スライムさんに変身されたらどうしようという不安も同時に抱いている。


「変身しなくていいけど、できる気配ある? 足りなかったら追加で提供するよ?」


「デキル」


「しゃ、しゃべった!」


「エルフの死体も無駄ではなかったね! 片言だけど、話せるようになってよかったね!」


「ウン」


「か……可愛い」


 幼そうな声で返事やポヨーンと頷く姿が、とてつもなく可愛いのだ。巨体を持っているのに、小動物の愛くるしい動きがギャップを生み出し、可愛さを倍増させている。


「ゲコ……」「シュルルルゥゥ……」


「アーク! 二人が悲しんでるよ! 家族内で格差をつけるのは、典型的な虐待行為なんだよ! 特別扱いはダメだと思うよ!」


 好みの問題があると思うんだ……。


「ご、ごめんね……? 二人とはまだそんなに絡んでないだけだからね?! それからラビくん。特別扱いがダメなら、ドロン製品も平等に分配するからね!」


「そんなぁぁぁぁぁーーー!!!」


 洞窟周辺にラビくんの絶望の雄叫びが響くのだった。



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