表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
硝子の森と霧の夢  作者: LED
Middle Phase 02
25/43

16 精霊への報酬・後編(ジェレミー、ティス)

Scene Character:ジェレミア・リスタール(ジェレミー)、ミオソティス(ティス)

Scene Player:天界音楽 様、貴様 二太郎 様


 香梅(シャンメイ)が作ろうとしている菓子は、東国において甜点心(ティエンティエンシン)と呼ばれる。

 点心はお菓子の意。加えて「甜」とは、文字が示す通り甘味の事だ。甘いお菓子全般を指すものとお考えいただきたい。


(本当に……便利な能力ね。望めばどこから湧いて来るのか。

 お菓子作りに必要な食材や器材が、きっちり揃っているんだもの)


 事前にジェレミアが何を作るつもりなのかも尋ね。

 彼の提案した内容を様々に思い浮かべた。中には香梅(シャンメイ)の世界には存在しなかった、謎めいた道具もあったが。


 向こうは向こうで、どのようなものを仕上げるつもりなのか。

 興味をそそられつつも、香梅(シャンメイ)は自分の調理を全うする事にした。


(砂糖も、黄油(バター)も、酸奶(ヨーグルト)も……本当に過不足なく何でもあるわね。

 品質も素晴らしいし……本当に、魔法の調理場って感じだわ)


 香梅(シャンメイ)は元・妓女(ぎじょ)だ。商売女として売られてくる前は、身分も低い庶民の出だった。

 つまり、家の手伝い・料理・その他諸々の雑用は一通り経験がある。遊女となってからはご無沙汰になってしまったが……それでも、家事全般の世話を焼く事じたいは、実は嫌いではない。


 調理の準備を進めるにつれ、香梅(シャンメイ)は懐かしい感覚に夢中になっていった。


**********


 一方ジェレミアはメレンゲ焼きに使用するメレンゲを作るため、ひたすら卵白をかき混ぜていた。


「ふむ……ツノが立ってきたな。そろそろいいだろう」


 ホイッパーを時々持ち上げては、メレンゲの固さを確認する作業を、かれこれ15分は続けている。

 単調な作業ではあるが、確かに重労働だ。それでもミオソティスは飽きもせず眺め続けていた。


 作り終えたメレンゲを専用の絞り口を使って、焼き釜に入れる板の上に乗せる。

 螺旋状の様々な形をしたメレンゲを前にして、石人の少女は歓声を上げた。


「わー、すっごい! 花のつぼみみたい……」

「おっと、まだ完成じゃないよ。これをオーブンに入れて、弱火でじっくり1時間半は焼くんだ」

「へえ……結構時間かかるのね」

「メレンゲはね。火加減を誤ると、外側だけ早く固まって中が柔らかいまま、とかなってしまうから……

 でもこれから作るパウンドケーキやロッククッキーは、もっと早く焼き上がるから」


 ふとミオソティスは、台所に並べられた器材のうちの一つに目をやった。


「ジェレミアさん。この人型みたいな道具はなぁに?」

「ああ、それは……薄く伸ばしたクッキー生地を、人間の形にするためのやつだね。

 ジンジャ―ブレッドマンとか、ジンジャーブレッドクッキーと呼ばれるものだ。

 焼き上げた後は、アイシングを用いて顔や衣装を『書いたり』するんだよ」

「面白そう! 私もやってみたいなぁ」


 食べ物というより、工芸品を作るような感覚。ミオソティスはとうとう好奇心が抑えられず、自分で伸ばし棒を取ってクッキー生地を平らにし始めた。


(みんなの顔を作ってみたいわ。このクッキーがあれば……私の事、みんなの事。

 ひょっとしたら、忘れずに覚えていてくれるかもしれない!)


 それは淡い期待であり、ミオソティス自身そこまで本気で考えていた訳ではなかったが。

 それでも調理に参加しているこの時間は、彼女にとって非常に楽しいものとなった。


**********


 数時間後。火の精霊ヴェスタの前に、山盛りに作られた中華風・西洋風の菓子が並んでいた。


 香梅(シャンメイ)が作った中華菓子は、次の通り。

 水粉湯円シヨイフエンタンユワン……いわゆる白玉団子。

 京菓(チンクオ)……果物の砂糖漬けだ。

 月餅(ユエピン)……その名の通り月餅。こちらは様々な凝った形や模様を備えており、香りだけでなく見た目も楽しめるものだった。


「ふわあ……姐姐(ジェジェ)すごい!

 果物や団子がこんなにキラキラ輝いて見えるなんて……!

 それにこの月餅……タペストリーの絵画みたいにきめ細かなデザインなのね」


 ミオソティスの素直な賛美に、香梅(シャンメイ)は胸を張った。


「ふっふん。味が楽しめないティスの為にも、せめて見た目に凝ろうと思ったのよ。もちろん味だって、一級品の出来栄えと保証させてもらうけどね!」


 そしてジェレミアが作った西洋菓子。

 卵白を泡立て焼き固めたメレンゲ焼き。

 四角い型に入れて焼き上げたパウンドケーキ。

 不揃いの岩石めいた形の茶色いロッククッキー。


「パウンドケーキは本当は寝かせてから食べた方が美味しいからね。注意して欲しい。本来なら、長期保存して取り置くための家庭用ケーキだから」


 そしてジェレミアから借り受けたクッキー生地を使い、ミオソティスが作り上げたのが――


「……これはもしや、我々の形をしたクッキーなのか?」


 グリソゴノが驚いた様子でまじまじと眺めていると、石人の少女は誇らしげに答えた。


「そうよ、私が作ったの。ジンジャーブレッドクッキーっていうのよ!」


 人型をした無数のクッキー。細かい装飾がアイシングされ、それぞれがその場にいる一同の姿を模したものとなっていた。愛らしくデフォルメされているものの、特徴を捉えた隙のない仕上がりだ。


「うっはー! ヴェスタのクッキーまである! すっごいワー!!」


 火の精霊は大喜びで自分の形をしたクッキーに飛びつき、うっとりした様子で口づけをしている。少し焦げた。


「どう?……これで合格かしら?」


 香梅(シャンメイ)の問いに、ヴェスタは文字通り舞い上がりながら答えた。


「合格も何も! とってもとっても楽しいワ! 調理の愛情! どっちもとっても超素敵!

 アンタたちの気持ちは受け取ったッ! ヴェスタ頑張っちゃう! もっと熱くなるわよォ!!」


 手間暇かけただけでなく、皆で楽しみながらこしらえた品々なのだ。

 ヴェスタのやる気を引き出すには十分すぎる。これで浴場の湯沸かしは滞りなく行われるだろうが……熱しすぎて火傷しないかの心配が必要かも、と香梅(シャンメイ)は思うのだった。


(つづく)

《 ボツになったNGネタ 》


「あれ? ホイップクリームは?」

「よくよくレシピを調べたら、どのお菓子にもホイップクリーム使わなかったでござる」

「もうホイップ丼でいいんじゃね? 丼の中に100%ホイップ入れるの。僕はよく食べる」

「そんなモン、人生で初耳だわw」

「ジェレミーちゃんの世界ではホイップ丼が一般的という設定が生えました」

「生えんな。ヤケになるな。っていうかどんだけホイップクリーム出したいんだよ!」


 ホイップクリームの用途とは?


トーマス「鼻につけるんだよ」

ジェレミア「何だって! それは本当かい!?」

グリソゴノ「(無言で鼻ホイップ)」

ミオソティス「(右に倣えで鼻ホイップ)」


 あーもうめちゃくちゃだよ(笑)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ