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硝子の森と霧の夢  作者: LED
Climax Phase
33/43

06 王の役割(ゲツトマ)★

Scene Character:ゲツエイ&トーマス(ゲツトマ)

Scene Player:あっきコタロウ(旧カミユ)様


 純白の礼服(ジャケット)の背中に、青い刃が突き立てられていた。

 霧の中から、勝ち誇ったカエルラの哄笑が響き渡る。


「あははははッ! 『赤い霧』を生み出せばッ! そっちに注意が行くと思ってたよォ!

 でも残念だったねェ! ボクの燐灰石(アパタイト)は『惑わす』加護を持つ!

 霧の色を変化させるぐらい、お茶の子さいさいなのさァ!!」


 トーマスの背中は激しく流血し、周囲の石畳が黒く染まる。後ろからは見えないが、きっと美しい顔は歪みきり、苦悶の表情を浮かべていよう。

 カエルラはそれを想像し、嗜虐的な感情を膨らませ――刃をさらに食い込ませようとした。


 突如、霧の中から銃口が突き出し……爆音と共にほとばしる火花。

 銃弾は青い刃の中心部に突き刺さり、弾痕とヒビを生み出す!


「ぎッ…………!?」


 予想外の反撃と、激痛に襲われカエルラは奇怪な悲鳴を上げた。

 続けざま、2発、3発と――刀身に次々と穴が穿たれる!


「俺様を『呼んだ』のはこのためか」


 どこか遠く……さながら、世界へと語りかけるように呟いて、血を流すトーマスの横から現れたのは――もう一人(ホンモノ)のトーマス。

 拳銃を手に、月色の髪を揺らして。


 このカエルラとかいうペテン師を対処させるため。そのためにわざわざ異世界から人を呼ばなければならないとは。


「この世界も無能(ゴミ)の集まりだな」


「馬鹿な……じゃあこのトーマスは……偽者……!?

 斬りつけた手応えも、噴き出す血液すらも、本物同然の感触だったのに……!」

「フン。自ら『お手本』を披露して(グリソゴノに化けて)おいて、何を動揺している。ふざけてるのか?」


 問いつつも、答えは求めていないのだろう。

 やや眉間に皺を寄せているのは、自分そっくりの幻影が傷を負う姿に不快感を覚えたからか。


(そんなッ……ボクがグリソゴノに化けていたのを見ただけでェ……?

 あんなごく短い時間で、幻術使いのボクをも騙し得るほど精巧な幻影を……!?

 信じられないッ……何だ……なんなんだこの化け物はッ……!?)


 カエルラは改めて戦慄した。

 あの赤毛の忍者も人外だが、それ以上の怪物が――目の前にいたのだ。

 美しい仮面を被った、この世の全てを睥睨(へいげい)する暴帝が。


「お前、痛がってるのは演技じゃないだろう」


 断定。そして浮かぶ、残虐の瞳。他者の痛みを見るのが、一度や二度では無いように、慣れた様子で真実を見抜く。


「傷を負えば――死にはせずとも、それなりに消耗はするんだろ?」


 トーマスの持つ灰簾石(タンザナイト)の指輪が、彼の言葉を肯定する。銃弾で穿たれた部分から、激しく魔素が散り、力が失われていく様子を浮かび上がらせる。


 固体に化けた状態なら、霧の化け物といえども攻撃は通じる。

 そして、トーマスは呼ぶ。煩わしいものを排除する道具の名を。


「ゲツエイ! 殺れッ!」


 貴公子の処刑命令に、忠実なる影刃は即座に閃いた。

 鉄爪で刻まれ、深緋に輝く刀を以て――青い刃()は完全に打ち砕かれた。


『あァぎィやアアああアアッ!?!?』


 とびきり不快な断末魔の金切り声が辺りに響き、ゲツエイは恍惚とした表情を見せる。

 辺りに漂う攻撃的な魔素の気配が、消えた。


 トーマスとゲツエイの前に、燐灰石(アパタイト)のカエルラは再び敗れ去ったのだった。


**********


 封玉廟(ほうぎょくびょう)に辿り着いた。

 トーマスは持っていた黒色金剛石(ブラックダイヤモンド)の護符を、納められていた燐灰石(アパタイト)の上に押し付ける。

 消滅の加護を持つという護符。直接守護石に触れ合わせれば、そうそうおかしな真似はできまい。


 あの石人(グリソゴノ)は、霧に宿る感情とやらを鎮めなければ、事態は終息しないと言っていた。

 だがこれより先は、トーマスの役目ではない。


 ゴミはゴミ箱へ(・・・・・・・)

 溢れたゴミを拾い上げて片付けるのは、(支配者)のすることではない。

 王には王の。家畜には家畜の役割がある。


(――残る3つ。せいぜい上手くやって、俺様の負担を減らす努力をするんだな、外来者(ブタ)共)


(つづく)

《 おまけ 》

あっきコタロウ様より、今回のシーンの2ページ漫画を描いていただきました!

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

トーマスすっごーい! アリガトゴザイマス!!

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