表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
硝子の森と霧の夢  作者: LED
Ending Phase
41/43

04 霧降る夢の終焉(香梅)

Scene Character:香梅シャンメイ

Scene Player:石川 翠 様

 香梅(シャンメイ)は目覚めた。

 起きてみれば、いつもの自宅。宰相の屋敷の、自分の寝室だった。


「……夢、だったの……?」


 眠りに落ちるや、垣間見たあの光景、そして体験。

 香梅(シャンメイ)の今までの人生で、決して見た事のなかった、神秘的な極夜の世界。

 それでいて、奇妙なまでに真に迫った命懸けの冒険でもあった。

 硝子の森と、霧の夢――


 香梅(シャンメイ)は起き上がり、ベッドに置かれた枕を見た。

 先日、占い師の老婆から譲り受けた、夢を現実(うつつ)にするという「邯鄲(かんたん)の枕」。

 手触りが変わっている。香梅(シャンメイ)が手をやると、昨日は感じた硬い手応えがない。


(枕の中に、宝石が――きっとあの月長石(ムーンストーン)があったのね)


 月の満ち欠けで形を変えるという伝説のある宝石。

 それが香梅(シャンメイ)を「迷いの森」へと誘い、そして再び元の場所へと帰した。役目を終えた石は消滅したのだろう。


 ふと香梅(シャンメイ)は、寝間着姿にも関わらず手に包み袋を握りしめているのに気づいた。

 全く身に覚えのない物だが……懐かしい感じがする。


 袋の中身を空けてみると――人型をした焼き菓子が入っていた。

 可愛らしくデフォルメされているが、心なしか香梅(シャンメイ)によく似ている。


(これって……ティスが焼いてくれた姜饼(ジンジャ―ブレッド)……

 嘘みたい。でもあの体験は夢じゃなかったのね……)


 手のかかる可愛らしい妹が増えたような、心温まるミオソティスとの交流。

 クッキーに触れると、おぼろげだった森の中の記憶が鮮明に蘇るようであった。


**********


 香梅(シャンメイ)は、顔を洗っている時に気づいた。

 自慢の色鮮やかな手の爪紅が、所々剥げ落ちている事に。


(……これは、もう一度塗り直さなきゃいけないわね)


 香梅(シャンメイ)が普段施している化粧や身だしなみは、非常に手間と時間と根気のいる作業だ。

 それ故にそう簡単には洗い落とせない。夢の中でお菓子作りをした時にやむなく爪を切ったが……それはあくまで夢の中の出来事。よもや現実でも似たような難事が起きてしまうとは。


 ふと彼女は思い出した。占い師の老婆が「悩みを抱えているだろう?」と尋ねてきた事を。

 漠然とした不安はあったが、あの時は具体的に何の事か図りかねていた。


 しかしその日の朝。夫・雨仔(ユイザイ)と出くわし、彼から「手料理を食べてみたい」と申し出てきた時に――香梅(シャンメイ)の疑問は氷解した。

 何の事はない。自分の要望をなかなか表に出さない良人(おっと)に苛立ちを覚えていたのだ。

 そんな中、珍しく雨仔(ユイザイ)からの要望(リクエスト)があった。


 もともと料理をすることは嫌いではない。それに今ならば渡りに船だ。

 粉物が爪の間に入る為、料理するなら爪は切らねばならない。不格好に剥げた爪紅を洗い落とす手間が多少は減る。

 鈍っていた料理の勘も、「夢の中」での体験が取り戻させてくれる事だろう。


「本当に――夢が現実(うつつ)になるのね」

 考えれば考えるほど、不可思議な出来事だった。


 あの難儀な良人は何を出しても喜ぶだろうが、ここは腕によりをかけて甘やかしてやろう。

 香梅(シャンメイ)は袖をまくり、厨房へと向かうのだった。



(終劇)

香梅(シャンメイ)のエンディングは、

[連載版]龍の望み、翡翠の夢 番外編〜おまけの小話〜

48.一念通天(2月2日夫婦の日記念)と関連しています。

https://ncode.syosetu.com/n6097du/48/


石川 翠様、最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ