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硝子の森と霧の夢  作者: LED
Middle Phase 02
27/43

18 身を清める・後編(ジェレミー、ゲツトマ)

Scene Character:ジェレミア・リスタール(ジェレミー)、ゲツエイ&トーマス(ゲツトマ)

Scene Player:天界音楽 様、あっきコタロウ(旧カミユ)様

 男性陣の入浴時間となった。

 ジェレミアはグリソゴノと共に浴場に向かう。

 その途中、トーマスも誘ってはみたが「僕は体調が優れないので」とやんわり断られた。


「そうですか。先ほども食が進んでおられなかったようですし……

 お大事になさって下さい、ラ・セルダ殿」


 ジェレミアに労われ、曖昧に微笑むトーマスを残し、二人は入浴する事となった。


「先ほど石人の『半身』の話がありましたが……

 失礼ですが、アダマス殿に半身は……?」


 聖堂騎士の問いに、石人(いしびと)の老人グリソゴノはかぶりを振った。


「……いいや。儂には伴侶はいたが……半身ではなかった。

 もし妻が半身であったなら、儂は今、ここに生きてはおらんだろうよ。

 何故なら半身とは一心同体。片方が死ねば、もう片方も後を追うようにして逝く」


「半身は結びつきと、愛が強いのですね。まるでいにしえの恋の詩歌のようだ」

 ジェレミアは夢見るような口調で言った。


 妻について聞かれると、グリソゴノは昔を懐かしむように遠くを見つめ――懐からロケットを取り出した。

 中を開けると、小さな写真が入っている。微笑みながら佇む老夫婦。グリソゴノとその妻である。


「こんな小さなキャンバスに、ここまで精巧な絵を描けるとは……!

 極夜国(ノクス)には素晴らしい腕前の画家がいるのですね」

「そうか。ジェレミア殿はご存じないか……これは『写真』と呼ばれるモノでな。

 儂の世界の人間たちが近年、発明した技術。小さな箱型の機械を通じて、その場の風景や人物を、そのまま絵に落とし込む事ができる。しかも一瞬で」


 写真の素晴らしさにジェレミアは圧倒されていたが……やがて笑みを浮かべた。


「幸せそうな笑顔だ、二人とも。きっと良い夫婦生活を送られていたのでしょうね」

「……長い間二人で暮らしてきて、半身たちのような燃え上がるほどの喜びはなかったが。

 おおむね穏やかに過ごす事ができた。彼女は――我が安らぎと、心の拠り所だった」


 そう、グリソゴノにとって……妻との出会いと生活は、幸運と幸福だった。

 平穏な日々の中、不安がない訳ではなかった。夫婦生活が長引き、二人の時間が当然であればあるほど……もしどちらかが「半身」を見つけてしまったら? と考えない日はなかった。

 結局互いに半身を見出せなかった事は、彼らにとって本当に運が良かったと言える。


「ちょっとアンタたちィ! ヴェスタがせっかくお湯張りして待ってるんだからさァ!

 とっとと入りなさいよ! モタモタしてると冷めちゃうわヨ!」


 火の精霊ヴェスタが痺れを切らして、ソプラノ声で喚き散らした。


「ああ、すまないヴェスタ。今すぐ行くよ。

 僕たちの後にもお湯を沸かさなきゃならないんだろう?」


 ジェレミアが問いかけると、ヴェスタは首を振った。


「いいえ? お湯はもうこれ一回こっきり! 後から入るヤツ! トーマスだっけ?

 アイツ『ら』はお湯要らないってさ! だからヴェスタの仕事はこれでオシマイッ!」


 トーマスは湯を使わない? 奇妙な話ではあったが。

 ジェレミアとグリソゴノは急かす精霊に追い立てられるように浴場へと進んだ。


**********


 ジェレミアとグリソゴノの入浴が終わり、湯船はすっかり冷めきっていた。

 そこに衣服を纏ったまま、佇む者……トーマス。その背後には影のように寄り添うゲツエイがいる。


 ゲツエイは水浴びがしたいらしい。トーマスは無言でかぶりを振り、忍者の行動を許した。

 するとゲツエイは笑みを浮かべ、ざぶんと冷たい水の中に飛び込む。その様子は人というより、野生動物のそれだ。


(身を清める、というが……要は霧を掃えれば良いのだろう?

 ならば今の俺様に入浴など必要ない――わざわざそんな事をせずとも、『これ』で事足りる)


 トーマスは己の持つ灰簾石(タンザナイト)の指輪に視線を落とし――強く念じる。

 森を彷徨い歩いていた時に降りかかった、細かい霧の「魔素」が浮かび上がり、雲散霧消していった。


「…………フン」


 隣では水浴びを終え、水浸しとなったゲツエイが這い出してきて、凄まじい身震いで水を落としていた。

 辺りに水飛沫が盛大に飛び散る。トーマスにも届いたが……例によって拒絶の異能が飛沫を弾いた。


**********


 翌朝――いや、森の中は未だ霧に覆われ、昼夜の区別はつかないが。

 それだけの時間が経ち、皆が十分な休息を取ったと判断したのだろう。グリソゴノから皆に話をするため、再び客間に一同が集まった。


「霧を掃い、元の世界へ帰還するため。

 皆にはそれぞれの『役割』を果たしていただかねばならぬ」


 グリソゴノは厳かに言った。

 これから待ち受ける事。黒衣の老人が語る内容。

 それこそが今回の事件の核心であり、遠い異界から招かれた「外来者」である四人にとっての正念場であろう事は、容易に想像がついた。


「調査の結果、この屋敷の地下には――4つの(びょう)が存在する事が判った。

 森を霧で閉ざす際に封じられた、四人の偉大なる石人たち。彼らの持つ守護石を封じた廟」


 すなわち。

 「摩訶不思議」の加護を持つ黒曜石(オブシディアン)

 「惑わす」加護を持つ燐灰石(アパタイト)

 「永遠の夢」の加護持つ碧玉(ジャスパー)

 そして「永久不変」の加護を持つ楔石(スフェーン)


「皆にはこれから、地下の『封玉廟(ほうぎょくびょう)』へ赴いていただき――

 荒ぶる彼らの守護石の力を、鎮めてもらわねばならぬ」


(つづく)

《 選択肢 》


(全員共通)

どの守護石の封玉廟(ほうぎょくびょう)に向かうかを選んで下さい。


A.黒曜石(オブシディアン)(加護:摩訶不思議)

B.燐灰石(アパタイト)(加護:惑わす)

C.碧玉(ジャスパー)(加護:永遠の夢)

D.楔石(スフェーン)(加護:永久不変)


事前に他プレイヤーと相談・情報交換して示し合せてもOK!

4人それぞれが役割分担するもよし、全員で同じ石を狙うのもよし。

どんな選択になったかで話の展開もガラリと変わってきます。

(つまり「選ばない」という選択肢もあるにはあるw)

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