01 封玉廟へ向かう(全キャラクター)
Scene Character:全キャラクター(ティス、ジェレミー、香梅、ゲツトマ)
Scene Player:全プレイヤー
「守護石を封じた四つの廟が地下に……」
ジェレミアは黒衣の老人・グリソゴノの言葉を反芻した。
「そして我々で、荒ぶる守護石を鎮めねばならないと。そういう訳ですね? アダマス殿」
「…………その通りだ」年老いた石人は頷いた。
「幾つか質問があります。答えられる範囲で構いませんが……
地下の封玉廟に至る道、あるいは廟に危険は伴わないのでしょうか?
僕のように戦いの心得のある聖堂騎士ならばともかく、フォシル嬢や香梅殿のように、か弱い淑女たちもいる訳です。
仮に四つの廟にそれぞれが向かう――という方針にする場合、不安が残るのではありませんか?」
ジェレミアの「危険が伴う」発言、根拠がない訳ではない。
現に森の中にいた時、グリソゴノになりすました謎の人物が存在したとトーマスが言っていたし、人を害する意思を持つ「血に飢えた霧」もジェレミアは確認している。
ミオソティスの屋敷に入って以来、彼らは鳴りを潜めているが……森を霧で閉ざすという目的が彼らにある以上、廟へ向かおうとするジェレミア達を妨害しないという保証はないのだ。
「危険が無い、とは言えぬ」グリソゴノは苦々しげに答えた。
「何しろ廟に封じられた守護石こそ、この森の霧を生み出す力の源である。
儂も地下を探ったが、屋敷を覆っていた霧以上に濃い魔素が漂っているのを見た」
グリソゴノはテーブルの上に、4つの黒色金剛石の護符を置いた。
「皆に身を清めて貰ったのも、霧の影響を少しでも和らげるため。
さらに皆には、守護石の力を打ち消すこの護符を携帯していただく。
これを身に着けていれば、我ら『墓守』の魔術師と同程度の加護が得られる筈だ」
「ふぅん。この護符があれば……霧の影響を防げるってワケね」
香梅はまじまじと、黒光りする宝石が嵌め込まれた護符を見やった。
ミオソティスはと言うと、己の左眼に持つ黒玉と重ね合わせているのだろうか、親近感に満ちた眼差しを向けていたりする。
「グリソゴノさん。別に四つそれぞれの廟を同時に、とか、時間制限がある、とかじゃあないんでしょう?」
香梅の問いに対し「そのような制約は無い」と、肯定の声が返る。
「だったら何もわざわざ、四人とも別行動取る必要なんて無いじゃない。
あたし達全員で、廟を一つずつ攻略していった方が、安全で確実だと思うんだけど」
「いや。二手に分かれた方がいい」
香梅の提案に異を唱えたのは、意外な事にそれまで沈黙を守っていたトーマスだった。
「時間制限があろうがなかろうが、四人全員で一つずつ、というのは非効率に過ぎる。
時間をかけるという事は、それだけ封玉廟の霧に晒される時間が長引くという事。
いかに守護石や清めの力があったとて、なるべく手間取らないに越した事はない」
理路整然たるトーマスの持論に、さらに追い風となったのはミオソティスの発言だった。
「わ、私も……トーマスさんの言うように、二手に分かれた方がいいと思う」
「ティス、貴女まで――」
「だって、その……」
ミオソティスは居心地が悪そうに、上目遣いで香梅を見やる。
その仕草で目敏い香梅は気づいた。心なしか彼女はトーマスから距離を取っている。
「二手に分かれた方が効率的……確かにその通りですね」
ジェレミアは進み出て、ミオソティスの前に跪いた。
「そういう事であれば、淑女をお守りする役目、どうかこの僕に――」
「ごっ、ごめんなさいジェレミアさん! 私、ええと……お、男の人が、その、苦手で……」
しどろもどろなミオソティスの拒絶に、ジェレミアは思わず目を見開いて固まった。
さっきまでのお菓子作りで精神的な距離が縮まったのではないかと考えていたので、まさか断られるとは思わなかったのだ。謝罪の言葉に応える声もどこか硬い。
ふ、と笑みを浮かべた香梅は、さりげなく石人の少女の隣に寄り添い、子供をあやすように言った。
「そういう事なら仕方ないわね。二手に分かれましょう。
でも組み分けは、あたしとティス。ジェレミアさんとトーマスさんって事で」
ミオソティスの「男性が苦手」という発言は、方便に過ぎない。
石人の少女は本能的にトーマスを警戒していた。彼の持つ妖艶な風貌、完璧すぎる物腰――それがかえって彼女の不安を煽る結果となった。
それを察した香梅は、自説を取り下げてミオソティスを守る役目を買って出る事にした。とばっちりで拒絶されてしまったジェレミアには気の毒であるが、この際仕方ないだろう。
「……で、ではアダマス殿。分かる範囲でいいのですが。
封印された守護石を持っていた、過去の石人たち――彼らはどのような人々だったのか、ご存知ではありませんか?」
ジェレミアの疑問に、グリソゴノは考えながらゆっくりと答えた。
「当時の記録は簡潔すぎ、儂も手に取るように把握できている訳ではない。
だが分かる範囲で良い、という事であれば――」
黒衣の老人の説明は、次の通りである。
彼らに共通するのは、グリソゴノと同様「魔術師」としての素質を持っていた事。
そしていずれも、守護石を封じるにあたり、寿命を迎えた石人たちであるという事。
黒曜石のアーテル。聡明で博学な才女だったと伝わっている。守護石の力は「摩訶不思議」。
燐灰石のカエルラ。情熱的で恋多き人物とされる。守護石の力は「惑わす」。
碧玉のルーフス。実直な若者だったらしい。守護石の力は「永遠の夢」。
楔石のウィリディス。社交的な教師で、外界の知識も深く学んでいたという。守護石の力は「永久不変」。
グリソゴノの言葉を受け――ミオソティスと香梅、ジェレミアとトーマスで分かれた一行は、意を決して地下の廟へと向かった。
(つづく)
アーテル、カエルラ、ルーフス、ウィリディスはラテン語でそれぞれ「黒、青、赤、緑」の意味です。