第31話 聖女、魔印の力を使う
「うああああああ!」
「のほぉおおお! なにこりゅぇええ!」
「や、やめろぉおおおお」
「……南無三」
歪な熱気が牢獄へ充満し、冒険者達が光に包まれる。脳髄を溶かすかのように侵食していく光に、リーダーは悲鳴をあげ、町娘は蕩けたような表情となり、魔導師は脳内に潜む自身の悪意を削がれていく事に抵抗する。騎士風の男は既に悟りを開いている。彼、昨晩何かあったのかしら?
「ふっ、これがルーシアが持つ〝淫魔の力〟か」
「あの子は上級魔族だから、正確にはサキュバスではないんだけどね」
牢獄の外、ヴァプラ部長とグロリアが一部始終を観察している。グロリアは、改めて私が上級魔族であると部長へ進言してくれている。
聖属性のユニークスキル――〝聖女の閃光〟元は相手をゴロゴロさせ、戦意を喪失させる神秘の光。しかし、此処でそのまま放ってしまっては、サキュバスのような力を持った魔族だと思っているヴァプラ部長へ疑念を抱かせる事となる。
そのため今回、聖女の閃光へ私の中に刻まれたグロリアの魔力とを織り交ぜ、スキルを変化させる事へ成功したのである。今迄の聖光が〝聖女の閃光〟なら、今回の光は〝聖魔の閃光〟と言える。
「考えがまとまらねぇ……くそっ」
「身体が蕩けちゃうの……」
「あっしの悪意を削ぐなぁあああ」
「なんて清々しい日だ」
対象の戦意を喪失させ、ゴロゴロさせるスキル。元々重ねがけで相手を骨抜きにし、虜にさせるような効果は存在した。今回、グロリアの魔力が加わった事でスキルは更なる進化を遂げる。
「あなた達はこれから、今まで犯して来た罪を此処で全て吐き出すの。そしたら、もっといい気持ちになれるわよ?」
一人一人の前に立ち、問いかけていく。案外精神力はあるらしい。
「やめろ……こんな事には屈しねぇー」
「わ、わたし……」
「あっしはぁあ、あっしはぁあ」
「……」
成程ね、先ずはこの娘からかしらね。
「あら、あなたは素直みたいね。さぁ、どうなりたいの?」
「お姉様……キモチよく……なりたいです!」
「よく言えました!」
彼女の目隠しを取り、直接強力な光を浴びせかける。
魔族が持つ魔力が加わる事で、対象の脳髄を蕩けさせ、相手を文字通り骨抜きにしてしまう。
「あがががががががが、ああああああああ!」
全身の穴という穴から雫を溢し、白目になった彼女は気を失ってしまう。やり過ぎてしまったかもしれない。私のお腹に刻まれた魔印が疼いている事が原因だろうか。相手を蹂躙して高揚した気持ちになるなんて、この間迄の私じゃ考えられなかった。心の中で嘆息を漏らす私。
「女、ポニータに何をしたぁああああ!」
「あ、あっしも……あっしもーー」
「おい、グルコスミン、待て!」
リーダーと魔導師男が言い争いを始める。既に騎士風の男は目を閉じて瞑想している。最早冒険者達は私達の手中に堕ちてしまったようだ。
「はいはい、じゃあ僕ちゃん達、順番に気持ちよくなりましょうねぇ~~」
(え? 待って? 私何言ってるの? こんなの私じゃない)
私のお腹に刻まれた魔印が紫色の光を放ち、そのまま全身より桃色の光が放たれる。彼等はそのまま恍惚な表情で気を失い、普段使わない魔力を酷使した私もそのまま膝から頽れてしまう。
「ガハハハハハハハハハ! 嬢ちゃん、すげーな! 普段の聖母のような装いから本当に魔族か疑った事もあったが……。こりゃあ間違いなく、魔族の遣り口だ! 最高だぜ、ルーシア」
「ちょっと、ルーシア! 大丈夫?」
「ちょっとぉーやりすぎちゃいましたぁ~~」
この時、私の表情は酷く扇情的だったらしく、グロリアが下半身をモジモジさせつつ生唾を飲んだ事は言うまでもない。
そして……。
「ルーシア様、これが俺達がやって来た事の全てです」
「ねぇ~~ルーシア様ぁ~。もう反省するからぁ~。わたし一生ルーシア様についていっていいかなぁ~」
「悪い事をして来たあっしが馬鹿らしいっす」
「実に清々しい気分である」
文字通り悪堕ちした冒険者達は、私達……主に私の部下になりたいと懇願して来た。何度も光を浴びた彼等は最早私達を疑う事を知らない。今迄して来た罪を全て懺悔し、そして、悪堕ち……でも今迄悪い事して来た彼等が魔王の部下になって悪堕ちてって可笑しな話である。人間と魔族。どちらが悪か分からなくなる。
「まぁ、お前達に依頼した奴がそのブリーズディアの街の領主であるウイングランドっつーー侯爵だって裏は取れた訳だし、後は背後に潜む魔族を炙り出すだけだな?」
「そ、それなんすけど、あっし心当たりがあるっす」
「はい、グルコスミン君!」
ヴァプラ部長の発言を聞き、手を挙げるグルコスミン。発言を許可する先生のように、私が彼の発言を許可する。
「あっしら、獣人族の兎人や、エルフを売り捌く闇市へよく行ってたんすが、そこに烏の羽根を全身に纏ったような衣装を来た闇商人が居たっす。そいつ、裏で侯爵と繋がってる可能性があるっす」
その発言を聞いた瞬間、ヴァプラ部長が双眸を細め、眉尻を少しあげた。
「ほぅ……烏ねぇ……」
「烏……からす……まさか!」
グロリアも同時に叫声をあげる。
どうやら犯人の目星はついたようだ。後はどう敵を炙り出すか。どうやら直接対決の日は近いみたいです。




