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第四十一話 釣りからの救援部隊

 嫌だけども進まなければならず、とりあえず前回来たときにも利用した丘の上に行くことにした。水場に変化がないかどうかを見てから作戦を練りたかったからだ。


 水場はあまり変化はなかった。


 時折、岩に何かがぶつかるような音が聞こえてくるが、標的が体当たりでもしているのだろう。


「作戦は?」


 ラビくんはワニ討伐作戦が気になるようだ。


「ワニを信じている」


「――はっ?」


 ラビくんに可哀想な子を見ているような顔で見られた。悲しすぎる。


「ワニは口を開く力が弱いらしい。俺がいたところはそうだった。こっちのワニはデカいから手で閉じるのは無理だと思うけど、この世界には魔法がある。口を雁字搦めにして最大の攻撃を封じてやろうと思っている!」


「どうやって?」


「釣りだ!」


「釣り? アイツを釣るの?」


「餌は用意した。口を通せるだけの穴を開けて腹ペコワニくんを捕獲してみせる!」


 水場に蓋をしてから食事をしていない可能性があり、目の前に肉の塊をぶら下げれば食いついてくると予想している。もちろん、俺の魔力という味付けをするつもりだ。


 地魔術の《重岩》に開いた穴を大きくして、地魔術《地槍》を待機状態にしておく。あとは大木を穴の上に倒して、オーク肉を縛り付けておけば完成。


「さぁ来い!」


 魔力水をドレッシング代わりに肉に振りかけ、少し穴の中にも垂らしておく。その効果は抜群で、すぐにワニが反応を示した。


 足場にしている漬物石が揺れるほど激しい振動が水場に広がり、直後に穴から口が飛び出してきた。


「喰らえ! 《地槍》杭バージョン!」


 比較的弱そうな下顎から槍を突き出し上顎を貫通させた。ここまでが前準備だ。


「森よ、蔦をもって、絡め取れ《花輪》」


 まるでリースを作っているかのように、杭を中心にして蔦がぐるぐると巻きついていく。ワニも異変に気づいたようだが、時すでに遅し。


「前足が短いワニさんには外せまい。さらに口枷をはめさせてもらおうかな」


 強度を上げるため魔力を多めに使って練っていく。ここで役に立つのは迷宮で訓練をしていた魔力圧縮。練っては圧縮しを数度繰り返し、地魔術を発動する。


「地よ、戒めの檻となって、封じ込めよ《禁獄》」


 ワニの口を上下から挟んで口を完全封印。


「よし! 出血をさせないように仕留めて行くとしようか。それにしても阿呆で助かった」


「ねぇ、アーク。あのワニの道と大きさ違うように見えるのは何でかな?」


「…………言うなよ……」


 分かってる。あの道を作ったヤツと比べると小さく感じている。つまり阿呆だと馬鹿にしているワニは別のワニで、はしゃいでいる場合ではないってことだ。


「とりあえずコイツを討伐すればクエスト達成だろ?」


「えーー! そうなの!? 原因は他にいるかもしれないんだよ?」


 間違いなくいる。


 というかそもそもの話、この水場の深さってどれくらいなんだ? まさかこの下に巨大なワニが隠れていて子どもを量産しているとかないよね? 無理だよ? 俺はまだ五歳児なんだよ?


「とりあえず腹ペコワニさんよ、さらばまた会う日まで!」


 比較的柔らかそうな目から、眼球を傷つけないように槍を突き刺した。狙うは脳。心臓は傷つけられないからな。血は貴重らしいから、消去法で脳になったのだ。


 体が跳ねるが、ギロチンみたく首から先しか出ていないし、凶悪な口は閉じているから意外と簡単に決着はついた。


 あとは新幹線並みに大きいワニさんを引きずり出して解体するだけ。しかも三分以内という制限付き。


「せーーの!」


 身体強化と滑車を使って引きずり上げて、即座に神器を使用し「解体」と言うと、一瞬光ったあと目の前には素材が部位ごとに並んでいた。


「おぉーー! すごい!」


 感動のままじっくり眺めていたいけど、何か嫌な予感がするから《ストアハウス》を使いながら素材の周囲を走り回る。


 そして嫌な予感は当たる。


 さっきのワニと全く同じ大きさのワニがオーク肉にかぶりついていた。バラバラになったワニくんは食事を途中でやめてしまったから、オーク肉はまだ半分以上残っていたのだ。


「……マジかよ……」


「アーク、もう一度!」


「……そうだね。でもその前に教えて。ワニの出産って何体産むの?」


 前世は数十個の卵を産むって言ってたよ? こっちも? アレを数十倒した後に母親と戦うのは無理だよ?


「うーん……個体差がある」


「平均的でいいから」


「魔境だったら十くらいだよ」


 ……マジか。せめて一桁までにしてくれれば、少しはやる気が出たのに……。


「アーク、もう十回!」


「……そうだね……」


 つまりは親はアレでは倒せないということか……。絶望しかない。


「こんなところで子ども産むなよーー!」


 絶望を振り払い怒りをぶつけるように討伐と解体を繰り返すこと十五回。ようやく子ども型のワニが途切れた。


 そう、子どもは全部で十六体もいたのだ。多すぎる。さすがに疲れたからドロンの干し果実を食べて休憩している。


「ラビくん、なんか静かになったから帰ってもいいんじゃないかな?」


「あれ? ぼくの耳は音を捉えているけど? ちなみに、うなり声だけど」


「……俺の腹の音だよ、それは」


「でもでも、岩にヒビが入った音が聞こえるよ?」


「……俺の……屁だ」


「……もう諦めよう。アークのために言っておくけど、あの下にいる母親は今までのようにはいかないよ。だって脅威度が上昇するからね。多分女王種だからさ!」


 クソーー! 


 やっぱり鬼の住処は天国だった。なんだこの過酷さは……。アイツを誘導して伯爵家にぶつけてしまいたい。


「グルオォォォォォーーーー!」


「女王復活の雄叫びだーーー!」


 なんでラビくんはワクワクしてるんだ? これが冒険に見えるかね?


「コドモ、ウバッタ、コロス」


「しゃべった! しかも罪悪感がある言い方すんな! こっちも被害を受けてるんだよ!」


 ジャンボジェット機みたいな体したワニが水場から出てきたせいで、水場の水位がかなり下がった。おかげで水場に住んでいる魔物の姿も複数確認できたのだが、全体的にかなり衰弱している。


 なんで食われていないのか不思議だけど、邪魔されないのなら放置でいいだろう。


「デカすぎる……。どう倒せば――」


 作戦を考える暇など与えてくれるはずもなく、咆哮(ブレス)を放ってきた。しかも換気口を開けた水の槍だ。


「ラビくん、コイツも食べるの?」


「もちろん! 命を無駄にしてはいけないよ!」


 いいことを言っているように見えるが、ただ単に食い意地が張っているだけ。しかもそのせいで難易度が高くなるんだよな。


 アレ使ってみるか。


「水よ、飴よ、粘体を用いて、侵し苦しめよ《飴細工》」


「うわぁぁーー! きれい! 美味しそーー!」


 食べれない飴細工を咆哮を放とうとする女王ワニの口に放りこむ。飴の先と俺の右手は飴でできた糸で繋がっており、追加で魔力を与え詠唱することで形を変える。


 投擲スキルで放り込んだ飴は女王ワニの喉に付着し、徐々に飴が広がっていく。


 まずはあのウザい咆哮を止めてやろうと思い、咆哮を発動するための魔力供給路を切断する予定だ。子どもたちと一緒で口の大きさの割りに前足が短いから、喉に貼り付いた物は取ることはできないはず。


「飴よ、刃を持って、切り刻め《硝子の王冠》」


 喉を一周した飴が王冠の飾りのように刃ができ、喉を突き刺し切り刻んだ。


「グウウウウウウッゥウゥーーーー!」


「い、痛そーー!」


 俺も同じ気持ちだけども、のんきに感想を言っている暇はない。痛みのせいで暴れる女王ワニは俺が作った壁の半分を破壊し、毒塗れの水を周囲にぶちまけている。


 破片や毒から避けなきゃいけないのに、ジャンボジェット機みたいな体の女王ワニの突進も避ける必要があって大忙しだ。


 今まで習熟してきた身体スキルが地味に良い仕事をしている。それにここまで無傷なのは、女王ワニが怒りに燃えて冷静でないことと、空を飛んでないことがかなり大きい。


「このまま行けばいいけどなぁ……」


「そうは問屋が卸さない!」


「だよねー!」


「女王の配下が来たよー! ワイバーンとランスバイパーだね。しかも二体ずつ! どっちも脅威度は五だから、ワニ親子よりはマシだと思うよ!」


「……蛇って言った?」


「うん! 毒持ちの蛇だよ! ワイバーンも尻尾の先に毒があるから気をつけて!」


「毒三昧かよ!」


 爬虫類しかいないんか! ワイバーンも恐竜顔だから爬虫類にしか見えないし!


「……帰りたい……。蛇は嫌だよ……」


「アーク、頑張って! 終わったらモフモフが待ってるよ! 巨大化リムくんがモフモフさせてくれるって!」


「ガウガウ!」


「いや、リムくんは参加してよ!」


「リムくんはぼくの護衛です!」


 ラビくんは戦えないのか? 前から謎なんだけど。


「地よ、巨腕を持って、鉄槌を下せ《巨兵拳槌》」


 ガントレット状のゴーレムで二体のワイバーンを地面に落とす。それも女王ワニの近くに。

 暴れている女王ワニに巻き込まれてくれることを祈っていたのだが、尻尾で飛ばされただけだった。救援にきたワイバーンにとっては不幸だったかもしれないが、踏み潰されろと念じていた俺にとっては残念でしかない。


「地よ、《岩石兵》。二体の蛇の足止めをしろ!」


 大蛇一体につき四体のゴーレムを出して足止めをし、意識が朦朧となっているワイバーンから先に仕留める。


 ワイバーンは時間稼ぎのために火の球を放つが、射線上に大蛇と女王ワニがいて、俺が避ける度に俺の代わりに喰らっていく。


「さらば!」


 喉の下から槍を突き刺し、《跳躍》でワイバーンの頭の上に行き、全力のストンピングを喰らわして槍を深くまで押し込む。


 絶命を確認する前に飛ぼうとしているもう一体に近づき、首にオークの骨で作ったメイスを叩き込む。オークメイスは砕け散るが、ワイバーンは脳震盪でも起こしたのかうつ伏せで倒れ伏した。


 眼球を傷つけないように目から槍を突き刺して討伐完了。もう一体もほぼ同じタイミングで絶命し、素早く解体を済ませる。


「あとは大蛇と女王ワニだけだ! 本当にキツい!」


 しかもワイバーンとの戦闘中に飴の糸が切れてしまった。つまりは、女王の復活だ。


「グルオォォォォォーーーー!」



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