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硝子の森と霧の夢  作者: LED
Ending Phase
38/43

01 迷いの森、復活(全キャラクター)

Scene Character:全キャラクター(ティス、ジェレミー、香梅、ゲツトマ)

Scene Player:全プレイヤー

 後に知られる「迷いの森」の霧・暴走事件。

 「迷いの森」の管理者たる魔術師グリソゴノの決死の封印によって、地下の封玉廟(ほうぎょくびょう)で荒ぶっていた濃霧は鎮まった――と、極夜国(ノクス)の史書には記録されている。

 だが記されていない真実があった。異なる世界より招いた「外来者」たちの活躍が――


 ミオソティス、ジェレミア、香梅(シャンメイ)、そしてトーマスらは、地上の屋敷に戻っていた。

 事件が終息した今……帰る「時」を待つために。


**********


 黒曜石(オブシディアン)のアーテル。

 森を霧に閉ざす為に使用された四つの守護石に宿る、いにしえの石人(いしびと)の一人。


「外来者よ、感謝する。あなた方のお陰で、『迷いの森』は本来の機能を取り戻した。

 これからあなた方を『守護石』を持って森を訪れた『客人』として――責任を持って元来た『(せかい)』へ送り返す。

 ただ、くれぐれも――元の世界に戻るまで、手持ちの石を手放さないように。

 『それ』は、この森を行き来する為の大切な資格。資格なき者が極夜国(ノクス)の中心に入ろうとすれば、待っているのは死のみ――」


 彼女(アーテル)の声はミオソティス達の精神に等しく、はっきりと響いた。


「……随分と物騒な話ね?」香梅(シャンメイ)が呆れ声を上げた。


「これも私たち石人を自衛するため、やむなく施した機構(システム)なの。

 でも安心して? 命を奪うほどの罰は、あくまで無理矢理に極夜の地に足を踏み入れようとする不埒者に対してだけ。

 ただ迷い込んだだけの人間なら、危険な硝子(ガラス)の森に入るどころか、入り口近くで追い返される」


 アーテルの声は、怯える外来者たちの反応を楽しんでいる様でもあった。

 外来者である彼らの持つ「守護石」は、異界を渡り森へと到達する渡航状(パスポート)でもある。すなわち――

 生粋の石人であるミオソティスは、左眼の黒玉(ジェット)

 遍歴の聖堂騎士ジェレミアは、虹色黒曜石レインボーオブシディアンの護符。

 元妓女の宰相夫人・香梅(シャンメイ)は、月長石(ムーンストーン)の首飾り。

 流浪にして美貌の王族トーマスは、灰簾石(タンザナイト)の指輪。


 石人ではない三人にもたらされた三つの導具(アイテム)は、彼らを森へ招き入れる為それぞれの異界に派遣された「摩訶不思議」な奇跡であった。つまりアーテルの力の一端である。


「つまり、森の機能さえ正常化すれば――僕たちは待っているだけで元の世界に帰れる。そういう事ですね?」


 ジェレミアが尋ねると、アーテルから「その通りよ」と肯定が返ってきた。


「じゃあ、これで――ティスやみんなとも、お別れって訳ね……」


 香梅(シャンメイ)は名残惜しそうにミオソティスを見やり、射干玉(ぬばたま)の黒髪に触れる。

 石人の少女は今思い出したかのように、悲しげな表情になった。


「やっぱりみんな――元の世界に戻ったら私の事、忘れちゃうのかな?」


 忘れまいとしても、彼女の持つ黒玉(ジェット)の忘却の加護が働き――翌日には記憶が消失してしまうだろう。


「どうなの? アーテル」虚空に呼びかける香梅(シャンメイ)


黒玉(ジェット)の加護については――心配しなくてもいいわ」


 アーテルは不安がるミオソティスを、優しく諭すように言った。

 傍らにいる黒衣の老人グリソゴノも強く頷く。その意味する所をミオソティスは悟った。


(そっか……グリソゴノ様がいるから、彼の黒色金剛石(ブラックダイヤモンド)の力で、私の加護も中和できるんだわ)


「でもこの森での出来事は、二度とあなた達の現実(せかい)とは交わる事のない、夢の記憶。

 追体験できない思い出は次第に希薄になっていく。それはどんなモノにだって言える事よ」


 アーテルの言葉はすなわち、黒玉(ジェット)の妨げがない筈のミオソティス自身ですら、香梅(シャンメイ)たちを忘れ去ってしまう可能性を示唆している。


「そう――だったら。忘れないよう『証』を残しましょう」

姐姐(ジェジェ)。証って……?」


「そうね……何がいいかしら」


 香梅(シャンメイ)が考えていると――視界に炎の小人、精霊ヴェスタの姿が飛び込んできた。

 何か良い考えが浮かんだらしく、満面の笑みで得意げに胸を張っている――


**********


 皆で屋敷の外に出ると――どこからともかく、強い風が吹き込んできた。

 これは……前兆。「迷いの森」における、あてどない旅の終わりを告げるもの。

 ミオソティス達に、元の世界へ、元の時間へ――帰還する時が迫っている証だった。


「みんな、本当にありがとう。ジェレミアさんも。

 お菓子作りのこととか、色々と教えてくれて。

 トーマスさんも、グリソゴノさんも。ヴェスタの事も――私、絶対に忘れない」


 ミオソティスの顔には、すでに憂いは無かった。

 別れても、二度と再会する事はなくとも――この場所で皆に出会った事は、記憶として留められる。

 そう確信した笑顔であった。


「ええ――あたしも。皆の事、忘れないわ」香梅(シャンメイ)も頷いた。


「僕も、皆と出会えて良かった」薄く微笑んでジェレミアは言った。

香梅(シャンメイ)殿の支援、フォシル嬢の守護石の力――それにラ・セルダ殿の協力も。

 その全てが揃っていたからこそ、僕も十全に自分の役目を果たす事ができた。そう思っています」


 「聖典」に記されし礼節を重んじる聖堂騎士に相応しき、慇懃な別れの挨拶。

 そしてトーマスは、少し離れたところで腕を組んで俯いている。


 やがて……来る。それぞれの帰路が、強まる風と共に。

 グリソゴノが気づいた時には――「外来者」たちは霧に包まれ、姿を消していた。

 元来た「(せかい)」へ(かえ)ったのだ。


「…………ひとまずは、終わったか…………」


 黒衣の老人は大きく息を吐いた。酷く疲れている。

 彼ら「外来者」をこの森へ迎える為、アーテルに協力を仰ぎ――彼女の力を扱う為、残り少ない寿命の大半を失った。

 グリソゴノに残された時間はあと僅か。それすらも、森の安定化の為に捧げなければならない。


「……カエルラの企みを『知っていながら』加担した報い、なのだろうな」


 何故あの時、カエルラの嘆きに賛同し、彼女を「絡繰りの魔法使い」に引き合わせたのか。

 今となっては思い出せない。気紛れか。自分と同じ、半身と巡り合えぬ彼女に対する同情心か。

 いずれにせよ結果として、グリソゴノは多大な代償を支払った。「迷いの森」暴走事件の2年後、彼は命を終える事となる。


(つづく)

この後、各キャラクターの個別エンディングとなります。

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