5.ゲツエイ&トーマス編
Scene Character:ゲツエイ&トーマス(ゲツトマ)
Scene Player:カミユ 様
森の中で、悲鳴がこだまする。
山賊の頭領は何が起こっているのか理解できなかった。
「オイ、どうした? 何をやっている! 報告は? 首尾はッ!?
何故どいつも返事しない!? 相手はたったの二人だろうがッ!?」
薄汚い髭面から唾を撒き散らし、頭領は怒鳴った。
50人いたはずの山賊団が、今や目の前にいる三人以外の姿が見えない。送り込んだ連中は戻って来ない。
仲間たちの動きが途絶えたのを見て、部下たちはあからさまに怯えていた。
頭領にもその恐怖は伝播し、唇を引き締めつつも震えと脂汗が止まらない。自分たちの縄張りに無謀にも侵入してきた、哀れなカモだったハズだ。自分たちは狩る側だったハズだ。
それがどうだ。部下は一人、二人と減り続け――今や自分たちが狩られる側だ。
ざん、と草を踏む音が聞こえた。
仲間が帰って来たか? 一縷の望みを抱き、草むらから姿を現した者を見やる。
ゾッとするほどの美しさを持つ、金髪碧眼の男だった。
旅装束とは思えぬ上品な白服。森の中を歩いただろうに、奇妙な事に泥汚れ一つ、血の染みひとつとてない。
特徴的なのは左眼を中心に顔の半分を覆う仮面――笑っているようにも見えるデザイン。
しかし男の顔は冷たく無表情。
態度からも、視線からも、山賊たちを見下している傲岸さがありありと分かる。
虫けらか、塵芥を相手にするかの如く。言葉を発するのも物憂い様子だ。
「き、貴様は一体……!? オレの部下をどうした? 50人近くいたハズだぞ!」
「皆殺しにした」
事もなげに。それが自然の摂理であるかのように。
不遜なる男の物言いは、山賊たちにとって悪い冗談であるかのように聞こえる。
しかしそれが事実だった。金髪碧眼の男――トーマスは、理不尽を絵に描いたような精神病質である。
何より恐ろしく厄介なのは、トーマスにはその理不尽を、絶対的な現実のものとする「力」がある事だ。
「何故だ! 何の目的でこんな事をするッ!?」
「先に襲ってきたのはお前らだろう」
男は鬱陶しげにまとわりつく羽虫を振り払う。
山賊の頭領は恐怖と混乱の極みにあった。襲われたからといって、50人近くを、皆殺しに、だと!?
こいつは何を言っているのだ?
「く、くそッ! ふざけるなよ貴様ァ!?」
悲鳴に近い抗議の声にも、トーマスはやれやれといった風に嘆息するだけだった。
余裕が崩れぬその様子に恐慌をきたした山賊の部下たちが、トーマスに向かって襲いかかる。
それよりも速く――森の闇から赤い残光が閃き、流麗な軌跡を描いて山賊たちの網膜に焼きついた。黒光りする「何か」が彼らの首筋を横切り、冷たい感触だけが撫でるように残る。
刹那。部下たちは鮮血と意識を失い、魂さえも闇の中へと放り出して地面に倒れ込んだ。
「ひ、ヒイッ!?」
山賊の頭領は絶望に血の気を失った。眼前には黒ずくめの赤毛の男。猫背であり、顔には鼻の長い、不気味な双角の生えた「能面」を身に着けている。
(な、何だコイツはッ……! 人間なのか……!? まるで化け物――)
三人の部下を瞬殺した赤毛の仮面は、トーマスとは対照的に全身を返り血で朱に染めている。
不気味な能面の裏で、嗜虐の笑みを浮かべる。殺戮に快楽を見出す獣。トーマスの忠実なる片割れ――ゲツエイである。
ゲツエイは逃げ出そうとした頭領に、狼よりも素早く襲いかかり――喉笛に鉄爪を押し当て引き裂いた。
恐怖に引きつった表情のまま、血を撒き散らし絶命した男の遺体に――ゲツエイは馬乗りになり、いつもの「行為」を始める。腸を引きずり出し、血を飲み、喰らい――絶頂を迎えるべく準備運動に入った。
(豚以下のゴミどもめ)
ゲツエイの「食事風景」を視界に入れぬように、トーマスは山賊たちの所持品に手を伸ばした。
50人からなる、深い森を根城にしていた山賊団は、相当猛威を振るっていたらしい。保存食と水を手に入れ見回せば、宝石などの略奪品も数多く貯め込まれている。
(俺様が有効活用してやろう。有難く思え――)
傷物ばかりの宝石群のなかで、とある一品がトーマスの目を惹いた。それは、青紫色の美しくカットされた石が嵌めこまれた指輪。
トーマスは知っている。タンザナイト――灰簾石と呼ばれるそれは、角度によって微妙に色を変える。宿す輝きの濃さからすると、相当な価値のある代物と言えるだろう。
「ふぅん。これは悪くないな」
半ば自己陶酔気味にトーマスは、灰簾石の指輪を左の中指に嵌めた。
途端に奇妙な感覚が全身を包む。一瞬ではあるが、激しい頭痛が彼の脳髄を襲った。
(!? これはッ…………!!)
この感覚には既視感がある。魂が抜け落ちるような疲労と、一瞬の頭痛。
それはこの世ならざる、異相の扉を開ける前兆。過去に幾度となく体験したそれは――
異変に気づいたゲツエイが顔を上げ、口を血で染めたまま主人の顔を覗き込む。やがて――
辺りに散乱していた筈の死体は、残らず消え去っていた。
トーマスとゲツエイは、霧の漂う森の中にいた。
(つづく)
《 キャラクター紹介 》
名前:ゲツエイ/トーマス・ファン・ビセンテ・ラ・セルダ
出典:そしてふたりでワルツを http://ncode.syosetu.com/n9614dm/
年齢:20歳/22歳
性別:男性/男性
特徴:忍者。戦闘狂であり、殺戮に性的興奮を覚える。武器は鉄爪と小太刀
(ゲツエイ)
元国王。ナルシストのサイコパスであり自己中心的。武器は拳銃
(トーマス)
備考:ゲツエイは言葉が話せないが、蜘蛛と意思疎通ができる。
トーマスはゲツエイが手放せない。色んな意味で。