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硝子の森と霧の夢  作者: LED
Opening Phase
5/43

5.ゲツエイ&トーマス編

Scene Character:ゲツエイ&トーマス(ゲツトマ)

Scene Player:カミユ 様

 森の中で、悲鳴がこだまする。

 山賊の頭領は何が起こっているのか理解できなかった。


「オイ、どうした? 何をやっている! 報告は? 首尾はッ!?

 何故どいつも返事しない!? 相手はたったの二人だろうがッ!?」


 薄汚い髭面から唾を撒き散らし、頭領は怒鳴った。

 50人いたはずの山賊団が、今や目の前にいる三人以外の姿が見えない。送り込んだ連中は戻って来ない。


 仲間たちの動きが途絶えたのを見て、部下たちはあからさまに怯えていた。

 頭領にもその恐怖は伝播し、唇を引き締めつつも震えと脂汗が止まらない。自分たちの縄張りに無謀にも侵入してきた、哀れなカモだったハズだ。自分たちは狩る側だったハズだ。

 それがどうだ。部下は一人、二人と減り続け――今や自分たちが狩られる側だ。


 ざん、と草を踏む音が聞こえた。

 仲間が帰って来たか? 一縷の望みを抱き、草むらから姿を現した者を見やる。


 ゾッとするほどの美しさを持つ、金髪碧眼の男だった。

 旅装束とは思えぬ上品な白服。森の中を歩いただろうに、奇妙な事に泥汚れ一つ、血の染みひとつとてない。

 特徴的なのは左眼を中心に顔の半分を覆う仮面――笑っているようにも見えるデザイン。

 しかし男の顔は冷たく無表情。


 態度からも、視線からも、山賊たちを見下している傲岸さがありありと分かる。

 虫けらか、塵芥を相手にするかの如く。言葉を発するのも物憂い様子だ。


「き、貴様は一体……!? オレの部下をどうした? 50人近くいたハズだぞ!」


「皆殺しにした」


 事もなげに。それが自然の摂理であるかのように。

 不遜なる男の物言いは、山賊たちにとって悪い冗談であるかのように聞こえる。

 しかしそれが事実だった。金髪碧眼の男――トーマスは、理不尽を絵に描いたような精神病質(サイコパス)である。

 何より恐ろしく厄介なのは、トーマスにはその理不尽を、絶対的な現実のものとする「力」がある事だ。


「何故だ! 何の目的でこんな事をするッ!?」

「先に襲ってきたのはお前らだろう」


 男は鬱陶しげにまとわりつく羽虫を振り払う。


 山賊の頭領は恐怖と混乱の極みにあった。襲われたからといって、50人近くを、皆殺しに、だと!?

 こいつは何を言っているのだ?


「く、くそッ! ふざけるなよ貴様ァ!?」


 悲鳴に近い抗議の声にも、トーマスはやれやれといった風に嘆息するだけだった。


 余裕が崩れぬその様子に恐慌をきたした山賊の部下たちが、トーマスに向かって襲いかかる。

 それよりも速く――森の闇から赤い残光が閃き、流麗な軌跡を描いて山賊たちの網膜に焼きついた。黒光りする「何か」が彼らの首筋を横切り、冷たい感触だけが撫でるように残る。

 刹那。部下たちは鮮血と意識を失い、魂さえも闇の中へと放り出して地面に倒れ込んだ。


「ひ、ヒイッ!?」


 山賊の頭領は絶望に血の気を失った。眼前には黒ずくめの赤毛の男。猫背であり、顔には鼻の長い、不気味な双角の生えた「能面」を身に着けている。


(な、何だコイツはッ……! 人間なのか……!? まるで化け物――)


 三人の部下を瞬殺した赤毛の仮面は、トーマスとは対照的に全身を返り血で朱に染めている。

 不気味な能面の裏で、嗜虐の笑みを浮かべる。殺戮に快楽を見出す獣。トーマスの忠実なる片割れ――ゲツエイである。


 ゲツエイは逃げ出そうとした頭領に、狼よりも素早く襲いかかり――喉笛に鉄爪を押し当て引き裂いた。

 恐怖に引きつった表情のまま、血を撒き散らし絶命した男の遺体に――ゲツエイは馬乗りになり、いつもの「行為」を始める。腸を引きずり出し、血を飲み、喰らい――絶頂を迎えるべく準備運動に入った。


(豚以下のゴミどもめ)


 ゲツエイの「食事風景」を視界に入れぬように、トーマスは山賊たちの所持品に手を伸ばした。

 50人からなる、深い森を根城にしていた山賊団は、相当猛威を振るっていたらしい。保存食と水を手に入れ見回せば、宝石などの略奪品も数多く貯め込まれている。


(俺様が有効活用してやろう。有難く思え――)


 傷物ばかりの宝石群のなかで、とある一品がトーマスの目を惹いた。それは、青紫色の美しくカットされた石が嵌めこまれた指輪。

 トーマスは知っている。タンザナイト――灰簾石(かいれんせき)と呼ばれるそれは、角度によって微妙に色を変える。宿す輝きの濃さからすると、相当な価値のある代物と言えるだろう。


「ふぅん。これは悪くないな」


 半ば自己陶酔気味にトーマスは、灰簾石(かいれんせき)の指輪を左の中指に嵌めた。

 途端に奇妙な感覚が全身を包む。一瞬ではあるが、激しい頭痛が彼の脳髄を襲った。


(!? これはッ…………!!)


 この感覚には既視感(デジャヴ)がある。魂が抜け落ちるような疲労と、一瞬の頭痛。

 それはこの世ならざる、異相の扉を開ける前兆。過去に幾度となく体験したそれは――


 異変に気づいたゲツエイが顔を上げ、口を血で染めたまま主人の顔を覗き込む。やがて――


 辺りに散乱していた筈の死体は、残らず消え去っていた。

 トーマスとゲツエイは、霧の漂う森の中にいた。


(つづく)

《 キャラクター紹介 》


名前:ゲツエイ/トーマス・ファン・ビセンテ・ラ・セルダ

出典:そしてふたりでワルツを http://ncode.syosetu.com/n9614dm/


年齢:20歳/22歳

性別:男性/男性


特徴:忍者。戦闘狂であり、殺戮に性的興奮を覚える。武器は鉄爪と小太刀

   (ゲツエイ)

   元国王。ナルシストのサイコパスであり自己中心的。武器は拳銃

   (トーマス)

備考:ゲツエイは言葉が話せないが、蜘蛛と意思疎通ができる。

   トーマスはゲツエイが手放せない。色んな意味で。

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