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硝子の森と霧の夢  作者: LED
Middle Phase 02
21/43

12 香梅の人物評(全キャラクター)

Scene Character:全キャラクター(ティス、ジェレミー、香梅、ゲツトマ)

Scene Player:全プレイヤー

 ジェレミアの放った黒術により動きを止められた赤い霧は、徐々にその色が薄れ、やがて見えなくなってしまった。

 と同時に、ジェレミアの感覚にまとわりついていた殺気もまた消え失せる。


(気配が消えた……術で動きを止めたのに、たとえ霧であろうと逃げおおせるハズがない)


 危機が去ったとはいえ、ジェレミアは奇怪な現象を訝しんだ。

 考えられるのは、霧自体を消滅させたという事。

 魔力を失い、存在を保てなくなるモノに対してまでは、さすがの黒術も効果が及ばないのだ。


 いっぽう香梅(シャンメイ)は、ジェレミアと名乗った美貌の騎士の姿――とりわけ、ふわりと目の前を横切る赤毛にどきりとした。

 赤毛といえば、すぐに思い出すのは夫の弟だ。西国でも珍しい髪色に、つい目が引かれてしまう。


 しかしその美しい髪は惜しげもなく短く切り揃えられ、物腰の落ち着き具合からは想像もつかないほどの紅顔の――少年、いや少女と言っても通じそうな風貌である。

 身に纏う厳つい鎧と、いまだ幼さの残るその顔があまりにもちぐはぐで、ふと香梅(シャンメイ)は可笑しく思えてしまった。


 森の草木を踏み分ける音がして、白い服を纏った麗人が新たに姿を現した。トーマスである。


「――そちらは片づいたのですか?」

「ラ・セルダ殿。ご無事でしたか。

 大丈夫です、ご安心ください。『赤い霧』は失せました。

 あちらの『偽者』はどうなりましたか?」


 ジェレミアは表向きは笑みを浮かべ、トーマスに呼びかけた。

 目の前の香梅(シャンメイ)、及び少し離れたミオソティス、グリソゴノにも聞こえるように。


「――いなくなりましたよ」


 トーマスはすでに、偽グリソゴノに見せた凶暴な本性を潜め、再び仮面を被っている。

 香梅(シャンメイ)は白服の貴公子を目にした瞬間、鳥肌が立つのを感じた。受けるのは強烈な違和感だ。

 硝煙の臭いが微かに鼻をつく。「いなくなった」という偽者相手に銃撃でも行ったのだろうか? その割には衣服に返り血の跡すらない。


(えっ……臭いが、消え……た……?)


 香梅(シャンメイ)がスンと鼻を利かせた次の瞬間、煙の臭いはしなくなった。

 気のせいだったのか? いや、違う。何故か分からないが確証がある。


(この男ももしかして、あたしと同じく『望んだ物体(モノ)を出没させる力』を持っている……?)


 彼女と同様、森に来てから与えられた力だろうか? それとも生来持っていた力?

 何にせよ、この麗人に気を許すべきではなさそうだ。


「こんにちは、騎士様。ジェレミア様、と呼んだ方がいいのかしら。

 あたしは香梅(シャンメイ)。向こうにいるのはミオソティスとグリソゴノさん。

 危ない所を助けていただき、感謝いたしますわ」


 当たり障りのない礼の言葉を述べつつ、香梅(シャンメイ)はジェレミアとトーマス、二人の男性を交互に見やるのだった。


**********


 美貌の貴公子はトーマスと名乗った。


 彼の取る一見紳士的な振る舞いに、普通の男性が持つべき「ある感情」が欠落している事を、香梅(シャンメイ)は鋭く見抜いていた。

 今彼女が身につけているのは、懐かしい妓女(ぎじょ)時代の衣装だ。つまり胸元が大きく開かれている。

 西国人の男も、東国人の男も――挨拶もそこそこに、自分の持つ柔らかそうな双丘に視線を釘付けになったものだ。

 自分の夫など初対面の時、湧き起こる性的好奇心を隠すことも出来ずにガン見だった。それこそ見られているこっちが呆れて冷めてしまうぐらいに。


 ところが、目の前の男からはそういう視線を感じない。もちろん、そういう種類の男はいるものだ。

 例えば夫の弟などは、『惚れた女以外に』完全に無関心であった。それと似ているようで、違う。目の前の男は――


(――『全てに』無関心、ってヤツね。これは)


 完璧に覆い隠しているが、この男はきっと他人への興味がとことん無い。

 それがわかるのは、香梅(シャンメイ)が人の感情に触れ慣れているゆえだろうか。


 潔癖症と呼ばれる部類の人たちを思い出す。彼らは完璧を求めすぎるあまり、どこか歪な心を持っている――とまで断ずるのは言い過ぎか。

 しかし妓女にとって、そうした類の連中に警戒を抱くのは当然である。

 男と女、一対一で直に肌を触れるところまで――無防備な姿で接さなければならないのだから。

 一見の客に危うく絞め殺されそうになった先輩の逸話を思い出してしまい、香梅(シャンメイ)は背筋が粟立った。


 その一方で、ジェレミアと名乗った騎士。

 当たり障りのない挨拶をすれば、柔らかな声音で返事が返ってくる。

 その声の低さを聞いて、香梅(シャンメイ)は一人納得する。このいかにも線の細い少女めいた人物は、立派な男であるのだと。

 この愛らしい容姿では、女性よりも男性に人気が出てしまいそうだ、などと倒錯した考えも浮かびはしたが。

 少なくとも腹の底で何を考えているのかわからぬ、あの白い服の高貴な男などよりはよほど信頼できそうに見える。


 香梅は相手を警戒させぬように距離を保ったまま、そっとミオソティスの手を握りしめた。


(大丈夫、この人はきっと悪い人ではないわ)


 小さく囁いてやれば、石人(いしびと)の少女の身体から少しだけ強張りが取れる。

 ミオソティスもまた不安だったのだろう。互いに挨拶を交わし、自己紹介の為口を開くのも最後であった。香梅(シャンメイ)の後押しに勇気づけられたのか、緊張がほぐれ声音にも柔らかさが戻ったように思う。


(もっとも――今、目に見えているだけが問題じゃあないようだけれど)


 香梅(シャンメイ)はちりちりと観察されるような視線を感じた。トーマスの頭上、ほんの一瞬であるが。

 この貴公子は、何か特別なものを飼っているのかもしれない。高貴な身分の人間に護衛がつくのは当然のこと。

 普段ならば気づかぬであろう視線に勘付いてしまったのは、ここが夢の中だからなのか。そっと小さくため息をついた。


 挨拶や紹介が一通り終わった後、黒衣の老人グリソゴノが厳かに口を開いた。


「ミオソティス殿、香梅(シャンメイ)殿。ジェレミア殿、そしてトーマス殿。

 あなた方『外来者』を、我が勝手な都合によりこの森に招き入れてしまった事、まずは深くお詫びしたい。

 だが我らの世界にあるこの森は、放置すれば霧が濃くなり、極夜国(ノクス)は外界と完全に隔絶されてしまう。

 それを防ぐためにあなた方を、守護石の力を用いて招き入れたのだ。あなた方全員の協力が必要なのだ。

 それが――我らを救う事に繋がり、あなた方が無事に元の世界へと帰る事にも繋がる」


 グリソゴノの言葉は優しく、真摯そのものではあったが――その実一方的な言い分でもある。

 未来の極夜国(ノクス)の住人たるミオソティスを除き、誰一人としてこの地の危機などに本来関わりがないのだから。

 にも関わらず、協力しなければ脱出する事もできず、永遠にこの森を彷徨う事になる。人によっては理不尽極まりない話と思う者もいる事だろう。


「お顔をお上げ下さい、アダマス殿」ジェレミアが言った。

「確かに偶然に選ばれ、この地に強制的に閉じ込められはしましたが――貴方が取った手段が間違っているとは、僕は思いません。

 我が世界の聖典にも、次のような言葉があります。

 『助けが必要であれば求めよ、それは恥ではない』

 『助けを求める者を見逃したり、見て見ぬふりをしてはならない』

 『いかなる事柄であれ、他者に理解を求めるならば言葉を尽くせ』――と。

 アダマス殿の抱える問題に、僕の力が役立てるのであれば、是非とも手助けをさせていただきたい」


 ジェレミアの協力的な言葉が呼び水となった。


「私はこれでも一応、極夜国(ノクス)の石人ですもの。森の危機を救う援助ができるというなら――

 私のこの黒玉(ジェット)の忘却の力が、役立てるというなら」

 ミオソティスは疎ましく思っていた己の力が必要とされている状況が嬉しいようで、弾んだ声を上げた。


「協力しなきゃ、夢から醒めないかもしれないんじゃ――仕方ないわね」

 と香梅(シャンメイ)。言葉とは裏腹に、ティスが元気を取り戻した事で薄く微笑んでいる。


「是非もありません」トーマスもにこやかに、賛同の意を示した。


 もっともトーマスや香梅(シャンメイ)の中には、元の世界に脱出する為の打算的な考えもあったろう。

 グリソゴノの言葉が真実か否かはまだ、この時点では判断がつかないが――確証もないのにいたずらに疑ってかかるのも悪手である。真実であった場合、現状の協力体制が最も効率的であるのは紛れもない事実であるのだから。


 グリソゴノは皆に礼を言い、案内すべく率先して歩き出した。

 目指すは「迷いの森」の中心部。硝子の森に覆われた――霧の中に垣間見える、夢の都。


(つづく)

《 選択肢 》


(全員共通)

次のシーン以降で「夢の都」……もっと言えば「ミオソティスの屋敷」のシーンとなります。


A.休息を取る

B.事件の真相を探る


ABいずれかのどちらに比重を置きたいかを選んでください。

具体的な内容(例:休息であれば入浴など)に希望があれば併記してください。

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