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第四十二話 憤怒からの神器体験

 女王ワニは口から血を流しつつ、鋭い目つきで俺を睨みつけている。


「……怒らないでもらえるかな?」


「コロス」


「パードゥン?」


 耳に手を当て聞き返すも帰って来たのは毒の唾だけだった。


 いくら効かないと言ってもバッチイのは嫌だ。左にかわして魔術を叩き込もうとしたら、ゴーレムからの攻撃を抜けてきた一体の大蛇が口を開けて待っていた。


「連携取れるんかい!」


 俺を捉えて閉じようとする口に、棒術の訓練で使用している愛用の棍を縦に突っ込みつっかえ棒にする。イビルプラント製の棍は硬く、壊すのに時間がかかるから口に魔術を放り込む。


「水よ、飴よ、粘体を用いて、侵し苦しめよ《飴細工》」


 解体の時間がないから足止めしかできないのが辛い。でもさっきよりも大量に生み出した液体状の飴を大蛇の口に放りこみ、追加の詠唱をする。


「飴よ、強固な結束力を用いて、甘美なる至福なときを与えよ《地獄の甘味》」


 粘着力を高めた飴を口に放りこみ、大蛇が自分で口を閉じたあとは粘着力のせいで自分で口を開けることはできない。


 同じ事をもう一体の大蛇にも行う。

 フリーになった四体のゴーレムも含む八体のゴーレムで大蛇を押さえつけ、口を無理矢理開けたあと魔術を放り込む。あとはゴーレムが上顎を殴りつけて無理矢理口を閉じる。


「甘いかどうか知らないけど、飴でもなめて大人しく待ってろ!」


 この魔術は多めに魔力を入れておけば効果が続くから、飴の糸がなくても構わないのだ。魔力が切れて効果がなくなる前に女王をなんとかしなければ振り出しに戻ってしまうのだが。


「地よ、――《泥沼》」


 魔術の準備をした瞬間、女王が突っ込んで来たため魔術を変更して泥沼トラップを仕掛ける。


 元々沼地に住んでいるワニに効果がないとは思うが、速度を落とせればいいのだ。


 高速で突っ込んでくるジャンボジェット機サイズのワニは恐怖しかないんだよ? 止まっていてくれればなんとか堪えられるけど、動いている巨大ワニは恐怖の権化でしかない。


 さらに口を閉じた大蛇も突っ込んでくるという始末。ワイバーンを先に倒しておいてよかった。これで空から爆撃されたら詰む。


「水よ、飴よ、粘体を用いて、侵し苦しめよ《飴細工》」


 宙に浮かべた光り輝く液体状の飴を見た女王ワニが、あからさまに警戒を強めた。


「おや? トラウマになっちゃった? マジすまん! でも今日が過ぎたらもう見ることはないと思うよ」


 死ぬからな!


 口を閉じて防御態勢を取るが、構わず飴魔術を放つ。狙いは鼻の穴だ。口よりさらに無防備であり、脳に近い部分だ。


 あとは仕上げに槍を形成すれば討伐完了だが、同時に大蛇の討伐も終わらせなければ解体ができず水の泡だ。


 大蛇の攻撃を避けつつ、口に貼り付いている飴に糸をくっつけていく。


 あとは強固な槍を形成するために魔力を多めに使い圧縮していく。


 これがなかなかキツい。


 魔力の圧縮は訓練のおかげで前よりはスムーズにできるようになったが、俺の魔力の高まりを感じた女王ワニが泥沼トラップから脱出し、大蛇とともに猛攻をかけ始めた。


 巨大な肉体を持つ三体の攻撃を避けつつ、恐怖に負けずに集中し続け、飴の糸を切らずに魔術を用意する。


 はい、地獄です。


 五歳児にやらせることではない。モフモフの御褒美がなかったら、とっくに逃げ出しているわ。近くの村や町がどうなろうとも、全て魔王のせいにして逃げ去っているだろう。


「飴よ、刃を成して、花開け《薔薇細工》」


「グルオォォ……グウゥゥ……」


 薔薇のつぼみ状の槍が上顎を突き破り、狙いをはずさないように花びらを模した刃が広範囲に花開く。当然、頭蓋内は刃によってズタズタになる。そして絶命。


 三体同時に討伐を終えることができた。安心する前に神器を使い解体し、素材周辺を走り回って回収する。


「はぁーー。死ぬかと思った……」


「お疲れーー!」


 のんきなモフモフがリムくんの背に乗って現れた。今までどこにいたんだ?


「どこにいたの?」


「エルフ捕まえてた!」


「は? 何でエルフ?」


「獲物を横取りしようとしてたんだよ! アークが引きつけている間に狙撃して、そのあとは所有権を主張するつもりだったみたい!」


「それでそいつらは?」


「あそこ!」


 ラビくんが指差した場所はゴーレムの足元で、よくよく目をこらして見れば、ゴーレムに足を踏まれた状態で固定されていた。


 エルフはまだ諦めていないのか、ゴーレムに魔術をぶつけているようだ。でも脅威度五のランスバイパーの攻撃を喰らっても無傷だったゴーレムに風魔術が効くはずもなく、最後は足を踏まれた痛みと魔力枯渇で気絶していた。


 エルフの処遇だけど、盗賊行為は重罪で殺されても文句を言えないらしいから、俺も同じようにするつもりだ。


 竜種の素材が欲しいんじゃなくて、死と隣り合わせの状態で苦労して討伐したものを、子どもの陰に隠れて横からかっさらうようなヤツらには怒りしか湧かない。


 それに俺の情報を持ち帰られるのも困る。


「じゃあお金や装備を剥ぎ取って毒塗れの水場にドボンしよう!」


「そうしよう! ぼくの御馳走を奪うなんていい度胸だよ! お前たち(・・・・)も情報を流したら同じ目にあわせるからな!」


「ん? ラビくん、誰に言ってるの?」


「ん? まだ見ぬ盗賊だよ……ははは!」


 五人のエルフは全員気絶していたはずなのに、ラビくんが宙を見ながら警告していたから気になった。……何かいるの?


「もしかして、精霊?」


「え? 見えるの? 階級が低い契約精霊は他の人には見えないんだよ?」


「やっぱり精霊か。見えてないんだけど、魔力を広げると異物感があるような感じがするんだよね。しかもエルフだし。情報を持ち帰るなら今対処しないといけないよね?」


「契約精霊は契約主が死んだら契約が解除されるから、精霊視がない者には見えないんだ。話すのも無理。でも新しい契約主に言う可能性もあるから対処してもいいと思うけど……」


「ラビくんは嫌なんだね?」


「……うん。ダメかな?」


 可愛い。モジモジからの上目遣いとか反則だよ!


「エルフはラビくんが捕獲したんだから、コイツらをどうするかはラビくんに権利があるよ。エルフは俺の苦労を横取りしようとしたから助ける気はないけど」


「ありがとう!」


「どういたしまして」


 剥ぎ取りはラビくんも手伝ってくれたからすぐに終わり、今はゴーレムが全裸のエルフを運び、足を持って逆さ吊りの状態で水場の縁に立っている。


「ハングドマンの刑、執行!」


 タロットカードの『吊された男』の状態だ。


 女王ワニが産卵もしていた場所だから深さは十分だし、毒の威力も高いから苦しむ時間は短いと思う。


 ついでにバケツの中身を捨て、ナイフで毒抜きをして回収する。バケツは解体でも使うから何個あっても足りないのだ。

 でも触って手に毒がつくのも嫌だから、魔力水を少し混ぜて《操水》で水場に捨てていく。


「今日ほど魔力お化けでよかったって思う日はないな。魔力がなかったら死んでた」


「そうだね。あのおいしそうな魔術は初めて見たよ!」


「他に使っている人はいないの?」


「ぼくが知る限りはいないね!」


「じゃあ水魔術の強化って何になるの?」


「氷は複合だから……霧じゃないかな」


 マジか……。水魔術でできそうな気がするけど。


「あっ! 終わったみたいだよ!」


「じゃあ一人ずつ持ってきて。失礼しますよ」


 エルフの胸に神器を突き刺す。スキルと魔力を剥ぎ取るようイメージしてナイフを抜くと、ナイフの近くにスキル名と魔力量が表示されている光球が二つ浮いている。


「スキルは《弓術》で魔力量は一万くらいかな。あんまり多くないんだな」


「初期値が二百で赤子補正も二歳くらいから始めたにしては頑張っている方だと思うよ。エルフはあんまり魔物肉を食べなくて、竜種相当の高位の魔物しか興味がないからね。魔力は精霊頼みだし」


「そっか。じゃあリムくん」


「ガウガウ!」


 首を横に振るリムくん。


「《弓術》なんかもらっても使えないでしょ?」


 ラビくんが詳しい理由を通訳してくれる。


「魔力だけって無理なの?」


「ワニたちみたいに【宝珠】になってればできるけど、ナイフに纏わり付いている状態では無理だよ」


「じゃあ俺がもらうか」


「ガウ!」


 何気に初めて自分に刺すからビビってる。


「どこでもいいの?」


「うん。でも魔力とスキルなら胸に近いところに刺した方が短時間で済むよ。指先とかに刺すと、胸までの通り道全てに痛みが走るからおすすめしない」


 俺の考えを読んだかのようなアドバイスに内心で慌て、すぐに服をめくって胸に突き刺した。


「いったぁぁーー!」


 想像を絶するとは言わないけど、普通に刃物で切ったような痛みに焼き付くような痛みが加わった感じ。確かにまたコレを体験したいとは思わない。まだ気絶の方がマシだ。


「……ドM勇者スゲーー! マジ尊敬ーー!」


「次は何かな?」


「嫌な予感がするんだけど……。もしかしてラビくん、何が当たるか見えるの?」


「……勘だよ!」


「今の間は?」


「何でもないんだよ!」


 ぼくは嘘をついていないと証明するかのように目を見つめてくるラビくんが可愛くて、些細なことはどうでも良くなった。早く全て終わらせてモフモフタイムを味わうんだ。


「……次は何かなー!」


「ねー!」


 結果から言うと全て俺がもらうことになった。理由は一つを除き、狼には不要のものだったからだ。


 エルフから得たスキルは全部で五つ。強い個体なら複数手に入るらしいけど、彼らは強い個体ではないみたいでスキルと魔力だけだった。よくもまぁそれで竜種を討伐しようと思ったものだ。


 一つ目は《弓術》だったが、二つ目は《細剣術》で、三つ目は《操糸》。四つ目は《錬金》だ。《錬金》は唯一のユニークで当たりスキルだったが、物凄く痛かったからある意味はずれでもある。気絶するかと思うほどの痛みは前世の死因を思い出す。


 最後の五人目のスキルは《風魔術》で、魔力量も二万に届きそうだったからリムくんにあげようとした。

 だが、ラビくんがドロン酒造りで風魔術が使えれば良かったという話を覚えていて、「絶好の機会だから是非もらって欲しい」と、モフモフ二人に言われもらうことになったのだ。


 これでエルフは用済みなのだが、ここに捨てるのも良くないだろうから、我が家のスライムゴミ処理場で処分しよう。神器を使用したことで加工品扱いになった死体を《ストアハウス》にしまい、残った水場問題に取りかかることにする。



お読みいただきありがとうございます!

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